「クリーンな食事は健康にいいと思いますか?」
これは実際に2020年の研究で行われた調査なのだが、人々はどう答えただろうか?(R)
そんなの健康に決まってるじゃん、とおもうことなかれ。
71%の人々が健康だと答えた一方で、6%の人々は不健康だと答え、18%の人々は健康でもあり不健康でもあると答えた。
一見健康に見えるこのアプローチに対して、なぜ”不健康”と答える人がいるのだろう?
それは、食品を”クリーンな食事”に固執することが日常生活に歪みを生じさせ、過食に繋がることすらあることを知っているからであろう。
というのも、私もかつて”クリーンな食事”にこだわるあまり、過食にハマった張本人なのである。
ジャンクフードを生活から排除しようと試み、かえってドカ食いを引き起こし強烈な罪悪感に苛まれていた。
しかし、今ではドカ食いをしていない。もちろん、生きていればたまにハメを外して食べ過ぎてしまうことはある。
しかし、ドカ食い特有の”美味しさを感じないのに食べ続けその後強烈な罪悪感に苛まれる”ようなことは無くなった。
今回は過食の原因を探り、私がそこから抜けだした方法を紹介する回である。
というのも、文献や過食の体験談をまとめた本を読むと、過食にハマる人はわりと似たような思考パターンを持っていることがわかる。(R)
そして「過食の負のループを断ち切るにはどうすれば良いのか?」について考え抜き文献調査をして対処法を練りに練った。
そして、この対処法は”多かれ少なかれドカ食いに悩む人”すべてに通用するメソッドである。
ちなみに、この記事は本来有料マガジンだが、今回は全文無料公開する。
というのも、私は過食による罪悪感がQOLをいかに爆下げするかを知っているので、この記事で一人でも多くの人が過食から抜け出せるのなら、そうして欲しいと思っている。
マガジン登録してくれている人には申し訳ない気もするが、今回はご容赦いただきたい。
そして、免責事項として断っておくが私は摂食障害の専門医ではない。今回の話はあくまで”当事者目線の体験談”であり、これは医学の専門家による助言の代用にはならない、ということは宣言しておく。
何はともあれ、まずは「ボディメイクする人にとって過食は他人事ではない」という話題から入ろう。
拒食症とボディビルダーのマインドは酷似している
まず、ボディメイクする人にとって過食は決して他人事ではない。
というのも、拒食症とボディビルダーのマインドは驚くほど共通しており、そのマインドは一言で表すなら”ストイックすぎるダイエッター”である。
実際に2000年の研究で”拒食症の女性”と”ボディビルダー”の心理的特徴を比較した研究がある。(R)
まず一つ目の共通項として、ボディビルダーも拒食症の女性も”理想の体型=極端な痩せ”であることが挙げられる。
拒食症の女性と男性ボディビルダーはどちらも極度に完璧な体に対する文化的規範を持っており、どちらも極度の食事制限や過剰な運動、ステロイドの使用などの不健康な行動を行う
Davis C et al, 2000
そして、どちらも極端な痩せ体型を望んでいるので、当然その実現手段としてダイエットをしている。
そのため、しばしば過食の原因としてダイエットが叩かれることもある。(R)
実際に、ダイエットする人において多かれ少なかれ”ドカ食い”が起こるのは事実。
ダイエット中についドカ食いしてしまい罪悪感を感じた、という経験が一度も無いというダイエッターなどほぼ存在しないだろう。
とはいえ、逆は必ずしも成り立つとは限らない。
ダイエットすれば必ず過食になると言うわけではもちろんない。
つまるところ、ダイエット自体は過食の原因ではない。
実際に、減量を伴わない摂食障害に”オルトレキシア”というものがあるのだ。
”正しい”食事への過剰な執着、オルトレキシアという病
あまり知られていない摂食障害の1形態に”オルトレキシア(Ortholexia Nervosa)”と呼ばれるものがある。(R)
何やらヘンテコな名前だが”オルト=正しい”という意味があり、オルトレキシアの人は”正しい”食事に過剰な執着を持っている人々である。
ニューヨークで摂食障害治療を行っている”Center for DISCOVERY”から定義を引用しよう。
オルトレキシアは”健康的な食事/純粋な食品の消費”が生活に支障をきたすレベルで本人の考えに根付いていることが特徴である。
Center for DISCOVERY
オルトレキシアは2つの特徴がある。それは自分にとって”正しい食事理論”が存在すること。
そして、その正しい食事法を実践することで、生活に支障をきたすことである。
例としては、フルーツや野菜だけしか食べないベジタリアン、加工食品を一切口にしないパレオダイエッター、糖質は野菜すら全て排除する糖質制限者、などが挙げられる。
そして、最も重要なのがこれらの”理論”が正しいかどうかは問題ではないということである。
オルトレキシアの問題点は、食事理論を守ることを絶対視しすぎていること。
どんな理論であれ、厳格に守ろうとすれば食べられるものが制限され、当然生活も窮屈になる。
他人と食事もできないので、社会的な孤立を招く部分が特に問題視されている点。
日常生活なんか度外視で、何よりもダイエットを優先してしまう。
そして、この”融通の効かなさ”こそが過食の大きな問題点であり、今回のメインテーマになる。
カロリー制限で病的な食行動を引き起こすのは何か?
