筋トレをこれから始めたいけど、何から考えたら良いかわからない!
筋トレを始めるとき、「強度・ボリューム・頻度」の3つを知っていればなんとかなります
見た目を変えたくて筋トレを始める人にとって、自分で決めなければいけない要素は実は3つだけ。
- 強度:どれくらいの”重さ”でやるのか
- ボリューム:どれくらいの”量”をやるか
- 頻度:週何回やるのか
スクワットだろうと足パカだろうと、筋トレで考えるべきはこの3つだけです
この3要素に加えて、無酸素運動と有酸素運動がどのように筋肉に影響を与えるかを知ることがトレーニングでは大事。
- 有酸素運動は筋肉が細く、無酸素運動は筋肉が太くなる
- 筋トレの”強度”は筋力に影響する
- 筋トレの”ボリューム”は筋肥大に影響する
- 筋トレの”頻度”は脇役的な立場
ヒトの見た目は「筋肉の太さ×脂肪量」で決まります。今回はその中でも”筋肉の太さ”に関する話です
動画はこちら
筋トレは筋肉を太くし、ランニングは筋肉を細くする
タンパク質の束である筋肉だが、見た目作りに重要なある性質がある。
それが”筋適応”という概念。
筋肉はインプットされた運動に対して”性質的にも形態学的にも”適応する(R)
筋肉は日々の生活で要求される運動がラクにできるように適応する性質があります
日々の運動に適応する筋肉だが、適応の種類はざっくりと「無酸素適応」と「有酸素適応」の2つがある。
運動 | 組織 | 筋肉の見た目 | |
---|---|---|---|
無酸素適応 | 高出力/短時間 | 筋肉のサイズUP 神経適応UP | 太くなる |
有酸素適応 | 低出力/長時間 | 毛細血管量UP ミトコンドリア量UP | 細くなる |
有酸素運動を続けると、酸素の運用能力が上がって長時間の運動に耐えられるようになる。
一方で無酸素運動は筋肉のサイズが大きくなり、一度に多くの筋肉を動員できるように神経適応が進むことで瞬間的に大きな力が発揮できるようになるのだ。
見た目の変化だけでいうと、無酸素運動は筋肉が太くなるのに対して有酸素運動では筋肉が細くなります
無酸素運動に特化しているボディビルダーが太い筋肉を持っているイメージがあると思うが、実は有酸素運動に特化しているマラソンランナーというのは筋肉が細い。
嘘だと思う人は”駅伝”などとGoogleで検索してみてください。細身の人が多いことに気づくはずです
有酸素運動に適応すれば筋肉は細く、無酸素運動に適応すれば筋肉は太くなるのだ。
筋肉の適応には”特異性”がある
もし足を細くしたければ有酸素運動をすればいいってこと?
その通りです。逆にゴツい足を手に入れたければ筋トレをすればOKです
筋適応を実際の見た目作りに応用しようとするとき、一つ知っておかなければならない概念がある。
それが”特異性”である。スポーツ科学の専門用語でいうところの"SAID principle”だ。
”Specific Adaptation to Imposed Demand"の略でSAID。日本語で言うと「要求に対する特異的な適応」となる
特異性などと言ってるが、簡単に言ってしまえば「筋肉は要求された運動だけに特化した適応をする」ということだ。(R)
筋適応は、運動で使った部位のみに起こる。
例えばスクワットでどれだけ脚をいじめ抜こうとも、腕に無酸素適応が起こり「いつの間にか太くなっていた!」という事態にはならない。
筋トレであれば鍛えた部位以外の場所が太くならない、というごく当たり前のことです
そしてもう一つ、無酸素運動と有酸素運動にも”特異性”があるのだ。
ボディビルダーが有酸素運動をしない理由
筋適応は、要求された”運動”にのみ特化する。
例えばランニングをしていたのに、脚に無酸素適応が起きていてボディビルダー並みに太くなっていたということはない
そして有酸素運動と無酸素運動は互いに相反する適応なので、どちらかの適応が進めばどちらかの適応が犠牲になりがちです
実際に筋トレの世界には「同時トレーニング」と言う概念がある。
有酸素運動をすると筋肥大が阻害されるという考え。
