「筋肉は裏切らない」
という言葉は、筋トレをしたことがない人ですら聞いたことがあるだろう。
筋トレの努力はやればやった分返ってくる。
すなわち、筋トレはすればするほど体が大きくなるというのだ。
実際に最近の研究で筋トレはやればやるほど結果が出ることが多いことが判明している。
しかし、必ず「筋肉は裏切らない」かというと、そういうわけではない。
実は筋肉は裏切ることもある。
実は、筋トレはやりすぎると筋肉は大きくなるどころか小さくなってしまうことがあるのだ。
筋トレはやればやるほど効果が出る・・・?
筋トレをしたことがある人なら「筋肥大にはボリュームが大事!」というのは聞いたことがあるかもしれない。
ボリュームというのは様々な定義があるのだが、一番簡単なのは”セット数”で数えるセットボリュームだろう。
始まりは2017年のメタ分析で、この研究で「セット数と筋肥大率は比例する」ということが報告された。(R)
15件の研究を分析にかけたところ、週当たり
4セット以下<5~9セット<10セット以上
の順で、筋肥大率が高かったのである。
セット数が増えれば増えるほど筋肉も大きくなるので、つまるところ言い換えるなら「筋トレはやればやるほど筋肉が大きくなる」ということになる。
この研究をきっかけに、現在の科学界では「筋肥大にはボリュームが一番大事」と言われるようになったのだ。
10セット法は効果がある?
それでは「筋肉は裏切らない。筋トレはやればやるほど効果がでる」かと思うかもしれないが、実はそういうわけではない。
実は筋トレをたくさんした人のほうが筋肉が大きくならなかったという研究もあるのだ。
ということでまず紹介するのはシドニー大学の”10セット法は効果があるのか?”を調べた論文。(R)
10セット法は別名「ジャーマンボリュームトレーニング(GVT:German Volume Training」とも呼ばれるもので、名前の通り”10回×10セット”という高ボリュームの筋トレメニューである。
被験者となったのは、筋トレ歴1年以上の男性19人。
この人たちをランダムに2つのグループ(5セットvs10セット)に分け、筋トレをしてもらった。
実際に被験者が週3で行っていた実際の筋トレメニューを紹介しておこう。
- セッション1
- ベンチプレス:10回× 5 or 10 セット
- ラットプルダウン:10回 × 5 or 10セット
- インクラインベンチプレス:10回 × 4セット
- シーテッドロー:10回 × 4セット
- クランチ:20回 × 3セット
- セッション2
- レッグプレス:10回 × 5 or 10セット
- ランジ:10回 × 5 or 10セット
- レッグエクステンション:10回 × 4セット
- レッグカール:10回 × 4セット
- カーフレイズ:20回 × 3セット
- セッション3
- ショルダープレス:10回 × 5 or 10セット
- アップライトロー:10回 × 5 or 10セット
- トライセップスプッシュダウン:10回 × 4セット
- バーベルカール:10回 × 4セット
- シットアップ:20回 × 3セット
各種目の1回あたりの負荷はどちらのグループも同じ。
セット数は10セットグループが1日31セット、5セットグループが1日21セットを行っているので、合計のボリュームは10セットグループのほうが圧倒的に高い。
各グループの実際のボリュームは以下の通り。
10セット | 5セット | |
ベンチプレス | 4,582.5 kg | 1,845 kg |
ラットプルダウン | 3,961 kg | 1,595 kg |
レッグプレス | 20,906 kg | 10,116 kg |
どの種目においても、10セットグループのほうが2倍以上のボリュームをこなしている。
この条件で筋トレをしてもらい、6週間後に体重や筋力を計測したところ、以下のような結果に。
- どちらのグループもベンチプレスとラットプルダウンにおいて筋力が向上した。しかし、5セットグループのほうが筋力が向上しいた(ベンチプレス:+14.9% vs +6.2%、ラットプル:+15.1% vs +4.5%)
- どちらのグループも同じくらい筋肉が増えた(+1.8kg vs +1.2kg)
筋肥大はどちらも差がなかったが、筋力は5セットグループのほうが向上するという結果に。
