ボリュームは少なすぎても多すぎてもいけない、逆U字曲線を描く!
というのが前回までの話。(R)

そうなってくると、当然何セットから筋トレの効果が出始めるのか?何セットが最適な筋トレのボリュームなのか?という話になってくる。
ということで、今回は筋トレの具体的なセット数の話。
何セット行うべきか、そしてどのようにボリュームを増やしていけばいいのか?という話を見ていこう。
筋トレの効果は1セッション何セットから?
まず、筋トレに関してはやればやるほど効果が上がる...いわゆるボリュームに対して「用量依存性」があることがわかっている。
すなわち、やればやるほど効果が出るのである。
このボリュームに対する用量依存性を示した有名な論文は2つで、”セッションあたりのボリューム”と”週あたりのボリューム”を調べたもの。
まず初めに紹介するのは、セッションボリュームに関する研究、2010年に行われた「1セット vs 複数セット」を比較したメタ分析である。(R)
この研究は、いわば「筋トレは1セットでいいのか?複数セットやるべきなのか?」問題に決着をつけるべき行われた研究。
というのも、この時代のフィットネス界では「筋トレは1セットで十分」という考えが主流だったから。
実際に、アメリカスポーツ医学界のガイドラインでは「筋トレは週2,3回、8-10種目を1セットやれば十分」とされていた。(R)
複数セットは時間がある人やアスリート向けのプログラムと言った立ち位置で、実際に「複数セットはシングルセットより効果的じゃない」と主張する人もいたくらい。(R、R)
ということで、この「複数セットでも1セットより効果的じゃないのか」問題に白黒つけるべく行われたのが今回のメタ分析なのだが、抜き出された研究は全部で8件。(R、R、R、R、R、R、R、R)

ほとんどの研究は各筋群に対して1つのエクササイズしかしていないので、”エクササイズボリューム=各筋群あたりのボリューム”になる。
つまるところ、各筋群に対して1セットを週2,3回しか鍛えていないので、今の常識からしたらかなりの低ボリューム。
ただし、1997年の研究だけは例外。1つの筋群あたり3つほどエクササイズしているので、この研究だけは()内に各筋群あたりのボリュームも書いておいた。
それはさておき、今回抜き出された研究の特徴は以下の通り。
- 被験者はトレーニング未経験者がほとんど
- エクササイズボリュームのほとんどは3セット未満で、4セット以上のデータはほぼ含まれていない。
要するに、トレーニーに対する研究は不足していることに加え、4セット以上を調べた研究は1つしか無く、7セット以上を調べた研究に至っては一切ない。
現在、私たちが”高ボリューム”と読んでいるような研究は含まれていないのである。
何はともあれ、これらの研究からセット数と筋力/筋肥大を調べたところ以下のような結果に。

まずは左側の筋肥大から見てみると、セット数が上昇するにつれて筋肥大効果も上昇していることがわかる。
用量依存性(Dose-response)があり、まさに「やればやるほど効果が出る」のである。
一方で、筋力に関しては1セットより3セットのほうが効果的だが、6セットまで増やしても3セットより筋力が向上したわけではないという結果に。
ちなみに、筋力はボリュームに対する用量依存性が弱く、代わりに強度に反応しやすい。
要するに高強度トレーニングが筋力向上に不可欠なのである。(来月まとめる予定)
何はともあれ、筋トレをするなら1セッションで各筋群あたり4~6セットまでは「やればやるほど効果が出る」といえそう。
ほとんどの研究が週2,3で筋トレをしていたことを考えると、ウィークリーボリュームに換算すると8~18セットと言ったところ。
そして、ここで一つ注目してほしい点がある。それは、1セットでも筋トレの効果は出ているということである。
前回も話したように筋トレとボリュームには逆U字型曲線があると言われている。
ここで「効果が出始めるのが何セットからなのか?」と問われれば、それは間違いなく1セットである。
今の常識で考えると、週2でたった1セットのエクササイズをしても筋肥大なんかしないように思えるかもしれないが、そんなことはない。
たった1セットでも筋肉はつく。
とはいえ、このマガジンの読者はおそらく筋トレの優先度がそれなりに高いだろう。
1セッションあたり4-6セットまでは間違いなく”やりすぎ”になることはないだろう。
週あたり何セットやればいい?
