筋トレ経験者ほど追い込まないほうが筋肥大する科学的理由

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「筋トレは限界まで追い込むことが重要!」

と以前は言われていたものだが、現代の科学ではどのような結論になっているのだろうか?を紹介するシリーズの第2回目。

前回の記事では「筋トレの追い込みとボリューム・RPE(主観的疲労度)」の関係を紹介したので、今回は筋トレの追い込みと「筋力・筋肥大」に関する話をご紹介。

まずはその中でも、筋トレを「追い込むvs追い込まない」の二項対立で行われた実験を紹介していこう。

目次

筋トレは追い込んでも追い込まなくても変わらない?

まず紹介するのは、2018年の研究。[1]

被験者となったのは男性28人で、追い込むか追い込まないか、高強度かどうかで被験者の各足を4つの条件に振り分けたもの。

  • 追い込む高強度トレーニング
  • 追い込まない高強度トレーニング
  • 追い込む低強度トレーニング
  • 追い込まない低強度トレーニング

高強度グループは80%1RM、低強度グループは30%1RMでのトレーニングをしてもらった。

筋トレはレッグエクステンションを週2回で行ってもらい、実験12週間後にボリュームや筋力向上、筋肥大を測定。

まず筋トレのボリュームだが、結果は以下のようになった。

  • 高強度は低強度と比較してボリュームが多かった!
  • ボリュームは追い込んだグループと追い込んでいないグループで差はなかった!
    (高強度追い込み:12,795kg, 高強度追い込まない:12619kg, 低強度追い込む:9,923kg, 低強度追い込まない:9,755kg)

高強度グループは低強度グループより多くのボリュームをこなしたが、追い込むか追い込まないかで合計のボリュームは変わらず。

これは以前の記事でも紹介したように、追い込んで初めのほうのセットこそレップ数が増えるが、セットの後半ではレップ数が急激に減少することが原因だろう。

そして次は肝心の筋力と筋肥大に関する結果だが、まずは筋力の結果は以下のようになった。

12週間に及ぶ筋力の結果(HIRT-F:高強度追い込み HIRT-V:高強度追い込まない LIRT-F:低強度追い込む LIRT-V:低強度追い込まない)
12週間に及ぶ筋力の結果(HIRT-F:高強度追い込み HIRT-V:高強度追い込まない LIRT-F:低強度追い込む LIRT-V:低強度追い込まない)

どのグループも筋力が向上しているが、その上昇率はグループによって差はないという結果になった。

筋力が強度に反応することを考えると意外な結果だが、その原因はハッキリ言って謎。

ただ、とりあえず筋トレを追い込むかどうかが筋力向上に影響を与えないことは間違いない。

そして次は筋肥大の結果。

2週間に及ぶ筋力の結果(HIRT-F:高強度追い込み HIRT-V:高強度追い込まない LIRT-F:低強度追い込む LIRT-V:低強度追い込まない)
2週間に及ぶ筋力の結果(HIRT-F:高強度追い込み HIRT-V:高強度追い込まない LIRT-F:低強度追い込む LIRT-V:低強度追い込まない)

筋肥大も結果は同様で、どのグループも筋肥大し、その上昇率はグループ間で変わらないという結果に。

こちらもボリュームが低強度のほうが少ないことを考えると意外な結果。

ただし、今回の主題である「追い込むかどうか」という文脈で考えると、筋トレを追い込むかどうかは筋肥大に影響しないようである。

次に、女性を対象にした大規模研究である2017年の論文を紹介しよう。[2]

被験者となったのは女性89人で、彼女らを3つのグループに分けた。

  • RF:3セットの筋トレを追い込む
  • RNFV:RFと同じボリュームで追い込まないで筋トレする
  • RNF:追い込まないで筋トレする

まず、この研究で基準となるグループがRFグループ。

このグループは70%1RMの重さで3セットの筋トレを行なうという、オーソドックスな筋トレをした。

そしてRNFVは、RFグループと同じボリュームの筋トレを追い込まないで行ったグループ。

70%1RMで7レップとレップ数を控えめにする代わりに、その分セット数を1セット追加することでボリュームを揃えている。

そして、RNFは、RNFVと同じく70%1RMで7レップだが、セット数は追加せず3セットにしたグループ。

この3セットで条件を比較したところ、まずボリュームは以下のようになった。

各条件におけるロードボリューム
各条件におけるロードボリューム

追い込まないでレップ数を控えめにし、セット数を追加しなかったグループだけが、残り2つのグループよりボリュームが少なくなっている。

これは問題ないだろう。

そして次は、メインの結果である筋肥大の結果を見てみよう。

各グループの5週目と 10週目の変化
各グループの5週目と 10週目の変化

ボリュームが同じのRFとRNFVはどちらも筋肥大を達成し、その向上率は同じくらいだった。

ちなみに、この研究では追い込んだグループにやや有利な傾向は見られたが、グループ間で有意差があるレベルではなかった。

そして、ボリュームが少なかったRNFグループは筋肥大を達成することはなかったが、結果はp=0.09と、有意差のp=0.09にギリギリ届かないくらいのレベル。

この研究から何がわかるだろうか?

