「ボリュームは研究者の机上の空論、筋肥大には関係ない」
「ボリュームが同じなら筋トレの効果は同じなんだ!」
など、ボリュームに関する話はネタが尽きない。そして、情報が錯綜している感も否めない。
ところでみなさん「そもそもボリュームって何?」と聞かれて答えられるだろうか。
別にこれは読者のみなさんを馬鹿にしているわけではない。
そもそもボリュームの定義は決まっておらず、むしろ色々な定義が乱立して勢力争いを繰り広げている状態。
それにも関わらず、情報発信者はみんな”ボリューム”という一言で片付ける。
なので、聞いているみなさんは何が何だかわからない、となるのである。
ということで、今回の記事では『そもそもボリュームとは何か?』を整理する。
本記事の目的は”ボリューム”という言葉を聞いたときに「これは〇〇ボリュームだな」と即座に頭で変換できるようにすることである。
今後も間違いなく”ボリューム”に関するエビデンスはめちゃくちゃ出てくるだろう。
そんなとき、自分で情報を取捨選択できるようにボリュームを理解しておこうじゃないか。
ボリュームがたくさん生まれすぎ問題
ボリュームにはいくつか種類があるのだが、先にどんなものがあるのかまとめておこう。
大きく大別すると”研究で使う系”と”ガイドライン系”の2つに分けられる[R,R,R]。(私が勝手に分類した)
<研究で使う系>
- ・総仕事量(the total work):力 [N]] ×距離 [m]
- ・ロードボリューム(Volume Load):セット数×レップ数×重量
- ・相対的ロードボリューム(Relative Volume Load):セット数×レップ数×%1RM
- ・テンション時間(Time under tension):エキセントリックの時間+コンセントリックの時間
<ガイドライン系>
- ・レップスボリューム(Total Repetitions):セット数×レップ数
- ・セットボリューム (Hard Set) :セット数
まず、”研究で使う系”は文字通り研究でよく使われるもので、論文とかに出てくるやつら。
一番有名なのはボリュームロードで、情報発信者が「ボリュームを揃えたら筋トレの効果は同じだった!」みたいなことを言っていたら99%このボリュームロード。
ただ、”研究で使う系”は論文には出てくるが「現実世界でトレーニーが使うような指標なの?」と聞かれると、何とも答えづらい。
一方で、ガイドライン系は論文ではあまり見ないが、現実世界のトレーニーに有益なガイドラインをもたらしてくれるボリュームたち。
この中ではセットボリュームが一番有名で、よく「筋トレに最適なボリュームは週何セットだ!」みたいな文脈で使われるやつがコレ。
今回はボリュームの話だが、現実的に触れることが多いのは太字の”ロードボリューム”と”セットボリューム”の2つ。
というか、他の指標は論文を読んでいても滅多にお目にかかれないレア者。
なので、一応相対的ボリュームロードだけ触れるが、他のものは割愛する。(ちなみに完全に余談だが、某筋肉博士が定義しているボリュームは”総仕事量”である。)
ということで、まずは研究で最もよくお目にかかる”ロードボリューム”の話から始めよう。
研究界で一番の有名人、それは”ロードボリューム”
みなさんは「ボリュームを揃えたら筋肥大効果は同じだった!」みたいな話を一度は聞いたことがあるだろう。
先ほども述べたように、ここで言うボリュームとはロードボリュームのことである。
ロードボリュームは筋トレを定量化するときに使われるもので、実際にある実験をするときにこのロードボリュームを揃えると筋肥大が同じになることも少なくない。
例えば、2014年の研究に『ボディビル式 vs パワーリフター式のどちらが筋肥大するか?』というものがある[R]。
被験者となったのはベテラントレーニー17人で、この研究ではロードボリュームを揃えて「10レップス3セットvs3レップス7セット」を比較した。

もちろんどちらのグループも100%同じロードボリュームではないが、グループ間で統計的に差が出ないように調整されている。
