HMBは筋トレ初心者に効きやすい?ダイエットや筋トレの効果を紹介

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筋トレをしている人なら一度は耳にしたことがあるだろうサプリ、HMB。

今回はサプリシリーズの続編として、このHMBに焦点を当ててみよう。

HMBは体型改善に効果があるのか、そのメカニズムから実際にヒトを対象にした研究まで、その全貌を見ていこう。

実は、HMBはこれから筋トレを始める初心者は効果が出やすいサプリなのだ。

目次

そもそもHMBとは何なのか?

まず、そもそもHMBとは何なのだろうか?

HMBは「β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸(β-hydroxy-β-methylbutyrate)」の頭文字をとったもので、これは体内に存在する物質の一つ。

HMBの化学構造
HMBの化学構造

このHMBだが、体内ではタンパク質であるロイシンの代謝物として作られる。[1]

ロイシン・HMBの体内での動き
ロイシン・HMBの体内での動き

図の一番上にあるのがロイシン(Leucine)で、その代謝物として真ん中らへんに位置しているのがHMBである。

タンパク質を構成するアミノ酸の一種であるロイシンだが、実はタンパク質合成を刺激する働きとタンパク質の分解を抑える働きがあることが知られている。[2,3]

その2つの働きの中でも、タンパク質合成のスイッチとなっているのはロイシン自身で、タンパク質の分解抑制のスイッチとなっているのはその代謝物であるHMB。

以前の記事でも書いたが、体内では筋肉の合成と分解が常に行われており、合成が優位であれば筋肉が増えるし、分解が優位であれば筋肉が減ってしまう

なので、HMBによって筋肉の分解が抑えられるということは、筋肉の増加に有利であることを意味する。

さらには、HMBには筋損傷を緩和する働きもあることが知られている。[4]

そして体型改善にも効果があるとされており、メカニズムは一切不明だが、脂肪減少にも効果があることすら提案されている。[5]

このような効果から、HMBは筋肉をつけたいトレーニーにとって期待のサプリとして注目されている。

HMBは実際に効果があるのか?は筋トレ経験で違う

理論的には、トレーニーの必需品となりそうなHMB。

しかし、理論的には正しくてもヒトに投与したら期待通りにいかないことはザラにある、というのはこのマガジンでも何度も紹介しているところ。

それでは、実際にヒトを対象にした研究でHMBは効果が確認されているのだろうか?

普段は個々の研究を紹介してからメタ分析を引用することが多いが、今回はまずメタ分析の結論を先に見てみよう。

ということで、紹介するのは2009年のメタ分析。[6]

この研究は「HMBの筋肥大、筋力、脂肪減少」について調べたもので、抜き出された研究は14件。

被験者が筋トレ未経験者か筋トレ経験者かで分けて分析したところ、結果は以下のようになった。

  • 筋トレ未経験者の筋力向上には、HMBは小さいが明確な効果があった!
  • 筋トレ経験者の筋力向上には、HMBは明確な効果がなかった!
  • 脂肪減少や筋肉の増加には、HMBは明確な効果がなかった!

脂肪減少や筋肉の増加にはハッキリとした効果が見られなかったが、筋トレ未経験者の筋力向上に関しては小さくはあるが明確な効果が確認された。

そして、筋トレ経験者となるとこの筋力向上効果も確認できなかった。

ちなみに、筋肉増加には明確な効果がなかったとしたが、筋トレ未経験者に関しては”ギリギリ”明確な効果が確認できなかったというレベル。

つまり、筋肥大に関しても筋トレ経験者より筋トレ未経験者のほうがHMBの効果が大きかったのである。

このメタ分析の結果を要約すると、以下のようになる。

HMBは筋トレ未経験者にはプラスの効果を発揮するが、
筋トレ経験者にはメリットがない。

筋トレ初心者にはHMBが効果的なワケ

ここで当然疑問となるのが「なぜ筋トレ経験によってHMBの効果が変わるのだろうか?」ということ。

この問題には、筋トレを始めたときにどのように筋肥大するのかが関係している。

実は、筋トレ初心者の筋肥大というのは3つのフェイズに分かれて進むことが知られている。

  • あまり成長しないフェイズ:3~4習慣
  • 筋肥大がしやすいフェイズ:1~2カ月
  • 筋肥大が落ち着くフェイズ:その後

まず、あまり知られていない事実だが、筋トレを始めてから初め1カ月ほどは筋肥大しづらい期間がある。

そして、その後2カ月ほどは皆さんのイメージ通り、初心者のボーナス期に突入する。

この期間に初心者は大きく筋肥大し、このボーナス期が終わるとその後はゆるやかに筋肥大するフェイズに入っていく。

この一連の流れで多くの人が疑問に思うのは「なぜ筋トレを初めて3~4週間は筋肥大しづらいのか?」だろう。

実は、この筋トレを初めて数週間は筋肥大しづらいメカニズムを理解すると、なぜHMBが筋トレ初心者に効きやすいのかも理解できる。

このメカニズムの理解に役立つのが2016年の研究。[7]