先ほどの2000年に行われた研究で、拒食症の女性とボディビルダーのもう一つの共通項として挙げられている特徴がある。
それが”強迫的(べき思考)で完璧主義”であるという特性。
特にボディメイク界隈では賛美されがちなこのストイックさだが、この特徴は強みもあるが、当然弱みもある。
ボディビルダーも拒食症の女性も、物事をルール化して強靭な意思力で実行することができる。
これは厳しい食事制限を敢行する上で強力な武器となり、どちらも実際に”ダイエット”という意味では成功しているのである。
しかし、同時に弱みもあり、それは完璧主義すぎてルールを守ることが強迫観念になっていることだ。
もちろん、現実の世界では”ダイエット理論”を忠実に守ることは非常に難しい。
この現実とのギャップは、結果として”過食やドカ食い(または拒食)”というダークサイドに繋がるのである。
このマインドは2016年の「なぜダイエットで摂食障害になる人とならない人がいるのか?」をまとめた論文では”白黒思考(Black-white thinking)”として指摘されている。(R)
これらのマインドは全部ひっくるめて”硬直思考(Rigid thinking)”と言われている。
平たくいえば、頭がかたく融通が効かない。多くのことを”0か100か”で考えており、グレーゾーンが存在しないのである。
過食の人は食品を”良い/悪い”に分類している
硬直思考の人にはどんな特徴があるのか?いくつかの論文からその特徴を抜粋しよう。(R、R、R、R、R)
- 食品にフォーカスしている
- ダイエットでは体重が減らず、体重維持も失敗することが多い
- BMIが高い
- 激しいドカ食いを頻繁に行っている
- 抑うつ傾向が高く、気分が落ち込みがちで不安を感じやすい
- 自分の体型への不満が大きい
硬直思考の人には2つの特性がある。
まず、1つ目の特性は食品を”良い/悪い”でカテゴライズしていること。
ダイエットでは食品にこだわる、いわゆる”フードフォーカス(Food Focus)”というやつ。
ダイエット中には食べて”良い/ダメ”の白黒思考で食べ物を分類する。
量は度外視で、”悪い”にカテゴライズされているものは1口でも食べればダイエットを失敗とみなしているのだ。
例えば、ラーメンやケーキが”悪い”食品にカテゴライズされていれば、ダイエット中は一切食べない。
そして、野菜やフルーツなどの”良い”食品にカテゴライズされているものだけで食事を満たそうとする。
そして2つ目の特性が、ダイエットの”オン/オフ”期も明確に分かれていることだ。ここでも白黒思考が顔を出す。
この特性は、長期的にみれば体重の増減を繰り返す”ヨーヨーダイエット”として出現する。
ボディビルダーの”増量期/減量期”も典型的なヨーヨーダイエットの一形態である。
そして、短期的なこの”オン/オフ”思考の代表格といえば”チートデイ”である。
週6日はダイエットのオン日で”良い食品”だけを食べ、週1回はチートデイとして”悪い食品”をドカ食いするのである。
そんな硬直思考の問題点は主に3つある。
まず一つ目は、硬直思考はルール外を許容できないので、ルールを破る場面を完全に排除する。
先ほど紹介したオルトレキシアの問題点もここにある。
なぜ仮に正しい理論だとしてもそれに執着することが問題視されているのか?