そして8週間後に上腕二頭筋の筋肥大を測定したところ、どちらのグループも同じように筋肥大した(ボディビル式:+12.6% vs 高強度:+12.7%)。
今までの記事でも似たような研究を紹介しているが、私たちがよく見る研究ではロードボリュームを揃えてしまうとグループ間の筋肥大は同じになることは多い。
ちなみに、なぜこんな含みがある言い方をするかというと、ロードボリュームを揃えたら筋肥大効果は100%同じになるわけではない。
実はこのロードボリュームが使えない場面がある。(それは最後まで読んだらわかるので、しばしお待ちを。)
そして、こういった研究から『ロードボリュームがすべて!筋トレはパワーリフター式でもボディビル式でもどっちでもいい』という結論を出すこともわりと的外れ。
というのも、現実の世界では『意図的にボリュームを揃える』ことにクソほども価値がないからである。
というのも、低レップの高強度トレーニングで従来のボディビル式と同程度までボリュームを重ねようとすると筋トレの時間が倍増する。
現実問題として考えたとき、高強度トレーニングは筋肥大に不利なのである。
それはさておき、筋トレを定量化する方法としてなかなか使えるロードボリューム。
しかし、そんなボリュームロードにはもちろん欠点がある。それは
ロードボリュームでは研究間の比較ができない!
ということである。
そして、この欠点を克服すべく生まれたのが”相対的ボリュームロード”という概念である。
研究間で比較できることが強みの”相対的ロードボリューム”
なぜボリュームロードでは研究間の比較ができないのか。
それは”重量”の部分が被験者と種目という2つの要素に大きく依存するからである。
例えば、異なる被験者を対象に”10レップス&3セットのベンチプレス”を調べた研究が2つあるとしよう
- 男性トレーニーの集団 :MAXベンチプレス100kg
- 筋トレ未経験の女性集団:MAXベンチプレス20kg
このとき、どちらの研究でも10レップスの限界ギリギリ...すなわち男性トレーニー集団に75kgのベンチプレス、女性集団に15kgのベンチプレスをしてもらったとしよう。
このとき、男性トレーニーのロードボリュームは”2,250kg”であり、女性集団のロードボリュームは"450kg"である。
数値だけ見れば、男性トレーニー集団は女性に比べ5倍ものロードボリュームをこなしている。
ここで「男性トレーニー集団のほうが圧倒的に筋肥大するだろうか?」といえば答えは”ノー”である。
というのも、どちらも各個人にとって10レップスをこなせるギリギリの重量である”75%1RM"を扱っている。
質的には同じ筋トレだとみなす方が妥当なのである。
ということで、重量を”%1RM”に置き換えた相対的ボリュームロードを使うことで、これらを同じ筋トレとして定量化することができる。
相対的ロードボリューム:3(セット) × 10 (レップス) × 75 (%1RM)
そして、ロードボリュームの2つ目の欠点が「エクササイズによってロードボリュームが大きく異なる」という問題である。
例えば、ある男性が150kgのスクワット10回と70kgのレッグエクステンション10回を行ったとしよう。
このとき、ロードボリュームで考えるとスクワットのほうは4,500kgに対して、レッグエクステンションは2,100kgである。
スクワットのほうがロードボリュームが大きく、言い換えるなら筋肥大に寄与する程度も大きいという意味になってしまう。
しかし、現実的にはこのスクワットとレッグエクステンションを同列に考えるほうが正しい。
というのも、2021年の「フリーウェイトvsマシン、どちらのほうが筋肥大・筋力に有利か?」というメタ分析では「フリーウェイトでもマシンでも同じように筋肥大した」のである(効果量-0.01)。[R]
つまるところ、ここでも相対的ロードボリュームを使い、重量の情報を消してスクワットもレッグエクステンションも同じ"75%1RM×10レップス”とみなすのが妥当なのである。
