「ダイエット情報が世の中に溢れてすぎていて、何が正しいか分からない」
ダイエットは細かいところまでこだわり始めるとキリがない。
『◯◯を食べたら痩せた』
『何時以降に食べないだけで痩せる』
ダイエット情報でがんじがらめにされたストレスで、むしろ太りそうなほどである。
なので、ここ50年くらいのダイエット研究をもとに、ダイエットの全てを詰め込んだのがこの『科学的に正しいダイエットの教科書』だ。
ちなみに、この連載では目指すところを男性なら割れた腹筋、女性ならモデル体型と仮定している。
そこまで求めてないと思う人もいるかもしれないが、ダイエットの基本はどんな体型を目指す上でも変わらない。
ちなみに「理論なんていいから手っ取り早く実践したい!」という人向けに、このマガジンの”全自動カロリー計算ツール”を使って欲しい。
それでは、まずはダイエットの全体像を知ろう。
ダイエットで重要なこと
ダイエットの全体像を知っていないと、細かい情報に惑わされてしまう。重要な順にピラミッドしたのが下の図。

何より大事なのは、”継続”である。筋肉を減らさずに脂肪を減らそうと思うと、どうしても3ヶ月から半年はかかる。逆に、どんなダイエットでもある程度続ければ効果が出る。
科学的に正しいダイエットは、”カロリー不足を継続する”と言う一言に尽きる。
そのためには、食事を変える必要がある。
「いやいや、好き放題食べたいから運動で痩せたいんだけど?」と思う人もいるかもしれないが、それは難しい。
「運動しているのに痩せない」は当たり前
運動をして痩せよう!というのは、不可能とは言わないがあまりに効率が悪い。
運動にダイエット効果を期待しても、その分食べすぎてしまって効果が出ない可能性が高いのだ。
しかも、厄介なことに無意識のうちに食べてしまうことが2019年の研究でわかっている。(R)
この研究は肥満男女171人を対象にしたもの。被験者を3つのグループに分け、6ヶ月にわたって運動をしてもらった。
- グループ1:運動をしない
- グループ2:運動を1日あたり100kcal
- グループ3:運動を1日あたり250kcal
予想では、半年後にそれぞれ1.9kg,4.3痩せるはずだった。しかし、結果はグループ2は体重が減らず、グループ3も1.6kg減ったのみだった。
というのも、それぞれのグループではそれぞれ摂取カロリーがそれぞれ90kcal、123kcal増えていたのだ。
この現象は”Compensation(=埋め合わせ)"という名前までついている。運動によって消費カロリーが増えると、その分多く食べることでカロリー不足を埋め合わせるのだ。
しかも、被験者は食べた量が増えたことに気づいていない可能性が高い。研究者の言葉がまさに的を得ている。
約100kcal程度の食事量の増加を人が気づくのは困難であり、これが『埋め合わせ』に気づかない原因になっている可能性がある。
もちろん、運動を否定するわけではない。
運動にはリバウンド防止や健康にいいと言った側面もある。
ただ、運動に”ダイエット効果”を期待すると裏切られる可能性が高い。
努力しても結果が出ないのが一番心が折れる。
ここは諦めて食事を変える、もっと言うならばカロリー制限をしよう。
カロリー制限はなぜ失敗する?
しかし、カロリー制限をしても大抵の人は失敗する。
カロリー制限には、ハマりがちな3つの罠があるのだ。
- 摂取カロリーを記録していない
- 消費カロリーの計算が激ムズ
- カロリーを減らしすぎ
カロリー制限の罠⓪:「食べていないのに痩せない」「代謝が低いから痩せない」の真実
まず、摂取カロリーは正しく記録すること。
あすけんなどのアプリやカロリースリムなどのサイトを使えば簡単に計算できる。
「なんとなく食事を控え目にしよう」とだけ考えていると、確実に「これくらい食べているかな」と思うよりたくさん食べるはめになる。
ヒトは自分の摂取カロリーと消費カロリーを把握するのが苦手な例として、1992年の研究がある。(R)
というのも、この研究では被験者が摂取カロリーを47%少なく見積もり、消費カロリーを51%も多く見積もっていたのだ。
つまり、みんな自分が思っているより食べていないし、動いていると思い込んでいる。
ダイエットの一歩目として、まずは自分はどれくらい食べているのか?を把握をする必要がある。
あすけんなどの食事記録アプリを使ってもいいし、今はどんなものにもカロリーが表示されているので自分で計算するのもそこまで難しくない。
