ベンチプレス・ランニング・足パカ…どんなトレーニングだろうが知らないと損をする概念がある。
それが”筋適応(Muscle Adaptation)”である。
逆に言えば、筋適応を自分の中にインストールすれば色んな問題の見通しが良くなる。
『筋トレは何セットやればいいの?重さは?』
『有酸素運動は取り入れるべき?』
といった疑問も自分で考えて答えを出せるようになる。
というのも、そんなのはあなたの目指す体型によって変わるからである。
目指す体型に合わせて筋トレだろうと有酸素運動だろうと、自由自在にトレーニングメニューを組めるようになるための基礎が今回の記事”筋適応”である。
断っておくが、ここではトレーニングの健康効果については一切触れない。
というのもこのマガジンのコンセプトは見た目づくり。
『健康なんておまけみたいなもの、トレーニングする理由なんてルックスのために決まっているだろ!』という人向けに書いている。
そして、ここではトレーニングの脂肪燃焼効果は一旦置いておこう。
話が無駄にややこしくなるだけなので、今回の記事ではあえて触れない。
今回はトレーニングが筋肉に与える影響、その一点のみに話を絞っていこう。
筋肉の重要な性質、それは”特異的適応”
そもそも筋肉とは何なのだろうか?広辞苑で”筋肉”を引いてみると以下のようにある。
動物の運動をつかさどる組織。多量の収縮性タンパク質ミオシンとアクチンを含む。
広辞苑第7版
筋肉は必ず何かしらの運動をしているわけだが、そんな筋肉にはある性質がある。
それはインプットされた運動に対して”性質的にも形態学的にも”適応するということである。(R)
- 持久的適応:ミトコンドリアや毛細血管の量が増えるなど酸素の運用能力が上がり、筋疲労を遅らせることで長時間の有酸素運動に耐えられるようになる。
- 筋肉的適応:筋肉のサイズが大きくなり神経適応が起きることで、瞬間的に大きな力を発揮できるようになる。
これはスポーツ科学の世界でいう"SAID principle”である。
これは”Specific Adaptation to Imposed Demand"の頭文字を取ったもので、日本語にド直訳すると”要求に対する特異的な適応”である。
すなわち、筋肉の適応には”Specificity(特異性)”があるのである。
つまり、筋肉は要求された運動だけに特化した適応をする。(R)
例えば、いくらスクワットで足を追い込んでも、気づいたら腕が太くなっていることはない。
そして、めでたく足が太くなったとしても、気づいたら足に持久的適応が起こっており長時間ランニングできるようになっていた、なんてこともない。
一応断っておくと、これは厳密には間違っている。
というのも、実際のトレーニングは多かれ少なかれ持久的運動でもあり筋力的運動でもある。純粋な筋力運動や持久系運動というものはほとんどあり得ない。(R)
これは”strength-endurance continuum(筋力-持久力連続体)” という名前にも現れており、筋トレと有酸素運動は別個の概念ではない。(R)(何事も0-100思考で考えてはいけない。)
実際に、片脚をトレーニングしたらもう一方のトレーニングしていない脚の筋力が上がったり、全く運動をしてこなかった人が高強度のサイクリングすると筋肥大するなんて話もある。(R,R)
ただ、足を太くしたいからサイクリングをする人もいなければ、ダンベルカールを始める人もいない。
そして、筋力適応と有酸素適応を分けたほうが分かりやすいので、ここでは別個のものとして分けてしまう。
少し話が逸れたが、逆に言えば別々に語られがちな筋トレと有酸素運動は根っこが同じなのである。
そして、実は適応変化を決めるパラメータは筋トレでも有酸素運動でも以下の3つである。(R,R)
- 強度 (Intensity) :筋トレなら%1RM,RPE、有酸素運動ならVO2max
- ボリューム(Volume) :筋トレならボリューム、有酸素運動なら時間
- 頻度(Frequency)
いうならば、トレーニングの強度は”質”に相当し、ボリュームと頻度は”量”に相当する。
トレーニングはいわば薬と同じ、”どこに何をどれだけ処方するか?”で筋肉の性質と形態(=体型)が決まるのである。
『高重量低回数vs低重量高回数』筋肥大は同じでも筋適応は違う
筋適応において、運動の強度は適応のタイプ(Specificity)を決める重要なファクターになる。
例えば、この強度の指標として使われるものに”1RM(Repetition Maximum)”がある。
筋トレしている人にはお馴染みのもので、1回の動作しかできない重さが100%1RM、2回の動作が限界の重さは97%1RM…20回の動作が限界なら60%1RMといった具合になる。
今までは『65%1RM以上の重さを扱うことで筋肥大が起こるぞ。(=筋力的適応が起こる)』とされていたが、それはもはや一昔前の話。(R)
現在では『追い込めば低容量高回数でも同様に筋肥大する!』と言うのが知られている。
具体例としては2015年の『25-35レップの低重量高回数 vs 8-12レップの高重量低回数』を比較した研究がある。
トレーニーに対して8週間の筋トレをさせたところ、上腕二頭筋(5.3% vs 8.6%)・上腕三頭筋(6.0% vs 5.2%)・大腿四頭筋筋(9.3% vs 9.5%)の全ての筋肉において同様に筋肥大したことが報告されている。(R)
しかし、筋肥大が同じであっても筋適応は同じではない。
というのも、この研究の結果には続きがある。
- 筋力向上は高重量グループのほうが大きく向上した!(バックスクワット:+19.6% vs +8.8%、ベンチプレス:+6.5% vs +2.0%)
- 筋持久力は低重量グループのほうが大きく向上した!(+16.6 % vs -1.2%)
つまるところ、高重量を扱うトレーニングをすれば、高重量を扱えるように筋力が上がる適応をする。