被験者となったのは筋トレ経験の無い男性10人で、彼らに10週間に及ぶ筋トレをしてもらった。

そして筋トレ1週目、筋トレ3週目、筋トレ10週目に、筋トレ後のタンパク質合成シグナルと筋断面積を測定した研究なのだが、その結果は以下の通り。

ロイシン・HMBの体内での動き
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筋トレ開始から1週目、3週目、10週目の筋断面積
筋トレ開始から1週目、3週目、10週目の筋断面積

まず、タンパク質合成シグナルの量は、1週目が3週目や10週目より高くなっている。

しかし、筋肉の断面積変化を見ると、筋肉は1週目ではなく10週目に大きくなっていることがわかる。

つまり、タンパク質合成は1週目が一番大きいのに、最も筋肥大しているのは10週目という、一見矛盾した状況になっているのだ。

なぜこのような奇妙なことが起こるのか?

実は、この研究では筋トレ開始から1週目、3週目、10週目に置ける筋損傷も測定されている。

筋トレ開始から1週目、3週目、10週目の筋損傷
筋トレ開始から1週目、3週目、10週目の筋損傷

筋損傷の図を見ると、筋トレ1週目が圧倒的に高く、次いで筋トレ3週目、筋トレ10週目となっている。

このように筋トレを繰り返すと筋損傷しづらくなる保護効果が働くようになるのだが、これは”Repeated bout effect(反復効果と呼ぶ。日本語が無いので適当に作った。)”としてよく知られている現象。

少し話がそれたが、実はこの筋損傷をタンパク質合成シグナルから引いた値が、筋肥大になっているのである。

言い換えるなら、筋トレ初期の筋タンパク質合成シグナルというのは筋損傷の修復に使われているだけで、新しい筋肉の合成には繋がらないのである。

ここで「筋肉は修復されるときに大きくなるのでは?」と思う人もいるかもしれない。

確かに筋肥大するために筋損傷が必要かもしれないが、筋損傷が大きければ大きいほど筋肥大するか、といえばそういうわけではない

このことは、実際にこの研究で筋損傷が小さい10週目で一番筋肥大していることからも明らかだろう。

話を戻そう。

筋トレ初心者というのはタンパク質合成シグナルは大きく刺激されるが、それは激しすぎる筋損傷を回復するため。

むしろ筋肉を修復するのに手一杯なので、タンパク質を新しい筋肉を作るために使う余裕など到底ない。

なので、”反復効果”で筋損傷が小さくなる10週目まで筋肥大しなかったのだ。

ここでHMBの話に戻そう。

先ほどHMBは筋損傷を遅らせる働きがあると言った。

ということは、反復効果が得られず筋損傷が激しい筋トレ未経験者がHMBを使うと、筋損傷が緩和されることを意味する。

筋肉の修復に使うタンパク質も少なくて済むので、体は新しい筋肉を使うことにタンパク質を使う余裕が生まれる。

なので、筋トレ未経験者がHMBを使うことにはメリットがある。

一方で、筋トレ経験者というのは反復効果によって筋損傷が十分に少ない。

筋損傷が肥大を妨げているわけではないので、筋トレ経験者がHMBを使っても効果がイマイチ得られない、ということになるのである。

この一連の話が「筋トレ未経験者にはHMBが効果的だが、筋トレ経験者にはHMBが有効ではない」というメタ分析の結果のメカニズム的な説明になる。

HMB-CAより効果的なHMB-FA

今までHMBの効果について述べてきたが、実はこれらの話は”HMBのカルシウム塩(以下HMB-CA)”に関する話。

実は、HMBにはもう一つの形態がある。

それが”HMBの遊離酸(以下HMB-FA)”で、実はHMB-FAのほうがサプリとしての効果が高いとされている。

というのも、HMB-FAはHMB-CAに比べて、同じ量を摂取した時に血中濃度が4倍の速度で急上昇するだけでなく、血中濃度のピークも2倍になることが判明しているから。[1]