それは食事への執着が往々にして人間関係を破壊しかねないからである。
”クリーン”で”健康な”食事への執着心が、個人を友人、家族から孤立させ、患者の社会生活や人間関係に歪みを生じさせる
Center for DISCOVERY
というのも、ボディメイク界隈では見過ごされがちだが、厳然たる事実として食事というのは社会的要素がかなり強い。
友人/恋人/職場/家族/学校...どんな場面でも人と交流するときは食事が入り込んでくることが多いのである。
そんな中、食事理論を一切の間違いも許さず実践しようものなら、当然誰かと食事をすることは不可能に近い。
人間関係を犠牲にせざるを得ない。
ちなみに、それが可能な環境の人というのが一定数存在する。
プロのボディビルダーなどはダイエットを最優先しても日常生活は壊れない、周りもそれを承知しているからである。
しかし、現実問題としてほとんどの人はそうではない。
多くの人は社会生活を営んでおり、完璧な食事理論が存在したとして(私はそんなものが存在するとは思わないが)、その理論を100%実践しようとすれば、職場/学校/家族との人間関係が破壊されかねない。
当然そんなことはしたくないので、当たり前のこととして日常生活を優先する。
そんなとき、硬直思考の2つ目の弱点が現れる。
それは、ちょっとでもルールを守れないことが強烈な罪悪感を生み、急激に”オン→オフ”に移行すること。
すなわちドカ食いが起こる。
例えば、お菓子を禁止していたが、お土産で東京ばな奈を一つもらって食べてしまった...
そんなとき、硬直思考の人はダイエットを失敗とみなし、その日はオフ日に切り替えて急にドカ食いを始めるのである。
これは”どうにでもなれ効果”として知られている。
なぜこんなことが起こるのか?それは”ルールを破った罪悪感”を食事で穴埋めしようとするのである。(R)
つい食べてしまった罪悪感を、さらに食べることで埋めようとするのは明らかに不合理である。
しかし、脳からしたら、この作戦は不合理でもなんでもない。
というのも、食事を食べると脳の”報酬系”と呼ばれる場所が刺激され、一時的には気分がよくなるのである。(R)
しかし、仮に「今日はチートデイ」などと自分を正当化しているつもりでも、ドカ食いが終わった後に残るのは、さらに強い罪悪感である。
するとさらにドカ食いしたくなって...という悪循環に陥ることもあり、これは”ドカ食い・制限サイクル(binge restricting cycle)”などと呼ばれる。
実際に、この”ドカ食い・制限サイクル”から抜け出す方法として有名なのは”セルフコンパッション”である。(R)
いわゆる自分に優しくして罪悪感を少しでも軽減すると、次にドカ食いすることが減るのである。
しかし、多くの人はルールを破った罪悪感だけでは飽きたらず、自分を責めることでさらにストレスを上塗りする。
そうなると余計に食事で気晴らししたくなるだけで、”ドカ食い・制限サイクル”に陥るリスクが高くなるだけである。
しかし、セルフコンパッションはいわゆる”対処療法”でしかない。
そもそも、ある食品を食べただけでなぜ罪悪感を感じなければいけないのか?という話である。
もし何を食べても罪悪感を感じなければ、セルフコンパッションより強力な武器になりうる。
実際に、先ほどの硬直思考の特徴を思い出してほしい。
彼らは”フードフォーカス”しており、そのせいでドカ食いしているのである。
どんな食品が悪とされているかはダイエット理論によって異なる。
しかし、今回はおそらくダイエッターの99%が食べると罪悪感を感じるもの...すなわち”ジャンクフードについて考えてみよう。
もしも”ジャンクフード=悪”という呪いを解ければ、ちょっとお菓子を食べただけで罪悪感を感じ、急激なドカ食いに移行することもなくなるのではないだろうか。
仮にジャンクフードが肥満の原因だとしても、排除することが正しいとは限らない
エビデンスベースかどうか問わずフィットネス界隈で忌み嫌われる存在、それがジャンクフードである。
というのも、加工食品というのは私たちの脳にある”報酬系”と呼ばれる場所を、それはそれは強烈に刺激する存在だから。(R)
私たちが食事をしたとき、脳にある報酬系と呼ばれる場所でドーパミンが放出される。
つまるところ、文字通り食事を”報酬”とみなす部分で、私たちの”食べたい”というモチベーションを作る場所である。
そして、脂肪と糖質(と塩分)が豊富に含まれており、カロリー密度が高いもの...すなわちジャンクフードは脳の報酬系を強く刺激する作用がある。