もっと極端な話をすれば、相対的ボリュームロードを使えば”10kgのダンベルカール”と”200kgのスクワット”も同列に扱うことができる。
それなら被験者やエクササイズによらず研究間の比較ができる相対的ボリュームロードのほうが優れているか…というと、そういうわけでもない。
重量に関する情報が失われたことで、筋トレの進捗を測る尺度としては使えなくなる。
例えば、初め15kg10回しかベンチプレスをできなかった人が、筋肉がついて楽に出来るようになったので、重さを25kgに上げたとしよう。
ロードボリュームで数えると「450kg → 750kg」であり、筋トレで順調に進捗が生まれていることがわかる。
つまり、ロードボリュームは(セット数が同じなら)プログレッシブオーバーロードの指標として機能するのである。
一方で、相対的ボリュームロードではベンチプレスを25kgにしたところで”75%1RM×10レップス”のままで変わらない。
つまり、セット数が同じ場合であったとしても、筋トレの進捗を測る指標としては機能しなくなる。
さらには、単一の研究では同じような被験者を集めて同じエクササイズをさせることがほとんど。
なので、わざわざ違う被験者やエクササイズ間で比較したいモチベーションもそんなにないので、現時点ではこの相対的ボリュームロードはあまり浸透していない。
何はともあれ、それぞれ一長一短があるロードボリュームと相対的ロードボリュームだが、そもそも研究の世界で”ボリュームを揃えた!”みたいな文脈で使われるもの。
しかし、しつこいようだが現実世界のトレーニーにとって、ボリュームとは増やす(または減らす)ものである。
私たちは筋トレ研究者になりたいわけではない、ボリュームを揃えることに意味はない。
では、(ロード)ボリュームを増やすときどうすればいいのか?一番簡単なのはセット数を増やすことである。
というのも、レップ数と重量ではロードボリュームをほとんど操作できないのである
例えば、10レップス20kgのバーベルカールを3セット行っているとしよう。
このとき、重さを25kgに増やすこと自体は簡単だが、そうすると10レップスこなせていたのが8レップしかできなくなる。
これではロードボリュームは結局同じままである。
逆も然りで、15レップのバーベルカールをしようとすれば、当然重さを下げるしかない。
例えば15kgまで落としたして、上がるロードボリュームはたった25kgである。
重さとレップ数はお互いの依存性が強く、片方を上げれば片方を下げざるを得ない。
よってロードボリュームも対して変わらない。
しかし、セット数を増やすのは簡単である。
3セット行っていたのを4セットに増やせば、たとえ4セット目は6レップスしかできないとしてもロードボリュームは”+120kg"と大幅な増加が見込める。
つまるところ、ロードボリュームであろうと相対的ロードボリュームであろうと、現実的なボリューム操作法として一番効いてくる変数は”セット数”なのである。
つまり
筋トレのボリュームを操作する=セット数を操作する
と言っても過言ではない...と言いたいところだが、もしかしたら少々言い過ぎなのかもしれない。
なので「実際にセット数だけでボリュームの代わりにできるのか?」という問題を考えてみよう。
セット数を数えるだけでボリュームの代わりになるのか?問題
あたかも「セット数を数えるだけでロードボリュームの代わりになる!」という考えを、さも自分が思いついたかのように言った。
しかし、正直にいうと、全然まったくそういうわけではない。
この考えの始まりは、パワーリフターのネイサン・ジョーンズが2015年に書いた記事『トレーニングボリュームに関する新しいアプローチ法』である。そ
して、研究の世界でも2021年に『セット数を数えるボリューム測定法で筋肥大が予測できるか?』という論文が出た。(R)
この論文は系統的レビューと呼ばれるもの。
この研究では”年齢18-35歳かつ経験年数1年以上のトレーニー”を対象にした過去の研究14件を抽出した。
「セット数を測ることはボリュームの指標として使えるか?もっというならば筋肥大を予測できるか?」を調べたのである。