まず筋力向上に重要なのが強度なことと、どのグループも70%1RMでトレーニングをしていたことを考えると、筋力が同じくらい向上したという結果から、筋トレを追い込むかどうかと筋力向上には関係がないといえるだろう。

実は、筋力に関しては、筋トレで追い込まなくても追い込んだときと同じくらい向上するか、むしろ筋トレは追い込まないほうがいいことが、2016年のメタ分析でも明らかになっている。[3]

要するに筋トレは追い込まないほうが筋力向上には有利なのである。

しかし、筋肥大となると少し様子が違ってくる。

これまでの研究では追い込むかどうかは筋肥大と関係ない(か追い込むに有利な傾向)があったのだが、筋トレを追い込まないほうが有利だったとする研究もあるのだ。

筋トレに熟練するほど追い込まないほうがいい?

筋トレは追い込まないほうが有利であるとした例として、2019年の研究を紹介しよう。[4]

被験者となったのはトレーニング経験のある男性15人で、筋トレ歴は平均7.7年とかなりのベテラン揃い。

彼らを2つのグループに分け、筋トレをしてもらった。

  • Repetiton Maximum:追い込む
  • Relative Intensity:追い込まない

片方のグループはポテンシャル100%の労力の筋トレ、すなわち限界まで追い込んだ筋トレをしてもらった。

そして、もう片方のグループには65-92.5%の労力で筋トレをしてもらい、限界まで追い込むことをしないでもらった。

筋トレは全身トレーニングを週3で行ってもらい、10週間後に筋肥大を測定したのだが、結果は以下のようになった。

A:タイプ1繊維の断面積 B:タイプ2繊維の断面積
A:タイプ1繊維の断面積 B:タイプ2繊維の断面積
A:筋肉の断面積 B:筋肉厚さ
A:筋肉の断面積 B:筋肉厚さ

どの指標においても、筋トレを追い込まないグループのほうが筋肥大したという結果になったのである。

それでは、なぜ先ほどの研究とこの研究で、このような違いが生まれてたのだろうか?

その原因の一つに”トレーニング歴”があるとされている。

というのも、トレーニング適応の中に”筋繊維のリクルート率の向上”があるからである。[5]

具体的にいうならば、セットの最初のレップから筋肉の運動単位を多く動員できる能力なのだが、これこそがトレーニング熟練者が追い込む必要がない理由とされている。

まずそもそも筋肥大をするためには、筋肉に物理的な力がかかることが必要とされている。[6]

セットを通して疲労するにつれてモーターユニットの運動単位の動員が増加する。

限界点近くになるとすべての運動単位が動員されるので、刺激が全体に行きわたり筋肥大するというのが通説になっている。[7,8]

このときトレーニングを長年していて運動単位をセットの初めから多く動員できるようになっていると、限界点からかなり離れていても運動単位を全て動員できる可能性が高い。[9]

なので、トレーニング初心者のように疲労するまでトレーニングしなくても、すべての筋繊維が効率的に刺激できる。

疲労は少ない上にすべての運動単位を刺激できているので、追い込まないほうが筋トレの成果がでるのである。

熟練のトレーニング経験者を対象にした研究は少ないので、この問題に関してはまだ分からない部分も多い。

しかし、このような理由から、トレーニング経験のある人は、トレーニング未経験者に比べて追い込まないことで無駄な疲労を回避できるので、メリットを得やすくなっている可能性が高いのである。

追い込む筋トレはハイリスク問題

最後に、この2019年に行われた研究の派生版である2018年の研究を紹介しよう。[10]

被験者となったのは同じ人々で、筋トレのプロトコルも一緒。掲載されている結果だけが違う。

この論文では10週間に及ぶ実験期間中の筋力の推移が結果として示されているのだが、その結果は以下の通り。

実験期間中の筋力の推移(上:平均値 下:個人の値)
実験期間中の筋力の推移(上:平均値 下:個人の値)

黒線が筋トレを追い込まなかったグループ、灰色線が筋トレを追いこんだグループとなっている。

まず上の平均値だが、追い込んでないグループは一定のペースで筋力が向上している。

一方で追い込んだグループは筋力の向上率が不均一で、一時的に下がっている時期も存在する。

そして、注目すべきは個人の筋力変化である。

追い込んでいないグループは全員が同じくらい筋力が向上している。

それに対して、追い込んだグループは筋力が爆発的に向上している人もいるが、筋力が実験終了後に低下している人もいる。

つまるところ、個人によって成果のばらつきが大きいのである。

ちなみに、このようにばらつきが出た理由は、疲労が大きすぎることによるオーバーワークなどと言われているが、はっきりとした理由は不明。

とはいえ、結果から言えるのは、追い込んでトレーニングするより、追い込まないでトレーニングするほうが着実な成果を挙げられるということ。

このように着実な結果が出せる可能性が高いことも、追い込まないトレーニングのメリットと言えるだろう。

まとめ:実践的アドバイス

今回は筋トレの追い込みに関する文献を紹介したので、最後にその内容を簡単にまとめておこう。

  • 筋力においては、追い込まないでも追い込むトレーニングと成果は変わらないか、追い込まないほうが良さげ。
  • 筋肥大においては、追い込まないほうがメリットが大きい。そして、トレーニング経験者ほど追い込まないメリットが大きいかもしれない。
  • 筋トレは追い込まないほうが確実な結果が出せる。

確実に筋トレの効果が出たり、疲労マネジメントがしやすくなったりと、現段階では筋トレは追い込まないほうがメリットが多い。

少なくとも筋トレは追い込まないと全然結果が出ない、などという心配はしなくて良いだろう。

そして、今シリーズの次回は「どれくらい追い込まなくても筋トレは効果が出るのか?」という話題。

あと1回できるくらいでやめるべきなのか?はたまた3回くらい余力を残しても大丈夫なのか?を紹介予定。お楽しみに!

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