となると当然また食べたくなるので、ジャンクフードは肥満の原因などと言われる。
この分野は細かく書くとキリがないが、超ざっくりいうと「美味しいものは食べすぎる」を脳科学でめちゃくちゃ理論武装しただけ。(この分野に興味がある人はこちらがオススメ→R)
そして、ジャンクフードが食べ過ぎを誘発し肥満の原因である、というのはわりと説得力のある話。
例えば、2019年の研究では「加工食品を食べると太る!」という研究が行われている。(R)
被験者となったのは成人20人で、実験条件は2つ。
- 2週間にわたって超加工食品だけを食べる
- 2週間にわたって加工されていない食品だけを食べる
ちなみに、この研究は片方の条件をやってから、もう一方の条件を行うというクロスオーバーデザインと呼ばれるもの。
被験者に1日3食好きなだけ食べてもらったところ、超加工食品だけを食べた条件のときは加工されていない食品を食べたときよりも1日508kcalも食べた量が多かったのである。
そして、2週間にわたりジャンクフードを食べたときは体重が増え、無加工食品だけを食べたときは体重が減ったのである。

つまるところ、超加工食品は食べ過ぎと体重増加に至った訳だが、これを理論的に説明するなら先ほどの脳科学を持ち出すのが妥当だろう。
しかし、こういった研究から「加工食品は避けるべき!」と主張するのは、私は間違っていると思う。
というのも、これらの研究は「物理的に加工食品が手に入る環境」と「物理的に加工食品がない環境」を比較しているに過ぎないからである。どういうことか?
例えば、幸いにもあなたの家にドラえもんがいたとて、あなたがもしもボックスで「加工食品の無い世界」を望むか、タイムマシンで「加工食品のない原始時代」に亡命すれば、加工食品は手に入らず肥満は解消されるだろう。
この研究が示しているのはそういうことである。
しかし、厳然たる事実として私たちの現実世界は加工食品に溢れているのである。
その上、加工食品というのは一部の上流階級が食べる特殊な食べ物ではなく、かなり一般的な食べものである。
まず第一に、加工食品を排除することは理論的に正しくても、それを実践することは現実とのギャップが相当に大きいということである。
そして、現実とのギャップはいたずらに罪悪感を生み、むしろドカ食いに繋がるだけである。
ボディメイク界隈の悪しき習慣だが、理論的に正しいかどうかばかり論じる理想主義者になっても仕方がない。
なぜ現実主義者的な立場をとって「加工食品に囲まれた現代でどう太らずに生きていくか?」を誰も考えないのか。
そして第二の問題点が「加工食品を手に入れようと思えば手に入る環境」で加工食品を排除しようとすることはそもそも人間心理的にうまくいかない。
例えば、2018年の研究では「カロリー密度の低い野菜やフルーツを増やそう」というアドバイスは被験者の長期的な減量と関係していたが「高カロリーの食事を減らそう」というアドバイスは減量をもたらさなかったのである。(R)
というのも、”何かを禁止すると逆に欲求が頭をもたげてくる”というのが人間心理であり、禁止目標がうまくいかないことは目標設定の世界でもよく知られている。
これはシロクマ効果(シロクマを考えないように指示されたら、むしろシロクマが頭から離れなくなった研究が名前の由来)やリバウンド効果と言われる。
他にも2008年の研究で、被験者にチョコレートを食べることを考えないように指示したところ、指示なしグループよりむしろチョコレートを食べる羽目になったことが報告されている。(R)
これは、制限系のダイエットをしたことがある人なら誰もが経験したことがあるはず。
糖質制限をすれば糖質を無性に食べたくなるし、脂質制限をすればコッテリした脂が恋しくなる。
そして、加工食品を禁止すれば加工食品を食べたくなるのである。
そして、先ほども言ったが現実問題として”私たちのいる世界は手に入れようと思えば禁止食品が手に入る”という環境にある。
そして禁止されたことでブーストされた欲求に負けてしまうときがある。そんなとき、第3の問題が生じる。
少しでも食べてしまえばたちまち理論に反したことに罪悪感を感じ、やめておけばいいものをドカ食いを始めてしまい、さらに罪悪感を感じるのでドカ食いをする...というループにハマるのである。
そんなとき、誰もが自分のストイックさが足りなくて正しいダイエット理論を守れないのがダイエット失敗の原因だと考える。
しかし、実際には現実を度外視しダイエット理論の正しさだけを追うからダイエットが失敗するのである。