しかし、”あすけん”などのアプリで摂取カロリーを正確に把握しカロリー制限をしても、上手くいかないことは普通にある。
なぜそんなことになるかと言うと、消費カロリーを正しく把握することが異次元に難しいからだ。
カロリー制限の罠①:ネットにあるツールで消費カロリーを知る。それって正しい?
あなたは消費カロリーをネットツールで計算しているかもしれない。
ここで計算に使われているのが、名前は覚えなくていいが”ハリス・ベネディクト方程式”である。
実は、ハリスベネディクト方程式は日本人にとって消費カロリーが多めに出てしまう。
つまり、ネットツールで計算すると消費カロリーが多めに出てしまう。
日本人の消費カロリーを調べたお茶の水大学の研究がある。(R)
この研究では、18歳から79歳の男女365名の消費カロリーを計測した。
すると、ハリスベネディクト方程式によって予想される消費カロリーは、実際の値に比べて男性で+99kcal、女性で+150kcalも高かった。
さらに、体重が増えるほどその誤差は大きい。
とはいえ、さすがに研究機関で実際に測るのは無理がある。
じゃあ何で予想すればいいのか?
結論を言うと、”Ganpule方程式”で計算しよう。
同じ研究では、このGanpule方程式が最も正確に基礎代謝を予測し、体重による誤差も小さかったのだ。(男性+28kcal、女性+10kcal)
つまりGanpule方程式で計算すればカロリー制限は全てがうまくいく…というわけではない。
というのも、ダイエットが進むにつれて、消費カロリーは大きく変化する厄介者なのだ。
カロリー制限の罠②:ダイエットで代謝が減る…は本当か?
ダイエットをすると代謝が減るのは常識…と思ってるかもしれないが本当だろうか?
結論を言うと、これは真実。(詳しいメカニズムはコラム②へ)それでは、実際にどれくらい変わるのか?
1つの例として、2012年の肥満男女16人を対象にした研究がある。(R)
被験者は30週間かけて大幅なダイエットをした。体脂肪率の変化は驚異の”49%→28%”。このダイエットをしつつ、途中である6週目、終了の30週目に被験者の代謝を計測したところ以下のようになった。
- 0週目:2614kcal
- 6週目:2258kcal(-356kcal)
- 30週目:1763kcal(-851kcal)
大幅に1日の消費カロリーが減っている。しかも、この被験者たちは体重の8割以上を脂肪から落としている。筋肉が減ったからではない。
代謝が減る理由は主に2つ。
- 体重が減るから
- 体が省エネになるから
まず、体重が減ると、体を維持するために必要なエネルギーは減るのだ。
つまり、ダイエットが成功すれば代謝が減るのは避けられない。
そしてもう一つは”体が省エネになること”である。
普段体が熱として捨てているエネルギーを減らすのだ。(これを適応熱生産という。)
この現象は、実はどの程度起こるかはまだはっきりしていない。
この研究では、6週目と30週目の代謝減少はそれぞれ-244kcal、-516kcalが省エネが原因だとしている。(実に60~70%...!)
一方で、肥満男女71名を対象にした「省エネは起きるの?」を調べた研究では、8週間で14kg落とした被験者は省エネによって92kcal減ったことが報告されています。(R)
省エネについては、値が小さいものから大きいものまで多くの研究があるので、具体的にどれくらい減るのかは分からない。
しかし、体重減少も合わせると代謝が大幅に減るのは紛れもない事実。
つまり、ダイエットをすれば消費カロリーは毎日変わる。
なので、少なくとも週に1回は消費カロリーを見直す必要がある。
「そんなのめんどくせぇよ!!!!!!」
というのが本音だろう。
ここで「ガッツリ摂取カロリーを落とせばいいんじゃね?自分は天才か...?」と思った人もいるかもしれない。
極端な話、毎日500kcalを摂取すれば、確実に消費カロリーが摂取カロリーを上回り痩せるはず。
確かに体重は落ちるだろうが、この作戦は愚策。
現実はそんなに甘くない。
カロリー制限の罠③:「カロリーを減らしすぎると脂肪が減らない」は本当
カロリーを減らしすぎても、脂肪は思うように減らない。簡単にいうと、筋肉が落ちるからだ。
これは2011年の有名な研究がとてもわかりやすい。(R)
アスリートを対象に、”ゆっくりvsはやめ」の減量をしてもらった。
同じ体重を減らしてもらったところ、結果は以下のようになった。