1gのHMB-CAとHMB-CAを摂取した時の血中濃度の変化
1gのHMB-CAとHMB-CAを摂取した時の血中濃度の変化

HMB-CAのほうがピークが高く、血中濃度の上昇も急激であることが一目でわかる。

これならHMB-CAで効果が得られない筋トレ経験者でも、HMB-FAなら違った結果になりそうだと期待するのは当然の話。

ということで当然ヒトを対象にした研究が行われるのだが、このHMB-FAの研究は少々波紋を呼ぶことになる。

HMB-FAでステロイドより筋肥大する!?

HMB-FAの研究として、一躍有名になった研究が2件ある。

どちらも同じ研究者による論文で、HMB=FAの効果を調べたものなのだが、その効果が絶大だったために一躍有名になった。

まず一つ目に紹介するのが2014年の研究。[8]

被験者となったのは筋トレ経験のある男性20人で、彼らを2つのグループに分けた。

  • 一日3gのHMB-FAを摂取する
  • 一日3gのプラセボを摂取する

HMB-FAを摂取したグループは筋トレ前に1g、夕方と夜に1gずつと計3gのHMB-FAを摂取。

筋トレはピリオダイゼーションを用いて週3~週5で行ってもらい、12週間後に筋肥大と筋力を測定したのだが、その結果は以下のようになった。

  • 除脂肪体重はプラセボが+2.1kgだったのに対し、HMBを摂取したグループは+7.4kgだった!
  • 体脂肪率はプラセボが-2.1%だったのに対し、HMBを摂取したグループは-6.6%だった!

なんとHMBを摂取したグループは体脂肪率が6.6%も下がったうえに、3カ月で7.4kgもの筋肉を獲得した。

これは筋トレをしたことがある人なら、いかに異常な結果か分かるだろう。

1件の研究で結果が出ただけであれば偶然と片づけることもできるが、その後の2016年の研究でも同じような結果が出た。[9]

被験者となったのは同じく筋トレ経験者で、筋トレなどの条件は同じ。

ただ一つ異なっているのは、HMB-FAを摂取したグループは、HMB-FAと同時にATPのサプリメントを1日あたり400mg摂取していること。

ATPというのは私たちの体でエネルギーとして使われている物質なので、筋肉内でATPが増えれば理論的には筋トレのパフォーマンスが向上する可能性が高い。

とはいえ、2011年の研究では、今回の実験よりはるかに多い量の5000mgのATPを経口摂取しても、血中ATP濃度や細胞内ATP濃度は上昇しなかったことが報告されている。[10]

この研究で唯一増えたのが尿のATP濃度だけだったことから、ATPは経口摂取してもすべて尿として排出されてしまい体内には蓄積されないのだろう。

つまるところ、HMB-FAとATPのサプリを組み合わせた研究ではあるが、実質的にHMB-FAの効果だけだと考えられるのだ。

同様に筋トレは12週間筋トレしてもらい、体組成を測定したところ結果は以下のようになった。

  • 除脂肪体重はプラセボが+2.1kgだったのに対し、HMBを摂取したグループは+8.5kgだった!
  • 体脂肪率はプラセボが-2.4%だったのに対し、HMBを摂取したグループは-8.5%だった!

こちらの研究でもHMBを摂取したグループは体脂肪率を8.5%も落としつつ、徐脂肪体重は8.5kgも増やすという離れ技をやってのけたのである。

この2件の研究はあまりに絶大な結果を出したために、当然のようにスポーツ科学界では結果が疑問視されている。

というのも、この結果は1996年に行われたアナボリックステロイドによる筋肥大効果すら上回るものだから。[11]

この研究では600mgのテストステロンを摂取しながら筋トレしたところ、被験者は6.1kgの筋肉を獲得し、脂肪は-0.1kgと変化しなかったことが報告されている。

先ほどのHMB研究2件は、このステロイド研究より2週間長い。

とはいえ、獲得した筋肉量は+7.4kgと+8.5kgであり、ステロイドの6.1kgを上回っている。

この莫大な筋肉量の増加だけでも驚きだが、それに加えてHMB研究では体脂肪率も6~8%も落ちているのだ。

このあまりに絶大な研究結果が、しかも同じ研究者から出されたことにより、「本当にこれほどの結果が出るのか」と批判の的になったのである。

HMB-FAは本当に効果があるのか?問題

とはいえ、結果があまりに絶大だからと言って、それだけを理由に”ウソ”と決めつけることは、それはそれで科学からかけ離れた態度。

「その後のHMB-FAに関する研究で結果が再現されたのか」を見る必要がある。
この問題に切り込んだのが2019年の研究。[12]