逆に言えば、フードフォーカスをやめ、食品の制限が一切なく、日常と調和するダイエット…そういうダイエットこそが短期的にも長期的にも痩せるダイエットなのである。
だからこそ、このマガジンでは食事のタブーを作らず「カロリーと3大栄養素はこれくらい目安に食べたらいいんじゃない?」程度の緩さにしている。
はたから見たら適当かもしれないが、制限が緩いからこそ現実的に持続するし、ダイエットが成功するのである。
ここで「そんな方法がうまくいく訳ない。厳しいダイエットじゃないとだめなんだ」という人がいるだろう。
つまるところ、制限しないダイエットのほうがうまくいくエビデンスを出せ、という話になる。
食品フォーカスをやめても、同じくらい痩せるしむしろリバウンドしない
「カロリーと3大栄養素だけを気にすれば何食ってもOK」というダイエット法は、海外では”IIFYM(=If it fits your macro”と呼ばれ一大勢力を築いている。
この考えはわりと新しいので研究が少ないが、2021年にようやくIIFYMと厳しいカロリー制限を比較したランダム化試験の論文が出た。(R)
被験者となったのは筋トレをしているトレーニー男女23人で、2つのグループに分かれて10週間のダイエットをさせた。
- 厳しいダイエットグループ:栄養士が作った食事プランの通りに食べる
- IIFYMグループ :カロリーとタンパク質・脂質・糖質の目安だけ支持されたグループ
どちらのグループも2g/体重のタンパク質を取るように指示されており、カロリーはどちらも”-25%”の制限。
両グループの違いは、食事に柔軟性があるかどうかである。
厳しいダイエットグループは栄養士が作った食事プラン通りに食べており、例えばある被験者の食事例は以下の通り。
- 1食目:全卵2個、アボカド、ほうれん草、全粒粉トースト、バナナ
- 2食目:鶏胸肉、さつまいも、ブロッコリー、アーモンド
- 3食目:ギリシャヨーグルト、ピーナッツバター、ミックスベリー
- 4食目:牛肉、レタス、トマト、チーズ、玄米
いかにも”健康的な食事”という食事であり、多くのダイエッターが実践している食事内容のイメージに近いだろう。
一方で、IIFYMグループはトラッキングアプリの使い方を指導され、カロリーと3大栄養素の目安だけ与えられた。
いわゆる日本でいう”あすけん”を使うダイエットと同じである。
そんな条件で10週間のダイエットと、さらにその後10週間にわたり追跡調査をしたところ、以下のような結果になった。
- どちらのグループも同じくらい脂肪が減った!(厳しいダイエット:-3.2kg vs IIFYM:-2.3kg)
- 厳しいダイエットではリバウンドで脂肪が増えたが、IIFYMではリバウンドは起きず脂肪は増えなかった!(厳しいダイエット:+1.1kg vs IIFYM:±0kg)
どちらも同じくらい痩せたが、厳しいダイエットは実験後にリバウンドしたのに対して、IIFYMのほうはリバウンドしなかったのである。
この研究からわかることは、まず第一にもちろん厳しい食事制限でも痩せる。
しかし、別に食品に拘らなくてもカロリー不足さえ作り出せば痩せるということである。
そして、この戦略はダイエット効果は変わらないどころか、長期的に見てもダイエット成功に繋がる戦略であるということ。(実際に日常との調和がリバウンドしない人の特徴、という研究は後ほど出てくる)
実験という特殊な環境で厳しい食事制限でダイエットを成功させても、現実世界に戻ればジャンクフードが溢れている。
厳しい食事制限から解放されたグループはそんな現実世界に戻るとすぐにリバウンドするが、ダイエット中にジャンクフードとの付き合い方を身につけたIIFYMグループはうまく体重コントロールができたのである。
別にIIFYMが絶対ではないし、強要する気はない。
あなたが科学を大事にしているなら、一度自分の体で実験してみればいいのである。
誰にでも当てはまる”正しい”ダイエットというものは存在しないし、一度試して”制限系”ダイエットのほうがいいと言うならば、別にそのときは制限系ダイエットに戻ればいいだけの話である。
しかし、ここで注意点がある。それはダイエットの害悪となる硬直思考はIIFYMでも現れるということである。
実は、IIFYMでもまだ完璧に硬直思考から脱したとは言えないのである。
IIFYMでも硬直思考は現れる
前半で”硬直思考”が問題であると言ったが、硬直思考の対極にあるのは”IIFYM”ではない。
と言うのも、硬直思考はIIFYM実践者にも十分出現するのである。どういうことか?