この2010年のメタ分析を週あたりのボリュームに換算するなら、それは8~18セットに相当すると言った。
週あたりのボリュームに関しては、その後の2017年に「週あたりのボリュームと筋肥大」を調べたメタ分析が行われている。(R)
このメタ分析は先ほどの研究より大規模なもので、今回抜き出された筋トレ研究は15件。(R、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R、R)

まず、このメタ分析では絶対に知っておかなければならない事がある。
それは、このメタ分析ではセット数にメイン種目のみならず、サブ種目も含まれている事である。
例えば、上腕二頭筋のセット数をカウントするときにはロー系のラットプルダウンが含まれているし、上腕三頭筋のセット数をカウントするときはプッシュ系のベンチプレスなどが含まれている。
おそらく多くの人が”上腕二頭筋を週30セット鍛えた”と聞くと、バーベルカールやダンベルカールを週30セットをこなしているように想像するだろうが、実際はラットプルダウンやベントオーバーローなども含んで週30セットである。
なので、今回は各研究から”メイン種目のセット数”も抜き出しておいたが、実際にメイン種目のセット数はそこまで多くないことがわかる。
一見するとウィークリーボリュームに30セット近い高ボリューム研究が含まれているように見えるが、実際に直接的にその筋群を鍛えているのは週12セットや週15セットくらいなのである。
そこに注意しつつも、抜き出された研究の中には先ほどの2010年のメタ分析と被っているものもあり、抜き出された研究の特徴もほとんど同じ。
- 筋トレ経験者のデータはほとんどない。
- 高ボリュームを調べたデータはほとんどない。
まず、筋トレ経験者を対象にした研究は15件中3件しか含まれていない。
そして、ここが一番肝心なことだが、各筋群あたりのウィークリーボリュームを見ても多くが10セット未満で、20セット以上の高ボリューム研究は皆無なのである。
実際に、このメタ分析では4セット以下が低ボリューム、5-9セットが中程度のボリューム、10セット以上が高ボリュームというように分類されている。
そして、これらの研究をもとに週あたりのセット数と筋肥大について調べたところ、以下のような結果になった。
- <5セット :5.5%の筋肥大
- 5-9セット :7.2%の筋肥大
- >10セット :8.6%の筋肥大
つまるところ、セット数を重ねれば重ねるほど筋肥大するという結果になったのである。
ここで>10セット筋トレをしたときの筋肥大率を図にしてみよう。

まず注目に値するのが、10セット以上の筋肥大効果を100とするとその64%にも当たる筋肥大が4セット以下の筋トレからもたらされていること。
つまるところ、先ほども言ったように多くの人が思っているよりずっと少ない週4セットというボリュームでも筋トレの効果が出ることがこのメタ分析でも示されている。
そして、筋トレのセット数が増えるほど確かに効果が上がっているが、その効果は明らかに先細りになっている。
要約すると、週あたり10セットまでは「やればやるほど効果がでる」可能性が高い。
なので、筋トレの時間を極限まで削りたい人でなければ、週10セットは確保しておくのが無難と言える。
高ボリューム、やればやるほど効果が出る!
