ケトジェニックはダイエットに効果的?実は個人差もあると論文で判明

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糖質制限というのは、最近すっかりブームになった感じがある。

1990年代頃、健康界では脂質が心臓や血管に悪いと悪者にされていたのに、2022年となった今ではすっかり糖質が悪いやつ扱いされている。ご愁傷様である。

そして、健康だけでなくボディメイク界でも糖質制限はある程度の人気がある。

特にボディメイク界隈では超糖質(糖質1日50g以下/全カロリーの10%以下など)にあたるケトジェニックダイエットがもてはやされている。

ということで、今回は糖質制限やケトジェニックダイエットに関する記事。

いつものことながら健康問題はガン無視で、ボディメイクにどう役立つのか?を見ていこう。

目次

ぶっちゃけ低糖質だろうと低脂質だろうと良いけれど

まず、先に立場を明確にしておくと今回の記事は”ケト派”でも”アンチケト派”でもない。

一度試してみてケトジェニックダイエットが合うなら続けたらいいじゃん!という(何ともつまらない)立場である。

というのも、ダイエットでは継続が全て。結局はどんな減量法も完遂さえすればダイエットは成功するのである。

このことに関しては2014年の「14種類のダイエット法」を比較したメタ分析が有名。(R

このメタ分析は肥満の人を対象に、48の研究から7286人を抜き出したもの。その際、14種類のダイエット法を3大栄養素の違いで分類した。

ダイエットの分類
ダイエットの分類

ダイエット名には聞いたこともないようなものも多くあるが、要は糖質制限系と低脂質系、そしてその中間であるバランス食系の3つに分類したのである。

そして、それらの実験結果を分析したところダイエット効果は以下のようになった

  • 6ヶ月後の結果は糖質制限系-8.73kg、低脂質系-7.99kg、バランス系6.78kgだった!
  • 12ヶ月後の結果は糖質制限系-7.25kg、低脂質系-7.27kg、バランス系5.70kgだった!

まず、どんなダイエット法であれ6ヶ月、または1年間続けたことで見事な減量を達成している。

そして、初速では糖質制限系がほんのちょっと有利で、1年後にはその優位性も消失していた。

これらの結果を受けて、研究者は以下のように結論している。

ネームドダイエット間における体重減少率の違いは小さなものである。この結果は、「患者は自分の好みでいかなるダイエット法も選ぶことができる」という実践的アドバイスを支持するものである。

Bradley C et al, 2014

つまるところ、ダイエット法なんかどれも大して違わないんだから好きなもの選べよ...ということらしい。

とはいえ、この研究での糖質制限はいわゆる”総カロリーの40%以下”という、厳格な糖質制限者からしたら甘すぎてお叱りを受けるレベル。

もっと糖質を極限まで削った”ケトジェニックダイエット”なら痩せるのでは?と思う人もいるだろう。

しかし、実はケトジェニックダイエットでも減量に有利では無さげ。

  • 2006年の研究では、炭水化物33gまで減らした超糖質制限でもローファットやバランス食とダイエット効果は変わらなかった(体脂肪率:ケト-4.5%、ローファット:-4.0%, バランス食:-4.4%)(R
  • 2014年の研究では、炭水化物を4%まで減らした超糖質制限を行わせたが、バランス食とダイエット効果は変わらなかった(体脂肪率:ケト-0.38% vs バランス-1.08%)(R

つまるところ、いわゆる”ケトジェニックダイエット”と言われるレベルまで糖質を制限しても、ダイエット効果はさして変わらないのである。(これらの研究の詳細はこちら

とはいえ、裏を返せばケトジェニックダイエットが別段”劣っている”というわけでもない。

なので継続できるなら糖質制限やケトジェニックも十分選択肢になると言えよう。

糖質制限にも個人差があるんだよ問題

ここで、肝心の「糖質制限を好んで継続できるかどうか」にも実は個人差があるのである。

さらには、糖質制限の減量効果そのものにも個人差があるかもしれない。

そして、この鍵を握っているのがインスリンである。

というのも、糖質はインスリンによって細胞内に栄養として吸収されるのだが、このインスリンが効きづらい”インスリン抵抗性”の人は低糖質のほうが減量効果が高いという研究がある。