例えば、あなたの恋人が手料理が得意だとしよう。ここで、その恋人が作った手料理を食べれるか?と言う話である。
または、町にあるこじんまりとした個人経営のカフェで料理を食べれるか?という話である。
まあ何が言いたいかというと”厳密なカロリーが分からないモノを食べれるか?”と問いたいのである。
いくらIIFYMを実践していても、カロリー表示のあるコンビニ弁当やチェーン店の食事しか取れない。
またはレストランにフードスケールを持ち込んでカロリーを測りたい、となったらそれは完全に硬直思考である。
または、タンパク質の目標が”2.0g/体重”であったとしよう。
寝る前にたまたま記録ミスをしていることに気づき、タンパク質を”1.8g/体重”しか摂っていないと気づいた。
こんなとき、急いでコンビニにサラダチキンを買いに行くようなら、それは硬直思考である。
つまるところ、マインドに柔軟性が無いのである。硬直思考の対極にあるのはIIFYMではない、柔軟思考(Flexible thinking)である。
そして、この思考を体現したダイエットこそが”フレキシブルダイエット(Flexible diet)”である。
このフレキシブルダイエットは、よくIIFYMと勘違いされる。
しかし、フレキシブルダイエットは厳密にはIIFYMではない。
フレキシブルダイエットは往々にしてIIFYMだが、先ほどの例のようにIIFYMではあるがフレキシブルダイエットではないパターンは存在する。
じゃあフレキシブルダイエットでは、先ほどの例をどう考えるか?
厳密なカロリーがわからないものでも「これくらいのカロリーかな?」と推定こそすれど、カロリー計算に強迫的にならないことである。
カロリーに多少の誤差があるのは当然、1日くらいカロリー計算が大幅にずれても問題ないし、むしろカロリー推定の練習の場と捉えられるか?という話である。
タンパク質の摂取目安を逃したとしても、「1日くらいタンパク質を取れなくても直ちに筋肉が分解されるわけではない。
1ヶ月のうち80%くらい守っていれば大丈夫」と思えるかという話である。
フレキシブルダイエットとは、ルールに強迫的にならず思考に柔軟性を持たせることである。
そして、ルールをガチガチに守るストイックさよりも、このフレキシブルマインドこそが3年後も痩せた体型でいるための秘訣なのである。
リバウンドしない最強マインド、それがフレキシブルダイエット
フレキシブルダイエットがどんなマインドなのか?そしてそれはダイエットに効果があるのか?については、2003年の「3年後もリバウンドしない人はどんな人か?」という研究が非常に分かりやすい。(R)
この研究は1247人を対象にしたもので、8つの行動スコアに回答してもらい、リバウンドしない人はどんな人なのか?を調べた研究。
実際に質問された8つの行動スコアは以下の通り。

オッズ比は数字が大きいほど効果が高い。つまり、下に行くほどリバウンド防止効果が強いということ。
個々の指標を見る以前に、何よりも大事なことがある。
それは、複数の良い習慣を持っている人ほどリバウンドしなかったということである。
1つしか良い習慣を持っていない人は3年後のダイエット成功率が21.1%なのに対し、良い習慣を5個以上持っていた人は50%以上の人が3年後もリバウンドせずダイエットを成功させている。
つまり、物事は一面的ではなく多面的なのである。
物事を過度に単純化して「これさえ食べなければ大丈夫」とか「これさえやっておけばOK」とかいう話は、過度の単純化と白黒思考のダブルパンチであり、硬直思考そのものである。
そして、マインドに注目してみると食べ物に関する硬直思考、すなわちストイックさはダイエットにはクソほどの役にも立たない。
逆に、柔軟思考は3年後のダイエット成功にも役立つことはこの研究でも明らかになっている。