少なくとも週10セットまでは、筋トレは「やればやるほど効果が出る」用量依存性があることが分かった。
しかし、これまでの時代の問題点として”高ボリューム研究がない”ということがあるので、この効果がどこまで続くかはわからない。
こうなってくると「じゃあめっちゃ高ボリュームにすればするほど筋肥大効果もめっちゃ増えるのか?」という疑問を皆が持つのは当然のこと。
ということで、高ボリュームに関する研究がいくつか行われるようになった。(しかも、研究が少ないトレーニーを対象にしている。)
まず紹介するのは2019年に行われた「トレーニーに高ボリュームの筋トレは効果的か?」を調べた研究。(R)
被験者となったのはトレーニー男性34人で、彼らを3つのグループに分けた。
- ローボリューム :1セット/1エクササイズ、1筋群あたり6-9セット/週
- 中程度のボリューム:3セット/1エクササイズ、1筋群あたり18-27セット/週
- ハイボリューム :5セット/1エクササイズ、1筋群あたり30-45セット/週
ちなみに1筋群あたり30-45セットというとバカみたいな高ボリュームに聞こえるが、この研究でも先ほど同様、その筋肉がメインターゲットでは無く補助的に使われている種目も1セットとカウントしているので、このようにめちゃくちゃ高ボリュームに見えるだけ。(結果のときに詳しく書く)
頻度は週3で行われており、具体的なエクササイズとして「バックスクワット・レッグプレス・レッグエクステンション・ベンチプレス・バーベルプレス・ラットプルダウン・ケーブルロー」から成る全身トレーニング。
8週間にわたり筋トレをしてもらい、それぞれのグループの筋肥大率を調べたところ以下のような結果に。

結果としては非常にわかりやすいもので、ボリュームを増やせば増やすほど筋肥大するという”用量依存性がある”という結果に。
セット数について数えてみると、まず上半身である上腕二頭筋と上腕三頭筋は、プレスやローの種目を数えると週あたり30セットまでは「やればやるほど効果が出た」ということになる。
ちなみに、具体的なエクササイズをみるとわかるが、今回の研究では上腕三頭筋と上腕二頭筋は”直接的には”鍛えられていない。
ケーブルプレスダウンやバーベルカールのような種目はなく、プッシュ系やプル系で間接的に鍛えられただけ。
なので、この結果を解釈すると、上腕二頭筋・三頭筋はメイン・サブ種目含めて30セットまでは「やりすぎ」にならなかった...と結論づける事ができる
実際に、腕の筋肉をプレス系とロー系を入れて30セットはそこまで多すぎるという訳ではなく、これくらいのボリュームをこなしている中級トレーニーは割といると思われる。
閑話休題、スクワット系とレッグエクステンションの違い
そして、次は下半身の結果を見てみよう。
ただ、この結果を詳しく説明しようとするとスクワット系種目とレッグエクステンションの違いを説明しなければならない。
というのも、スクワットやレッグプレスのようなコンパウンド種目とレッグエクステンションのようなシングルジョイント種目では、同じ大腿四頭筋でも刺激が変わるのである。
実際に、2021年に「スクワットとレッグエクステンションで筋肥大する場所が違うのでは?」という研究が行われている。(R)
トレーニー27人を対象にスクワットとレッグエクステンションで2つのグループに別れてトレーニングしてもらったところ、スクワットでは外側広筋が6.0%大きくなり、レッグエクステンションでは大腿直筋が8.8%大きくなった。
実際に、どの筋肉が大腿四頭筋のどこに当たるかを見てみよう。

要するに、レッグエクステンションでは真ん中の筋肉が大きくなり、スクワットでは外側の筋肉が大きくなったのである。(そして、計測されていないだけでおそらく内側も)
なぜこんなことが起こるのかというと、筋肉のつき方がキーポイントになる。
大腿直筋は股関節と膝関節の2つにまたがる筋肉である一方で、外側広筋と内側広筋は膝関節だけにまたがって付いている筋肉である。
つまるところ、大腿直筋には”股関節を膝蹴りする動作”と”膝をキックする動作”の2つの動作に関わっている一方で、外側広筋と内側広筋は”膝をキックする動作”しかないのである。
そして筋トレ時の関節の動きに注目すると、大腿直筋はスクワットをするとき、股関節では大腿直筋を伸ばす方向に動くのに対して、膝関節では大腿直筋を収縮する方向に動くのである。
なにやら話がややこしいが、平たくいえばスクワットの動作時には大腿直筋は”筋長があまり変わらない=刺激が入りづらい”のである。
逆に、股関節が固定されていて膝関節だけが関係するレッグエクステンションの時には、大腿直筋は収縮作用しか働かない。
なので、大腿直筋を鍛えたければ、スクワットよりレッグエクステンションがベターなのである。
要するに、言ってしまえば「スクワット系=外側広筋&内側広筋の種目」であり「レッグエクステンション=大腿直筋の種目」と考えることができるのである。
下半身の発達に必要なボリュームを吟味しよう
このことを念頭に置いて、先ほどの2019年に行われたボリューム研究をもう一度考えてみよう。
この研究で行われた下半身の種目は”1セットor3セットor5セット”の「スクワット・レッグプレス・レッグエクステンション」である。
まずは、これをあえて今さっき説明した2021年の研究を踏まえて「スクワット&レッグプレス=外側広筋の種目」と考え、「レッグエクステンション=大腿直筋の種目」と考えてみよう。
このようにしてセット数をカウントすると、大腿直筋は20セットまでは「やればやるほど効果が出た」ことになり、外側広筋は30セットまでは「やればやるほど効果が出た」ことになる。
あるいは、そんな風に分けて考えず、脚トレは週あたり45セットまでやっても「やればやるほど効果が出る」用量依存性があると考えることもできる。
上半身の結果と合わせると、この研究から得られる結果は以下のようになる。
- 上半身はメイン・サブ種目含めて週あたり30セットまで用量依存性があった!