研究者は以下のように結論づけている。
1種目に10セットの筋トレは、5セットに比べてトレーニングの効果を減らしてしまう。(中略)筋トレの効果を最大にするためには4-6セットが推奨され、それを越えても効果がないかオーバートレーニングによって逆効果になるだろう。
10セットも筋トレしても、時間がかかるばかりで筋肥大には意味がない。
それどころか逆効果となってしまう可能性すらあるのだ。
ちなみに、この研究の被験者は筋トレ歴が1年くらい。
たった1年という筋トレ歴で1日30セットもやるのは明らかにオーバートレーニングなのだろう。
筋トレで重要なのは、徐々に負荷を上げていく”漸進性過負荷の原則”になる。
筋トレの効果を出したいからと言って、急激にボリュームを増やしても筋肥大するどころか逆効果になってしまうのである。
筋トレはあるポイントで効果がなくなる
気づいた人もいるかもしれないが、序盤で紹介した「筋トレはやればやるほど効果が出る」ことを示した研究は、あくまでおよそ10セットまでのボリュームと筋肥大の関係を調べたもの。
つまりそれ以上の高ボリュームで同様の比例関係が成り立つかは分からない。
もう少し具体的に言うならば、20セットや30セットの高ボリュームが10セットよりも効果的かどうかは分からないのである。
というのも、先ほど紹介した10セット法のような高ボリュームの研究は2017年以前にはほとんどなかった。
高ボリュームに関して調べたくても、メタ分析に含めることができるような個別の研究がそもそも無かったのだ。
しかし、これらの問題点を受けて最近では少しずつ高ボリュームの研究が行われるようになってきた。
そこで知見が溜まってきた2022年、ついに先ほどの2017年のメタ分析では調べることができなかった高ボリュームにおける「ボリュームと筋肥大の効果」を調べたメタ分析が登場してきた。(R)
この研究はトレーニング経験者を対象にした研究6件を抜き出し、「週12~20セット vs 週20セット以上」で筋肥大率を比較したもの。
2017年には調べることができなかった高ボリュームと筋肥大の関係を調べたところ、結果は以下のようになった。
- 上腕三頭筋の筋肥大は、20セット以上のほうが12~20セットに比べて有意に大きかった!(SMD=0.50)
- 大腿四頭筋の筋肥大は、20セット以上のほうが12~20セットに比べて大きい傾向があったが、有意さには届かなかった!(SMD=0.20)
- 上腕二頭筋の筋肥大は、20セット以上と12~20セットで差はなかった!
まず、上腕三頭筋は20セット以上行うことで、それ以下のセット数よりも筋肥大している。
大腿四頭筋も同様に20セット以上のほうが有利な傾向はあったが有意差には届かず、上腕二頭筋に関しては20セット以上でもそれ以下でも差はなかった。
全体として高ボリュームのほうが有利な結果であることには変わりはないが、2017年のメタ分析で調べられた低ボリュームほどはっきりと「やればやるほど効果が出る」とは言えない結果だったのである。
ちなみに、上腕三頭筋を週に20セットというと多いかもしれないが、この研究ではその筋肉がサブで使われている場合も1セットと数えていることには注意。
つまりベンチプレスなどのプレス系でも上腕三頭筋で1セットとカウントされているし、シーテッドローのようなプル系では上腕二頭筋で1セットとカウントされている。
これは2017年のメタ分析も同じで、研究ではこのような数え方が多いのpだ。
それはさておき、高ボリュームでもボリュームが大きいほど筋肥大に有利だった。
しかしその関係性は低ボリュームのときほどハッキリはしておらず、セット数を増やしたことによる筋肥大効果は徐々に低減してしまうことがわかったのである。
まとめ
筋トレはやればやるほど効果が出る傾向にあるが、その効果はボリュームが増えるほど先細りになっていく。
さらには、ボリュームを増やしすぎると筋肥大に不利に働いてしまうことすらある。
むやみにボリュームを増やすより、自分にあったボリュームを設定し、少しずつ負荷を増やしていく事が重要なのだ。
それではどのようにセット数を選べばいいのだろうか?
肝心の最適なボリュームの設定と増やし方については、以下の記事に詳しくまとめてある。
筋肥大に最適なセット数を知りたい、という人はぜひ一度読んでみてはいかがだろうか。参考までにどうぞ。