そして、この論文ではフレキシブルマインドの2つの具体的な特徴が挙げられている。
- ダイエットを永遠に続く課題と捉えている
- ダイエットを日常とうまく調和させている
まずダイエットを永遠に続く課題と捉えている...ということは、硬直思考のように”ダイエットをする期間/しない期間”に分けていたり、持続性のない”ダイエット”をしないことである。
そして、もう一つ大事な要素がある。
それは”日常とダイエットの調和”をちゃんと考えていることである。
いくら痩せる方法であっても、日常と調和しなかったら意味がない。今まで見てきたように、日常と調和しないダイエットというのは、無駄にストレスと罪悪感を生み、挙句の果てにはドカ食いを誘発するだけである。
もちろん、オルトレキシアのように日常生活や人間関係を木っ端微塵に破壊する手もある。しかし、誰がそんなことをしたいだろうか?
つまるところ、フレキシブルなマインドとは以下に集約される。
- 物事を”1面的/0,100の白黒”で考えず”多面的/0~100の連続体”で考える
- いかに効率的に痩せるかより、一生続けられるか?日常と調和するか?を最優先する
つまるところ、このマガジンのコンセプトでもある”細かいことは気にすんな”ということである。
100点を目指して人間関係を切り捨てながらもストレスと罪悪感にまみれた日常を送るより、60点でも良いからできる努力を目指す、それこそがフレキシブルなマインドである。
そして、これはストイックなダイエットに劣るどころか、むしろ短期的なダイエット効果は変わらず、リバウンドもしづらいダイエット法なのである。
フレキシブルダイエットをルール化したダイエット、それがエターナルダイエット
とはいえ、フレキシブルダイエットは抽象的すぎて実践するときはどうすればいいの?という疑問が湧いてくる。
ということで、私がフレキシブルダイエットを導入するときに課していたルールを紹介しておこう。
初めて導入するときは、具体的なルールにするほうが実践しやすかったりする。
先に断っておくと、これらのルールを完全に真似しろと言いたいわけではない。
ただ考え方を実践ルールに落とし込んだらこうなった、というケーススタディからコンセプトの理解を深めて欲しいのである。
そして、私はこのルールを”エターナルダイエット”と名づけていた。エターナルとは”永遠の/不滅の”といった意味がある。
ドカ食いを潰すことに徹底的にフォーカスし、永遠に続けられるダイエットとなることを願ってこの名前を名づけた。(実を言うと、私は厨二病なのである。)
それはさておき、その条件は以下の3つ。
- カロリーを”-200kcal/日”以上食べる
- 総カロリーの2割以上をジャンクフードで埋め尽くす
- 週に1度は必ず外食する
まず1つ目の条件としては、カロリー制限を”-200kcal/日”よりキツくしないことを条件にしていた。
というのも、マイナスカロリーが大きいほどドカ食いしてしまう可能性が高くなることを示す研究があるから。(R)
制限が厳しいダイエットかどうか以前に、そもそもカロリー制限が厳しすぎるのは論外である。
そして、何が何でも総カロリーの2割以上をジャンクフードで埋めることにした。
これは、ダイエットの”オン/オフ期”と決別するためのルールである。
ジャンクフードは”チートデイ”のオフ日などに食べるものではなく、毎日”普通・適度”に食べるものとして自分に教え込んだのである。
ちなみに、ジャンクフードは2割以上であり、別に何割食べたっていいのである。
実際に、今はおおよそ”無加工食品:加工食品=4:6”くらいである。
ジャンクフードの割合を高めるほど制限が緩くなって自由度が広がるが、あまり増やしすぎると満腹感が少なくなり食べすぎるリスクが出てくるのは事実。
自分の場合は無加工食品を4割食べるくらいが、食欲制御と自由度のバランスがドンピシャだった。