- 下半身はメイン・サブ種目含めて週あたり45セットまで用量依存性があった!
なぜあえて上半身・下半身で結論を分けたかというと、実は「上半身より下半身のほうが高ボリュームが必要かもしれない」という考えがわりと受け入れられているから。(R)
つまり、上半身と下半身では必要なボリュームが違う可能性があるのである。
これらの結果を見ると、下半身で上限ギリギリ週あたり45セットはかなりハイボリュームな気がするが、上半身のメイン・サブ種目含めて30セットはそこまで多いわけではない...が、割と高ボリュームでも用量依存性があるな〜と言った印象。
ここで他の高ボリューム研究を見てみると、2022年にも”トレーニーかつ高ボリューム”を調べた研究が行われている。(R)
被験者となったのはトレーニー男性27人で、彼らを3つのグループに分けた。
- 16セットグループ:1筋群あたり16セット/週
- 24セットグループ:1筋群あたり24セット/週
- 32セットグループ:1筋群あたり32セット/週
筋トレとしては各筋群を週2の頻度で鍛えているのだが、こちらも先ほどのように”補助種目”も含んでいる。
ただし、上腕二頭筋・三頭筋に関しては、先ほどのように全てが補助種目という訳ではない。
具体的なエクササイズで説明すると、筋肉厚さが計測された上腕二頭筋・上腕三頭筋・外側広筋のエクササイズは、一番ボリュームの多い32セットグループで以下のようになっている。
- 上腕二頭筋:ラットプルダウン16セット+バイセップカール16セット
- 上腕三頭筋:ベンチプレス16セット+ケーブルプルダウン16セット
- 外側広筋:スクワット16セット+レッグエクステンション16セット
基本的に、コンパウンド種目とシングルジョイント種目で半分ずつといった構成になっており、腕は直接的に鍛えている分、先ほどの研究より刺激が多い。
8週間後に被験者の筋肉厚さを測定したところ、以下のような結果に。

こちらの研究も分かりやすい結果で、筋トレのボリュームが上がるほど筋肥大したという結果に。
上半身・下半身共に、メイン・サブ種目込みで週あたり32セットまでは「やればやるほど効果が出た」という用量依存性があるという結果に。
何度も書きすぎてしつこいと怒られそうだが、これらの研究は”サブ種目”も含んでいることには注意である。
上腕二頭筋や上腕三頭筋をメインターゲットにした種目を30セット以上やるというバカみたいに聞こえるが、ロー系やプレス系をカウントするなら週あたり30セットくらいやっている人は意外と多くいるはず。
何はともあれ、意外と高ボリュームでも用量依存性が見つかっており、筋肥大効果を減退させる明確な”天井”は見つかっていない。
とはいえ「筋トレとボリュームの関係は逆U字型曲線を描く」という仮説が立つくらいなので、ボリュームを上げすぎたら逆効果となったという研究もある。
ということで、今度はボリュームをあげたら筋トレの効果を損なったという研究を見てみよう。
筋トレをやりすぎると逆効果になる?