例えば、2005年の研究で「低脂質(糖質60%、脂質20%) vs 低糖質(糖質40%、脂質40%)」を比較した研究が行われている。(R

被験者となったのは肥満女性21人なのだが、各グループに16週間におけるダイエットをしてもらったところ以下のような結果になった。

ダイエット結果(IS:インスリン感受性 IR:インスリン抵抗性)
ダイエット結果(IS:インスリン感受性 IR:インスリン抵抗性)

右側のインスリン感受性の高い人(IS)を見ると、右側の低糖質(LC/HF)よりも高糖質(HC/LF)のほうが体重が減少していることがわかる。

一方で、インスリン抵抗性(IR)の人は完全に逆の結果である。

右側の低糖質(LC/HF)のほうが高糖質(HC/LF)よりも体重減少を達成していることがわかる。

ちなみに、この研究の被験者は”糖尿病”レベルのインスリン抵抗性ではない。

つまるところ、インスリン感受性が高い/低いには個人差があり、それによって”糖質制限がうまくいくかどうか”が決まるかもしれないのである。

さらには、2013年の研究では「糖質制限を好むかどうか」すらインスリン感受性に影響を受けるとする研究もある。

インスリン抵抗性の人は、糖質制限のような低糖質のアプローチを好む傾向にあったのである。(R

これらの研究を考えるに、もしあなたがどちらかというとインスリン抵抗性に属する人間だった場合、低糖質のアプローチのほうが好みに合って続けやすいだけでなく、実際にダイエット効果が高い可能性すらあるのだ。

2018年、「低糖質 vs 低脂質」の大規模研究が敢行される

とはいえ、公平を記すために言うと2018年の大規模研究によって”インスリン感受性”や”遺伝子”を「低糖質 vs 低脂質」を決める際に重要視すべきなのかは疑問視されている。

2018年にかなり大規模な「低糖質 vs 低脂質」の研究が行われたのだが、そこでは遺伝子やインシュリン感受性の影響はみられなかったのである。(R

この研究は「DIETFITS:Diet Intervention Examining The Factors Interacting with Treatment Success」として有名な研究で、日本語にするなら「減量成功と関連するファクターを見つけるダイエット研究」である。

この研究は609人の被験者を対象に、1年間にも及ぶ「低糖質 or 低脂質」のダイエットを行ったもの。

この人数と期間だけでもなかなかだが、さらに被験者の遺伝子とインシュリン感受性を調べる金持ちっぷり。

結果はわかりやすいもので「1年間で低糖質-5.3kg、低糖質-6.0kgでどちらも同じくらい痩せた。

そして、その効果は遺伝子やインスリン感受性に関係なかった」と言うもの。

ちなみに、この研究では低糖質グループは糖質26.5%とマイルドな糖質制限に入る部類(低脂質グループは糖質50.6%)で、タンパク質摂取量が1日あたり”1g/体重”未満とかなり少ないことは書いておくべきだろう。

それはさておき、結果の数値だけ見ると低糖質のほうが低脂質よりも一見有利に見える。

実際に、これらのグループ間に差があるのか計算してみると、統計的な有意差には届かないが実はかなり有意差に近い値。(p=0.13)

さらには、2014年のメタ分析でも6ヶ月という短期間では低糖質のほうが(多少)有利だったことも考えると「低糖質のアプローチは低脂質に比べて不利にはならない!それどころかもしかしたら有利かも!」と言うこともできる。(まぁ、有利だとしてもかなり小さな効果だろうが...)

糖質制限を絶対にやるべき!とはもちろん思わないが、一度も試さずに無条件で糖質制限を切り捨ててしまうのも、それはそれで勿体無いかもしれない。

トレーニー向けケトジェニックのメリット/デメリット

とはいえ、ここで重要なことを思い出さなければいけない。それは私たちがトレーニーであること。

というのも、今までの研究は全て筋トレをしていない人たちが対象である。

そして、結論を言うと”筋トレ”が絡んでくるとやや状況が変わる。

と言うことで、トレーニーを対象にしたケトジェニックダイエットの研究をいくつか紹介しよう。

まず紹介するのが2018年の研究。(R

この研究は24人のトレーニーを対象に、3つのグループに分けたもの。

  • ケト(KD):42gの糖質&週4の筋トレ
  • 非ケト(NKD):55%の糖質&週4の筋トレ
  • コントロール(CG):今まで通りの食事と運動

まずどちらのグループも2900kcalほどのカロリーを摂取するように指示されている。

すなわちカロリー制限はしていない。

そして、ケトグループは超糖質制限により脂質をエネルギーとして使う状態...すなわちケトーシスに入るように糖質がかなり低い値に設計されている。

この研究では実際に尿検査を行っており、ケトン体であるβヒドロキシ酪酸が≧0.5mmol/Lであることを確認しており、実際にケトーシスに達しなかった2人の被験者は解析から除外されている。