別に明確なルールなどない、自分に合うバランスを見つければいい。
そして、週に1度は必ず外食するようにしていた。
外食という厳密なカロリーがわからない食事にも臆せず、むしろカロリーを推定したりカロリー計算の誤差を許容する訓練と考えていた。
(もちろんメニューにカロリー表記がなさそうな店を選んで行っていた。)
大雑把に「カロリーはこれくらいかな?」と推定しても痩せる、と言う実体験を得た事でグレーゾーンを許容できるマインドが育ったし、他人との外食もストレスではなくなった。
最後にもう一つ、(ルール化はしなかったのだが)できるだけ”マインドフル”に食べることをおすすめする。
要するにながら食べをやめ、食事に集中しろと言うことである。
これは食事の満足感を高め、ドカ食い防止効果が高いことがわかっている。(R)
最後に、このフレキシブルダイエットは実践すればするほど効果が高まりマインドが柔軟になっていくのが一番の悩み。
今までストイックなダイエットをしていた人ほど、おそらく「こんな努力しないダイエットでいいのか?」と思うだろう。
しかし、実際に体重が落ちることを知ると、今までなんて無駄なことにこだわっていたのだろう...」とわかる。
しつこいようだが、重要なのはストイックさではない。日常との調和と持続性である。
ダイエットが人生のすべてじゃない
ダイエットに失敗したとき、自分のダイエット理論が間違っていたんじゃないか?と誰もが疑うだろう。
しかし、そもそも”完全なダイエット理論がある”なんていう幻想を信じ、ダイエットと現実が調和することを一切ガン無視するからダイエットが失敗するのである。
日常との調和を無視してダイエット理論を崇め始めると、ダイエットが失敗したとき”日常”のほうをダイエット理論に無理にねじ込もうとする。
そうすると、日常生活が多かれ少なかれ歪む上に、完全には日常とダイエット理論のギャップを埋め合わせることができず、罪悪感に苛まれてドカ食いする。
つまるところ、多くの人がストイックすぎるのである。今まで見てきたように、ストイックさというのはダイエットに必要な資質どころか、むしろ有害でしかない。
ハッキリ言って、100点のダイエットでも60点のダイエットでも大して効果は変わらないどころか、60点のほうがうまく行くのである。
ここで一つ、私の体験をケーススタディとして紹介しよう。
実は私は、2年ほど前にダイエットと筋トレに最適化された100点の生活を送るために大学院を休学してニートになったことがある。
100点の生活を送るためには他人と外食なんて出来はしないので、当然のように数ヶ月誰とも会うことはなかった。
ひたすら筋トレ・ダイエット・文献調査だけをしていたのだ。
当時は楽しかったし、これは良い話のネタになるのでこの決断自体は後悔していない。
しかし、一つ分かったことがある。
それは仮にエビデンスに基づいて100点の生活を送ろうと、日常の合間で上手に”筋トレ・ダイエット”をしようと、結果はそんなに変わらないということである。
さらに、理論に固執して日常をガン無視していたときはドカ食い欲求に苛まれていたが、日常の合間でおこなっている今はドカ食いも全くない。
結局のところ、ダイエットは永遠に続けなければ体型を維持することは不可能。
例え理論的には60点でも、日常と調和して永遠に続けられるダイエット法を選ぶべきである。
そして何より、日常と調和するフレキシブルダイエットの世界は人生が楽しい。
ダイエット中でも友人や家族との食事を楽しめるし、ドカ食いや禁止された食品を食べてしまう恐怖に怯えることもない。
食品にフォーカスし、それを禁止するダイエットをやめよ。何もこれはダイエットを諦めろと言っているわけではない。
痩せたいならそのストイックさを捨てよ、と言う話である。
ドカ食い欲求を無くしダイエットを成功に導くフレキシブルダイエット、ぜひ一度お試しあれ。