どちらも体重が減っているが、脂肪が大幅に減っているのはゆっくりグループ。
早めのグループは筋肉が落ちてしまい、脂肪はあまり減らなかった。
「筋肉が減ると代謝が減って太りやすい体になるからダメ」とかいう話ではない。
せっかく作ったカロリー不足。
そのエネルギーを脂肪からではなく筋肉から持っていかれたのではたまったもんじゃない。
ダイエットにおいては、まさに「急がば回れ」なのである。
それでは、どのくらいのペースで体重を減らせばいいのか?
答えは週に”体重×0.7%”である。さっきの研究は”体重×1.0%"と”体重×0.7%”の減量を比べたもの。
あまり減量ペースが遅すぎても、結果が出ている気がしなくてモチベーションが保てなくなる。
週あたり”体重×0.7%”の減量がベストだろう。
筋肉を維持せよ。むしろ増やすことを目指せ。
逆に言えば、筋肉を維持するどころか増やしたらどうなるだろうか?
筋肉を増やすということは、新しくカラダを作るということ。
そしてそのエネルギーはどこからやってくるかというと…体脂肪からやってくる。
『筋肉を増やして体脂肪を減らすなんて無理でしょ』と思うかもしれないが、絶対に無理とは言い切れない。
(ちなみにこの筋肉を増やして脂肪を減らすことは”リコンプ"という。)
特に筋トレ初心者は十分リコンプできるんじゃない?と思える研究が2016年のマクマスター大学による研究。(R)
筋トレをしたことがない肥満男性40人を集め、”-40%のカロリー制限”をしてもらった。
この際、被験者を”高タンパク質”と”普通量のタンパク質”の2つに分けた。

さらには、どちらのグループも炭水化物の量は違いが出ないように決定されている。
これはカロリー制限中でもトレーニングをしっかりできるようにするためだ。
運動に関しては、週2回の筋トレと週2回ずつのSIT&HIIT(有酸素運動)をしてもらった。
さらには、座りがちにならないように1日12000歩も歩かされている。(研究者はたぶんドS)
この条件で4週間過ごしてもらったところ、結果は以下の通り。

どちらも体重は同じくらい減っている...と思いきや、脂肪量を見ると高タンパク質グループが大幅に落ちたのである。
筋肉を維持する(or増やす)ことは、筋肉からエネルギーを取り出せないどころか、筋肉を作るためにエネルギーが必要になる。
よって、より多くの脂肪を燃やすことに繋がるのだ。
それでは筋肉を維持する(or増やす)ために何が重要かと言うと...”タンパク質”と”筋トレ”になる。
まとめ
カロリーを減らさなければ体重は減らないが、カロリーを減らし過ぎれば今度は筋肉が分解される。
特に”体重の1%”以上の減量は筋肉が減っている可能性が高い。
筋肉からエネルギーを取られていたのでは、当然脂肪は減らない。
男女問わず筋肉を維持することは重要なのだ。
と言うことで、次回はダイエットで重要なタンパク質についての話。
コラム①1日の消費カロリーが高めに出るもう一つの理由?
1日の消費カロリーは以下の式で計算される。
1日の消費カロリー = 基礎代謝 × 生活強度指数
ここで
- 基礎代謝=1日中ベッドにいても消費するカロリー
- 生活強度指数=どれくらい日々動いているか
である。基礎代謝は性別・年齢・体重などに影響される。
生活強度指数に関しては、デスクワークの人は低く、肉体労働などは高くなる。
まず基礎代謝だが、先ほども話した通り、多くの人が「ハリス・ベネディクト方程式」を(無意識に)使っている。
そのせいで、基礎代謝は高めに出る。
そして生活強度指数をかけるわけだが、これは完全に主観的に選ぶことになる。(厚生労働省:”第6次改定日本人の栄養所要量について”より作成)

先ほども話したように、ヒトは自分の摂取カロリーを高めに見積もりがち。
なので、ここでも生活強度指数を高めに選ぶ確率がある。
なので、以下のような消費カロリーが完成してしまう。
1日の消費カロリー = (高めに計算された)基礎代謝 × (高めに見積もった)基礎代謝
これではなかなかカロリー制限で痩せないだろう。
コラム②:ダイエットで代謝が減るメカニズム
1日の消費カロリーは4つの要素を全て足したものになる。(R)
- BMR(Basal Metabolic rate):基礎代謝
- NEAT(Non-Exercise Activity Thermogenesis):運動以外の消費カロリー
- EAT(Exercise Activity Thermogenesis):運動による消費カロリー
- TEF(Thermic Effect of Food):食べ物の消化による消費カロリー
まず、食べる量が減るので、消化に使うエネルギー(=TEF)は減る。
そして、先ほども話した通り、ダイエットで体重が減ると基礎代謝(=BMR)も減る。
もう少し詳しくいうと、普段UCP-1というタンパク質によって熱として捨てているカロリーを減らす。
すなわち省エネになる。
そして、意外と見落とされがちなのがNEAT。
カロリー制限をしていると、無意識にNEATが減る。
わかりやすくいうと、体を動かしたくなくなる。「なんだか体がだるく、動きたくない」となる。
これらを組み合わさり、ダイエットが進むにつれて1日の消費カロリーはガッツリ減るのだ。
そして、体重が減らなくなる。