どちらのグループもタンパク質を”2g/体重”以上摂取してもらい、8週間に及ぶダイエットをしてもらったところ以下のような結果に。

実験終了後の変化(TBW:体重 FM:脂肪量 LBM:筋肉量)
実験終了後の変化(TBW:体重 FM:脂肪量 LBM:筋肉量)

結果としては簡潔で、ケトジェニックは脂肪を-0.8kg減らし、筋肉量は変わらなかった。

一方で、非ケトグループは筋肉を1.3kg増やし、脂肪量は変わらないと言う結果に。

これらの結果を考察する前に、同じような研究である2020年の「女性トレーニーのケトジェニック効果」を調べた研究も紹介しておこう。(R

被験者となったのはトレーニング経験のある女性21人で、彼女らを”ケト vs 非ケト”の2つのグループに分けた。

ケトグループは同じく”~40g/日”の糖質制限を行うように指示された。

一方で、非ケトは”1g/日”の脂質を摂取し、残りは糖質を摂取するように指示されている。

この研究では、両グループともにタンパク質は最低1.7g/kgを摂取するように指示。

また、先ほどと同じように、ケトグループはケトーシスに入っているかを尿検査で確認されている。

この栄養状態で週4の筋トレを行ってもらい、8週間後に体組成や筋力を計測したところ以下のような結果に。

  • ケトのほうが非ケトよりタンパク質を多く摂取していた(ケト:115g vs 非ケト:97g)
  • ケトのほうが非ケトより摂取カロリーが少なかった(ケト:1710kcal vs 非ケト:1980kcal)
  • ケトグループだけが脂肪を減らした(ケト:-1.1kg vs 非ケト:+0.3kg)
  • 非ケトグループだけが筋肉を増やした(ケト:-0.7kg vs 非ケト:+0.7kg)
  • スクワットの1RMは非ケトのほうが向上した(ケト:+5.6kg vs 非ケト:+15.6kg)
  • ベンチプレスの1RMは非ケトのほうが向上した(ケト:+1.5kg vs 非ケト:+4.8kg)
体組成(BM:体重 FM:脂肪 FFM:筋肉)  筋力(BP:ベンチプレス Squat:スクワット)
体組成(BM:体重 FM:脂肪 FFM:筋肉)  筋力(BP:ベンチプレス Squat:スクワット)

まずカロリーと体組成についてだが、ケトジェニックはカロリー減少を引き起こし、ひいては脂肪を減らすことに繋がっている。

一方で、非ケトグループはわずかなカロリー余剰になっていると思われ、ひいては筋肉を増やす結果となった。

なぜこんなことが起こるかというと、ケトジェニックには空腹感を軽減し満腹感を高める効果があるからである。

理由として、ケトジェニックには高タンパク質摂取に繋がりやすい性質があることが挙げられ、さらにはケトーシスであることも食欲抑制に効くのでは?とされている。(R

つまるところ、食欲制御がうまく行っていないと感じるならケトジェニックで多少なりとも空腹感が減る可能性があり、これは減量時には武器になる可能性が十分にある。

次に右側の筋力をみてみよう。

ケトジェニックは筋力の増加が鈍いことがわかるが、これこそがケトーシスのダークサイドである。

いわば、ケトーシスとは”体が脂質をエネルギーとして使う状態”になってしまうことを意味し、それは筋トレのパフォーマンス低下を意味するからである。

体が脂質をエネルギーとして使う状態になるとは、裏を返せば”糖質を運用する能力”が低下するのである。(R

具体的には、脂質やケトン体を代謝する酵素がアップレギュレートされる一方、糖質を代謝する酵素がダウンレギュレートされる。(R

つまるところ、このケトーシスという適応は筋トレのような”解糖系に依存する高強度運動”のパフォーマンスを下げるのである。

トレーニーにとって、ケトジェニックのこのマイナス面は無視できないのである。

たまに糖質を食べればケトの欠点を克服できるか?