一方で、高回数を何度も繰り返し行うトレーニングをすれば、高回数をより楽にできるような適応をするのである。
筋肥大は適応の結果の一つでしかない。
筋肥大は変わらなくても、強度によって筋適応の細かなニュアンスは微妙に変わるのである。
それじゃあ有酸素運動も強度によって適応が変わるのか?というと、答えはイエスである。
2018年の論文がわかりやすいので引用しよう。(R)

高強度の有酸素運動はミトコンドリアの酸素運用能力を上げ、低強度の運動はミトコンドリアの量に大きな影響を与えるのである。
同じ筋力適応/有酸素適応だとしても、強度(Intensity)が変わると筋肉に求められる働きは微妙に変わる。
そうなれば、その結果としての筋適応も異なってくるのである。
量を増やすほど適応が進む”プログレッシブオーバーロード”
筋適応のタイプを決めるのが強度だとしたら、筋適応を推し進める一番のドライバーになるのがボリュームである。
筋トレならば”セット数×レップ数×重さ”で定義されるもので『ボリュームが筋トレに大事!』というのは今やすっかり有名になっている。
有名なのは2016年のメタ分析で、タイトルは『週あたりのトレーニングボリュームと筋肉量増加の用量依存的関係』である。(R)
すなわち、読んで字の如く、筋肥大とボリュームには用量依存的な関係があるのである。
筋力的適応を推し進めて筋肉をどんどん大きくしていくには、ボリュームを徐々に増やしていけばいい。
すなわち”プログレッシブオーバーロード(Progressive Overload)”が一番の基礎である。
とは言え、ボリュームを無制限に増やせるわけではない。
まず何より、アスリートでもない限り時間的リソースが限られている。一日中トレーニングできるほど暇じゃない。
そして、何よりもボリュームを増やすほど”筋力適応”という作用も増えるが、”疲労”という副作用が顕著になるという事実である。
トレーニング戦略とは、つまるところ限られた時間的・体力的リソースを使っていかにボリュームを増やすか?にかかっている。(具体的な方法は次回の記事)
ちなみに有酸素適応を推し進める一番のドライバーも”ボリューム”である。同じ強度であれば、それは単純に時間になる。(R)
例えばランニングなら、徐々に走る時間を長くしていくことで、酸素運用能力が上がり楽に走れるようになるのである。
そして、有酸素運動の副作用も全く同じ。
つまり、やればやるほど疲労が溜まることである。
(実はこの疲労は筋トレにも影響を与えるのだが、話が脱線するのでそれはまた別の機会に。)
そして、基本的に有酸素運動だろうと筋トレだろうと用量依存性の関係があるがそれは徐々に先細りになる。
ということは、やりすぎるとメリットが少ない割にただ疲労ばかりが溜まっていくのである。(R,R)
なので、疲労を最小限にしつつ利点を最大にするボリュームを狙っていき、適応をどんどん推し進める必要があるのである。
なぜ筋トレ研究者は”筋トレで追い込むな”というのか?
そして最後のパラメータが”頻度”である。
つまるところ、週に何回やるのか?といういう話である。
頻度に関しては、2018年の『筋トレの頻度が筋力の向上に及ぼす影響』というメタ分析が全てを物語っている。(R)
- 筋トレの頻度が上がるほど筋力が向上した!
- ボリュームを揃えたところ、筋トレの頻度と筋力向上には関係がなかった!
つまるところ『筋トレの頻度が増えるほどボリュームが増え、結果として筋力も向上した』ということである。
これは『ボリュームが同じなら頻度なんてどうでもいい!』という話ではない。
一般的に『頻度を上げる=(無理なく)ボリュームが上がる』という関係があるのである。先ほどの論文から研究者の言葉を引用しよう。
実用的な観点からは、トレーニング頻度を高くすることで筋トレ量を増やし、その結果として、より大きな筋力向上が得られると考えられる。
例えば、週に腕トレを30セットやるとして、1日に30セットをこなすより3日で10セットに分散するほうが楽にこなせることは容易に想像できる。
そして、よく議論される『筋トレは追い込むべきか?』問題もここに絡んでくる。
なぜ筋トレ研究者はよく『筋トレは追い込むべきではない!』というのか。(R)
それは、単純に『追い込んで筋肉の損傷が大きい=頻度が下がる』からである。
そして言わずもがな、頻度が下がればボリュームも保つのが難しくなる。
2017年の研究では、筋トレで追い込むと、追い込まなかった場合に比べて回復に24-48時間も余計にかかることが知られている。(R)
回復までに時間がかかると、休息を長く取らなければいけないので当然頻度が下がる。
そして、それは結果としてボリュームが低下することにつながるのである。
かといって、回復していないのに筋トレをすれば当然パフォーマンスが下がる。
そしてボリュームが下がるのである。
筋適応を推し進めるために一番重要なのはボリューム、限界まで追い込むことでも頻度でもない。
そして、そのボリュームを(無理なく)上げるために一番効いてくるのが頻度なので、限界まで追い込むよりも回復を優先するのである。
トレーニングのど基礎”筋適応”まとめ
トレーニングとはすなわち、目的の体型を作るための筋適応を推し進めること。金適応の基本は2つ。
- Specificity(特異性)
- Progressive Overload
この原則を満たすために、以下の3つの変数を最適化することがトレーニングメニューの作り方である。
- 強度(Intensity) :適応の種類を決める
- ボリューム(Volume). :適応の量を決める
- 頻度(Frequency) :ボリュームを上げる
最後にもう一度いうが、筋トレだろうと有酸素運動だろうと関係ない。基本的に適応で考えるべきはこの3つの変数である。
今回は概念的な話だったので、次回は『どのようにして筋トレメニューを組むべきか?』という実践的なお話。お楽しみに!