ちなみに高ボリュームのほうが筋肥大しなかった!という研究はあるが、そこまで数が多いわけではない。
一番有名なのは、以前も紹介した2017年の研究。(R)
被験者となったのはトレーニー19人で、彼らは主要なエクササイズを”5セットor10セット”で2つのグループに分けられた。
実際に行っていたエクササイズは以下の通り。
- セッション1
- ベンチプレス:10回× 5 or 10 セット
- ラットプルダウン:10回 × 5 or 10セット
- インクラインベンチプレス:10回 × 4セット
- シーテッドロー:10回 × 4セット
- クランチ:20回 × 3セット
- セッション2
- レッグプレス:10回 × 5 or 10セット
- ランジ:10回 × 5 or 10セット
- レッグエクステンション:10回 × 4セット
- レッグカール:10回 × 4セット
- カーフレイズ:20回 × 3セット
- セッション3
- ショルダープレス:10回 × 5 or 10セット
- アップライトロー:10回 × 5 or 10セット
- トライセップスプッシュダウン:10回 × 4セット
- バーベルカール:10回 × 4セット
- シットアップ:20回 × 3セット
実際に筋肉厚さが計測された上腕二頭筋と上腕二頭筋のボリュームは、ロー系やプレス系も含むとメイン・サブ種目合わせて数えるとどちらも”13セット vs 18セット”となる。
今までの研究に比べて、そこまでセット数が多いわけではない。
6週間の筋トレ後、どちらのグループも有意差には届かなかったが、筋肥大率は低ボリュームのほうが有利だった。
- 三頭筋の厚さは10セットグループのほうが有利だった!(10セット:+10.7%, 5セット:+5.6%)
- 二頭筋の厚さは5セットグループのほうが有利だった!(10セット:+0.9%, 5セット:+7.3%)
- 筋力向上は5セットグループのほうが大きく、その値はベンチプレス(10セット:+6.2%, 5セット:14.9%)、ラットプルダウン(10セット:+4.5%, 5セット:+15.1%)だった!
三頭筋の厚さは10セットのほうが有利だが、おおむね低ボリュームのほうが有利なことがわかる。
他の研究としては、上腕二頭筋をサブ種目込みで”9セット vs 18セット vs 27セット”で比較したところ、筋肥大率がそれぞれ4.3%,9.3%,5.4%だったというものがある。(R)
こちらの研究でも、週27セットという高ボリュームより、週18セットのほどほどの多さのほうがきん肥大したのである。
では、これらの違いは何が原因なのだろうか?
なぜ高ボリュームでうまくいかないことがあるのか?
先に断っておくと、現段階で「常に高ボリュームがいいとは限らない」というのはよく知られているが、実はその原因と、どれくらいのボリュームが多すぎになるのか?は正直言ってはっきりとわかっていない。
つまらないことを言えば、高ボリューム研究はおそらくこれからが本番。
徐々に高ボリューム研究が増えていけばそのうち結果がわかると思うが、今回は現段階で行われているいくつかの推測を見てみよう。
まず第一に2017年の研究が批判されている点として、この10セット法を調べた研究では”週1”しか鍛えていないことがある。
というのも、現段階における頻度については、2016年のメタ分析から「週2以上は鍛えたほうがいい」ということが常識になっているから。(R)
2019年と2022年の研究はそれぞれ週3と週2で鍛えており筋トレに最適な頻度を満たしている。一方で、2017年の研究は週1しか鍛えていない。
よって「筋トレに最適な頻度をこなしていないので2017年の研究はいまいち成果が出なかったのでは?」と言われていることもある。
しかし、個人的には「それは確かにそうだけど、高ボリュームのほうがうまくいかなかった説明としてはイマイチ」と思っている。
そして、もう一つの説明が個人的にはしっくりきている。
それは「被験者のトレーニング経験の違い」である。もう一度、3つの高ボリューム研究の被験者の筋トレ歴と実験開始前のベンチプレス重量を見てみよう。
- 2019年:筋トレ歴4.4年、ベンチプレス重量93.8kg
- 2022年:筋トレ歴3.4年、ベンチプレス重量98kg
- 2017年:筋トレ歴1年、ベンチプレス重量62kg
筋トレ歴もさることながら、ベンチプレスの重量が桁違いなのがわかる。
トレーニーのみなさんなら、100kg近いベンチプレスと60kg弱のベンチプレスでは、トレーニーとしての熟練度が全く違う事がわかるだろう。
つまり、2017年の研究と比較して、2019年の研究と2022年の研究はかなり鍛えられたトレーニーであることがわかる。
なぜこのことが重要かというと、実は「ボリュームは徐々に上げるほうが効果的」というエビデンスがあるから。