一般人にとっては有酸素運動と筋トレを同時に行っても問題ないが、どちらかの適応を極める必要があるマラソンランナーやボディビルダーにとっては死活問題。
有酸素運動をすると多少なりとも筋肉の適応は”筋肉が細くなる”ほうに引っ張られるので、彼らは有酸素運動をほとんどしないのだ。
ちなみにこれらの特異性は厳密にいうと間違っています
例えば、片脚をトレーニングしたらもう一方のトレーニングしていない脚の筋力が上がったり、全く運動をしてこなかった人が高強度のサイクリングをすると筋肥大するという話もある。(R,R)
実際のトレーニングは多かれ少なかれ持久的運動でもあり筋力的運動でもある。純粋な筋力運動や持久系運動というものは存在しない。(R)
どんな運動も”筋力-持久力連続体(strength-endurance continuum)” のどこかに位置しており、完全な有酸素運動というものは存在しない。(R)
ただし脚を太くしたいときにサイクリングやダンベルカールをする人はいません。なので特異性はあると考えてOKです
トレーニングで決めるべきパラメーター3つ
有酸素運動だろうと無酸素運動だろうと、トレーニングで決めるべき変数は3つです
①強度:どれくらいの”重さ”で行うか
筋トレにおいて強度は、筋肥大にはあまり影響しません。しかし筋力or筋持久力のどちらかを高めるには重要です
無酸素運動において強度というのは"%1RM(Repetition Maximum)”を指す。
「MAX重量の何%でトレーニングをしているか」を表す指標で、1回の動作しかできない重さが100%1RM、2回の動作が限界の重さは97%1RM…20回の動作が限界なら60%1RMといった具合。
一昔前までは「65%1RM以上の重さじゃないと筋肥大しない」と言われてました(R)
しかし現在では『追い込めば低強度でも筋肥大する!』と言うのが一般的になっている。
例として2015年の『25-35レップの低重量高回数 vs 8-12レップの高重量低回数』を比較した研究を見てみよう。
トレーニーに対して8週間の筋トレをさせた研究で、すべての筋肉において同様に筋肥大した
- 上腕二頭筋(5.3% vs 8.6%)
- 上腕三頭筋(6.0% vs 5.2%)
- 大腿四頭筋筋(9.3% vs 9.5%)
筋肥大という点において、強度は影響しませんでした
この研究では筋肥大のほかに、筋力と筋持久力も調べられている。
- 筋力は高重量グループのほうが大きく向上した!(バックスクワット:+19.6% vs +8.8%、ベンチプレス:+6.5% vs +2.0%)
- 筋持久力は低重量グループのほうが大きく向上した!(+16.6 % vs -1.2%)
つまるところ、高重量を扱うトレーニングをすれば高重量を扱えるように筋力が上がる。
一方で高回数を何度も繰り返し挙げるトレーニングをすれば、高回数をより楽にできるように筋持久力が上がる。
重い重量を持ち上げるパワーリフターが高重量でトレーニングする理由はここにあります
筋肥大という意味ではそこまでインパクトがない強度だが、筋力という意味ではかなり重要な意味を持っているのだ。
有酸素運動では”強度”によってミトコンドリアの適応が変わる
実は有酸素運動においても強度によって”適応”が微妙に異なります
ちなみに有酸素運動における強度というのは、VO2maxのことを指す。言ってしまえば”心拍数”のことである。
それじゃあ有酸素運動も強度によって適応が変わるのか?というと、答えはイエス。
2018年の論文がわかりやすいので図を引用します(R)
高強度のSITのような有酸素運動はミトコンドリアの酸素運用能力を上げる。
一方で提供どのランニングのような運動はミトコンドリアの量を増やすのだ。
どちらも酸素運用能力を向上させますが、適応のニュアンスは絶妙に異なってきます
②ボリューム
ボリュームは”量”に値する概念で適応を推し進めます
筋適応の細かなニュアンスを決めるのが強度だとしたら、筋適応を推し進める一番のドライバーになるのがボリューム。
有酸素運動では単純にボリューム=時間。それでは筋トレは・・・?