ちなみに、この欠点を克服しようとした方法として「サイクルケト」がある。

長期間にわたり糖質を摂取しないと糖質運用能力が下がる...ならば、たまに糖質を摂取すれば糖質運用能力を下げないままケトジェニックダイエットの恩恵だけを受けられるのでは?という企みがサイクルケトである。

ということで、実際に2020年にサイクルケトジェニックダイエットを調べた研究が行われている。(R

被験者となったのはトレーニー男性25人で、2つのグループに別れてカロリー制限をしてもらった。

  • 従来のカロリー制限:糖質55%、タンパク質15%、脂質30%
  • サイクルケト:平日は”糖質≦30g、タンパク質1.6g/体重、残りは脂質”
           休日は”糖質70%、タンパク質15%、脂質15%”

摂取カロリーはどちらも-500kcalと、まぁまぁのカロリー制限。

ちなみに、数値からしてタンパク質はおそらくサイクルケトのほうが多いと考えるのが妥当。(こういったタンパク質の不平等はケト研究あるある)

それはさておき、筋トレをしてもらい8週間後に体組成や1RMを測定したところ以下のような結果に。

  • 従来のカロリー制限のほうが体脂肪が減った(ケト:-1.9kg vs 従来:-4.0kg)
  • 従来のカロリー制限のほうが筋肉を維持した(ケト:-1.8kg vs 従来:-0.4kg)
  • 従来のカロリー制限グループのみがラットプルダウンとレッグプレスの筋力が向上した
    (ラットプルダウン:+4.8kg vs +1.8kg、レッグプレス:+12.2kg vs +4.0kg)

まず、体組成についてだが、この研究では”バイオインピーダンス法”で測定していることを明確にしなければならない。

これは体に電気を流す方法で、いわゆる”家庭用の体組成計”とかに使われているやつである。

なぜこんなことを言うかと言うと、家庭用の体組成計を使用したことがある人ならわかるかもしれないが、このバイオインビーダンス法は水分の影響をめちゃくちゃ受けるのである。

そして、さらに悪いことにケトジェニックダイエットをするとグリコーゲンが枯渇する。

加えて、グリコーゲン1gにつき水分も3gほど抜ける。

例えばグリコーゲンの量が400gだとすると、バイオインピーダンス法ではケトジェニックダイエットをすると平気で1.2~1.6kgくらい筋肉が落ちたように見える可能性があるのである。

ただ、その点を加味してもサイクルケトはぶっちゃけ使えない選択肢になりそうである。

この方法はケトのメリットだけを得られるどころか、どっちつかずで中途半端な結果に終わっている。

と言うのも、ケトン体であるβヒドロキシ酸の血中濃度はサイクルケトで0.38mmol/Lである。

これはいわゆるケトーシスと言われる”≧0.5mmol/L”に届かない値。要するに、中途半端に休日に糖質を取ったせいでケトーシスに達しなかったのである。

そして、筋力に関してはラットプルもレッグプレスも向上が見られない結果になっている。

どうやら土日に糖質を取ったくらいでは、糖質制限による筋トレのパフォーマンス低下を避けられないらしい。

平たく言えば、サイクルケトはケトジェニックのメリットだけを得られるどころか、デメリットだけを得られる方法だったのである。

もしケトジェニックダイエットを試すなら、潔く毎日”ケトジェニックダイエット”を完遂するほうがケトーシシスによるメリットを享受できるだろう(もちろんデメリットも受けるが)。

まとめ:糖質制限を手札には加えておこう

糖質制限やケトジェニックダイエットに関する今回の記事だが、最後に結論をまとめておこう。

  • 糖質制限は、別に優れてもいなければ劣ってもいない。
  • ただし、糖質制限があなたの好みにハマるだけでなくダイエット効果も高い可能性が無くはない。試してみる価値はある。
  • ケトジェニックダイエットは、食欲制御にうまく働く可能性が高い。
  • ただし、筋トレに関してはマイナス効果があるかもしれない。どちらを優先するかは、ぶっちゃけあなた次第である。
  • ケトジェニックダイエットをするなら、サイクルケトではなく毎日糖質制限をやり遂げるべき。目安としては”1日50g以下”とかが妥当

糖質制限は”一生続けるダイエット”のような代物ではないが、一時的に使うダイエットの持ち駒として手札に加えておいてもいいのではないかと思う。

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