被験者となったのは筋トレ歴のある男性40人で、彼らを4つのグループに分けた。

  • HMB-CAを1回1gを計3回摂取する
  • HMB-FAを1回1gを計3回摂取する
  • α-HICAを1回500mgを計3回摂取する
  • プラセボを摂取する

HMBを摂取するグループは、HMB-CAもHMB-FAも、今までの研究と同じように1日3gのHMBを摂取。

そして、3つ目のグループには「α-HICA(α-ヒドロキシイソカプロン酸)」と呼ばれる物質を摂取してもらった。

このα-HICAが何かというと、これはHMBと同じくロイシンの代謝物。

実はα-HICAに関しては、2010年のサッカー選手を対象にした研究で「徐脂肪体重をわずかに増やした」ということが報告されている。[13]

しかし、他の研究がほとんど行われておらずハッキリとした効果は不明のまま。

そこで、HMBを含めた未だ議論の余地が多いロイシンの代謝物3つの効果を調べることこそが、この研究の目的になる。

筋トレ内容としては週3日の全身トレーニングで、ピリオダイゼーションを用いているところも以前の研究と同じ。

まさに今までの研究の再現研究と言えるだろう。

このような条件で「ロイシン代謝物は筋トレの効果を増やすのか?」を調べたところ、8週間後の結果は以下のようになった。

  • どのグループも同じくらい外側広筋が筋肥大した!
    (HICA:+8%、HMB-FA:+6%、HMB-CA:+9%、プラセボ:+8%)
  • どのグループも同じくらい大腿直筋が筋肥大した!
    (HICA:+3%、HMB-FA:+4%、HMB-CA:+6%、プラセボ:+8%)
  • どのグループも同じくらいベンチプレスとバックスクワットが向上した!
  • コルチゾール、成長ホルモン、クレアチンキナーゼ(筋損傷のマーカー)などの血中マーカーもグループ間で差はなかった!

結果は分かりやすいもので、HMB-CAを摂取しようがHMB-FAを摂取しようがHICAを摂取しようが、筋トレの成果は一切変わらなかったのだ。

この研究では先ほどの研究と打って変わって、HMB-FAはHMB-CAと同じく、筋トレ経験者に対しては効果を発揮しなかった。

ちなみに公平を期すために言うと、この研究ではタンパク質が大量であるためにHMBで結果が出なかったとする意見もある。

というのも、この研究では被験者は徐脂肪体重あたり1.6kg以上のタンパク質を取るように指示されており、実際に被験者が摂取していたたんぱく質量は、体重当たり2.95g~3.31gとどのグループもかなり多い。

タンパク質を大量に摂取しているということは、アミノ酸であるロイシンも多く摂取していることを意味する。

ということはロイシン代謝物も体内に多いと思われ、このことがロイシン代謝物のHMBが効果を発揮しない理由となった可能性がある。

つまり、一般的なトレーニーに推奨されているタンパク質量である1.6/kg~2.4g/kgであれば、HMB-FAが効果を発揮する可能性はある、というのだ。

とはいえ、この大量のタンパク質がHMBの効果を打ち消したのかどうかは現時点では誰にも分からない。

やや保守的な結論ではあるが、筋トレ経験者に対するHMB-FAの効果はあまり期待できない、とするほうが無駄なお金を使わなくて済むだろう。

まとめ:実践的アドバイス

今回はHMBについて紹介したので、最後に実践的なアドバイスとしてまとめておこう。

  • HMBはHMB-CAよりHMB-FAが効果的
  • これから筋トレを始める人はHMBから(小さな)メリットを得られる
  • 筋トレ経験者に対するHMBの効果は断定こそできないが、あまり期待しないほうが良さげ

これから筋トレを始める人にとって、お金に余裕があればHMB-FAは試してみる価値があるだろう。

一方で筋トレ経験者にとって、HMB-FAが効果があるかは未だに議論されているところ。

とはいえ、ステロイドを越えるほどの効果を期待するのは現実的ではないだろう。

HMBを無理して買う必要は決してなく、お金に余裕があり、なおかつ少しでも可能性があるものは試してみたい、という人は買ってもいいかもしれない。参考までにどうぞ!

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