有酸素運動では単純に「ボリューム=運動時間」です
有酸素運動においてボリュームは単に”時間”である。
30分の水泳ならば30分がそのままボリュームだし、1時間のランニングなら1時間がそのままボリュームになる。
一方で筋トレとなるとボリュームは定義がたくさんある。
- 総仕事量(the total work):力 [N]] ×距離 [m]
- ロードボリューム(Volume Load):セット数×レップ数×重量
- 相対的ロードボリューム(Relative Volume Load):セット数×レップ数×%1RM
- テンション時間(Time under tension):エキセントリックの時間+コンセントリックの時間
- レップスボリューム(Total Repetitions):セット数×レップ数
- セットボリューム (Hard Set) :セット数
筋トレは休憩時間がほとんど。なので単純に時間で定義できないがゆえに、量を表す”ボリューム”が乱立しました
例えば同じ30分の筋トレでも、筋トレでは2つのパターンが考えられてしまう。
- スクワット4セット×セット間休憩10分
- スクワット15セット×セット間休憩1分
単純に時間で定義してしまうと同じですが、この2パターンの筋トレを同じ”量”とするのは無理があります
そこで筋トレの”量”を定量化しようと長年頑張った結果、ボリュームの定義が乱立される羽目になった。
現代で一番オーソドックスなボリュームは”セット数”で、2016年のメタ分析でも「筋トレのセット数と筋肥大は比例する」という結果が出ている。(R)
筋トレのセット数(=ボリューム)と筋肥大に関しては以下の記事にまとめてあります
ボリュームは適応(=筋肥大)を推し進めるドライバーであり、筋トレで言えばそれは「セット数」になるのだ。
ボリュームを増やすと適応が進むが疲労がたまる
有酸素運動だろうと無酸素運動だろうと、疲労をうまくマネジメントしながらボリュームを増やすのが鍵です
運動の種類に関わらず、ボリュームを増やす適応が進むが疲労がたまるというデメリットも顕著になる。
これを専門的に説明したのが「フィットネス-疲労理論」。(R)
「パフォーマンス = 適応(フィットネス)- 疲労」。運動というストレスに対する生体の反応を表す理論。
何やら難しい言葉を使っていますが、要は運動すると適応が進むけど疲労が溜まるというだけの話です
運動の種類に関わらず、疲労をマネジメントしながら適応を進めていくことになる。
具体的に筋トレで言えば、疲労が溜まりすぎないように考えながらセット数を増やしていくことになる。
有酸素適応を推し進める一番のドライバーも”ボリューム”であり、先ほども説明したように単純に時間を計測すればいい。(R)
例えばランニングなら徐々に走る時間を長くしていくことで、酸素運用能力が上がり楽に走れるようになる。
有酸素運動の副作用も同じで、やればやるほど疲労がたまります
そしてもう一つ重要なのが、有酸素運動だろうと筋トレだろうとボリュームを増やすことによる効果は先細りになることだ。
つまり運動をしすぎると適応はちょっとしか進まないくせに、ただ疲労ばかりが溜まっていくのである。(R,R)
結果として、筋トレだろうとランニングだろうと疲労がたまりすぎないレベルで徐々に負荷を上げていくことが重要になります
③頻度
そして最後のパラメータが「頻度=週に何回やるのか?」という話。
頻度は強度やボリュームほどは重要な概念ではない、というのが現段階の結論です
頻度に関しては2018年の『筋トレの頻度が筋力の向上に及ぼす影響』というメタ分析を紹介しよう。(R)
筋トレの頻度が筋力向上に与える影響を調べたメタ分析。結果は下記の通り
- 筋トレの頻度が上がるほど、(ボリュームが増えて)筋力が向上した!
- ボリュームを揃えたところ、筋トレの頻度と筋力向上には関係がなかった!
筋トレの頻度が増えるほど適応が進みましたが、これはボリュームが増えたことによる効果です
一般的に『頻度を上げる=(無理なく)ボリュームが上がる』という関係がある。
先ほどの論文から研究者の言葉を引用しよう。
実用的な観点からは、トレーニング頻度を高くすることで筋トレ量を増やすことができる。その結果として、より大きな筋力向上が得られると考えられる。
Jozo Grgic et al
例えば週に腕トレを30セットやるとして、1日に30セットをこなすよりは3日に分割して1日10セットやるほうが楽にこなせることは容易に想像できる。
筋トレの世界には高頻度トレーニングという概念も存在するが、ひとまずは「ボリュームを増やすための手段」くらいに考えておくのがいいだろう。
頻度は独立した変数...というよりはボリュームを増やすための手段です
筋トレ研究者が「筋トレは追い込むな」という理由
「筋トレは追い込むべきか?」という話題もこの頻度に大きく関わる話題です
筋トレ研究者はよく『筋トレは追い込むべきではない!』という。(R)
それは単純に『筋トレを追い込むと頻度が下がる=ボリュームが下がる』からである。
筋トレを追い込むと、追い込まなかった場合に比べて回復に24-48時間も余計にかかる。(R)
回復までに時間がかかるということは、その間は筋トレができずに頻度が下がることを意味します
そして頻度の低下は結果として、ボリュームが低下することにつながる。
筋適応を推し進めるために一番重要なのはボリュームであり、限界まで追い込むことではない。
追い込むことよりも頻度を上げてボリュームを稼ぐ方が重要なので「筋トレは追い込むな」と言われます
「強度・ボリューム・頻度」まとめ
筋肉を太くするか細くするかを決めるのが、運動の種類である
- 無酸素運動:筋肉を太くする
- 有酸素運動:筋肉を細くする
そして有酸素運動であれ無酸素運動であれ、運動をするときに決めるべき変数は3つだけ。
- 強度(Intensity) :適応の細かなニュアンスを決定する
- ボリューム(Volume). :適応を推し進める
- 頻度(Frequency) :ボリュームを上げる
これから筋トレを始める人は、基本的にこの3つを考えればOKである。
各項目に関する話については、下記の記事にまとめてあるのでもっと詳しく知りたい人はチェックしてみてほしい。