つまり、この2017年のビギナートレーニーにとって、この10セット法はあまりに急激にボリュームを上げすぎた可能性があるのである。
トレーニーに関するボリューム研究を読み解くコツ
このことは、トレーニー研究を読み解く上で重要な概念。
平たく言えば、トレーニーのボリューム研究では〇〇セットという絶対値より、「今までのボリュームからどれだけ増えたか?」という相対値が結果に影響を及ぼすのである。
このことを具体的に示したのが2022年の「22セット vs 20%ボリューム増」を比較した研究。(R)
被験者となったのはトレーニー男性16人で、被験者は脚を2通りの方法で鍛えた。
- 週あたり22セットのレッグプレス
- 今までのボリュームから週あたりのボリュームを20%増加させレッグプレス
どちらの足も週2で筋トレを行い、8週間後に筋肉厚さを計測したところ、以下のような結果に。

まず左のグループを見ると、22セットで固定されたグループの色なしバーより、ボリュームを20%増加させた色付きバーのほうが筋肥大している事がわかる。
そして、右側の図は20%増加グループと22セットグループの比較を表している。
16人中10人が20%ボリュームを増加させたときにより筋肥大している一方で、22セット時のほうがきん肥大したのは16人中たった2人だけである。
そして、16人中4人はどちらの条件でも同じくらい筋肥大した。
要するに、絶対値で22セットと決めるより、ボリュームを20%上げたグループのほうが成績が良かったのである。
もしあなたがトレーニングをしていてセット数を増やそうとしているなら、「その値は何セットにしようか?」と考えるより「20%増やそう!」と相対値で考えるほうがうまくいく可能性が高い。
いくらボリュームに依存性があるからと言って急激にボリュームを上げるより、「今までのボリュームから20%増加させる」というように、徐々にボリュームを増やしていくほうがいいのである。
何セットから始めるか?いつセット数を増やすか?
なにやら色々な研究を見てきたので、セット数についてのまとめに入ろう。
まず、スタート地点として、確実に効果が無駄にならないだろうセット数は”週あたり10セット”である。
ここから始め、筋トレ歴が長くなるにつれてセット数を上げたいときは、絶対値ではなく”+20%”という相対値で考えるのがベター。
ちなみに、ここで問題となるのが「そもそも筋トレ歴が長くなるにつれセット数を上げる必要があるのか?」という話である。
というのも、もちろん筋トレをしていく上でロードボリュームはどんどん上げていく必要があるが、例えば10セットのままで重量だけ上げていく方法だけではダメなのか?というのは疑問。
そして、実を言うと「筋トレ歴が長くなるにつれセット数を増やしていかなければいけない」ことを示したエビデンスはないのである。(R)
みんな何となく「筋トレ歴が長い=セット数も多い」を信じている。
しかし、現実的な問題点としてセット数を増やさず重量だけを増やしたとしても、必ずどこかでプラトーにぶつかる。つまり、ロードボリュームが増やせなくなり、筋トレが停滞する。
そんなとき、無理やりボリュームを増やす最終手段としてセット数を増やすのである。
このセット数の増やし方は、筋トレ研究者のエリック・ヘルメスの著書であるフローチャートがわかりやすい。(R)

筋トレがプラトーに陥ったとき、まず見直すべきは食事や睡眠などの要素である。
それらの要素にももちろん気を遣っているのになかなか重量が増やせない..そんなときにまず疑うのが”ボリュームが多すぎないか?”ということである。
というのも、往々にして”やりすぎ”な可能性のほうが高いからである。
メイン・サブ種目含めて>30セットでも”やりすぎ”にならないとは言え、それは筋トレ歴が4年近くありベンチプレスも3桁に届きそうな輩の話である。
筋トレ歴1年くらいならば、週20セットは越えないほうが無難である。
そして、現在の風潮からしてメイン・サブ種目含めてだと意外とこの数値を越えている...すなわち”やりすぎ”の人のほうが多いと思われるからである。
ということで回復がしっかり取れているかを考え、回復もばっちりなのに完全に筋トレが停滞期...そんなとき、ようやくセット数を増やすのである。
まとめ:実践と応用
- 筋トレを始めるとき、メイン・サブ種目あわせて10セットからスタート
- 食事や睡眠に気を使っている、そして筋トレからもばっちり回復しているのに筋トレが進まない...そんなときは20%ほどセット数を増やすと停滞期をぶち破れるかも
- 筋トレ歴が1年くらいのビギナーは週20セットをやると”やりすぎ”かも
- 筋トレ歴が4年前後の中級者なら、上半身でメイン・サブ合わせて30セット、下半身で45セットまで高ボリュームでもやりすぎにならないかも
ということで、今回はセット数の目安をまとめて紹介したので、次回は種目をいかにして配置するか?の説明をする予定。お楽しみに!