まず、先に筆者が引き出した結果を見てみよう。
それはセット数を数えるだけで、十分に筋肥大を予測できるというもの。
そして、もう少し詳しくいうならば『6-20+レップスの範囲で(ある程度)追い込んだセット(=ハードセット)』の数である。
つまるところ、パワーリフターのような極端な高強度や30レップスのような超高レップスじゃなく、従来のボディビル式である8-20レップスくらいならセット数を数えるだけで十分に筋肥大を予測するボリュームの指標として使えるというもの。
言い換えるなら、筋肥大目的なら強度やレップスは極端なものじゃない限り、あまり気にしなくてもいいということである。
なぜこんな結論になるのか?その裏付けになっている研究をいくつか見てみよう。
まずは、2015年の『25-35レップスの低強度vs8-12レップスのボディビル式』を比較した研究[R]。
この研究はトレーニーを対象にしたもので、7種目の筋トレを上記のレップ数で3セットを週3回行ってもらった。
つまるところ、セット数が同じでレップ数だけ大きく違うのである。
8週間後に筋肉量を測定したところ、どちらのグループも同様に筋肥大した。ちなみに上腕二頭筋(5.3% vs 8.6%)・上腕三頭筋(6.0% vs 5.2%)・大腿四頭筋筋(9.3% vs 9.5%)である。
つまるところ、同じセット数ならばボディビル式も超高レップスも同様に筋肥大したのである。
それどころか、ロードボリュームにしたら低強度グループは高強度グループの3倍もこなしている。
ロードボリュームで考えると高レップスのほうが筋肥大するはず。セット数で数えるほうがむしろ正しく、ロードボリュームは使えないということになる。
これが先ほどいった”ロードボリュームが使えない瞬間=超高レップス”である。
なぜこんなことになるかというと、高レップスで従来のボディビル式と同じ筋肥大を出す条件が『ある程度限界まで追い込む(=モーターユニットを使い切る)こと』だから。
すなわち、筋トレを「モーターユニットを1回使い切る」ことで1カウントすることでうまくいくのである。
それはすなわち、ある程度限界まで追い込んだセット数(ハードセット)を数えることに他ならない。
つまるところ、「≧従来の8-12レップス」においてはセット数を数えるのが妥当なのである。
逆に言えば、高回数トレーニングにするとロードボリュームをハチャメチャに稼げるが、そもそもロードボリュームが意味をなさないので、この頑張りは全くもって意味がないということ。
むしろ、ボディビル式と同じ筋肥大を引き出すのに3倍のロードボリュームが必要で無駄なことこの上ない。
要するに、低強度トレーニングを採用する理由はないのである。
それが例えロードボリュームを稼げる方法だとしても、である。
それでは、「≦従来の8-12レップス」である高強度トレーニングのほうはどうだろうか?
これも2016年に同様の「2-4レップスの高強度vs8-12レップスの低強度」を調べた研究が行われている[R]。
この研究は先ほどと同じ研究者によるもので、今度は19人のトレーニーを対象に7種目の筋トレを上記のレップ数で3セットを週3回行ってもらった。
こちらもセット数が同じでレップ数だけ大きく違う。
8週間後に筋肉量を測定したところ、上腕二頭筋(ボディビル式:0.42 vs 高強度:0.28)・上腕三頭筋(ボディビル式:0.21 vs 高強度:0.17)・脚(ボディビル式:1.17 vs 高強度:0.33)の全てにおいてボディビル式のほうが有利だったのである。※()内は効果量
そして、この研究ではボディビル式は高強度トレーニングの倍のロードボリュームをこなしている。(ボディビル式56049kg vs 高強度:25867kg)。
そして、冒頭の研究も合わせて考えると”高強度トレーニングで同じくらい筋肥大したければ、ロードボリュームがボディビル式と同程度になるまで7セットまでセット数を増やさなければいけない”ということになる。
つまるところ、はっきりとした理由は不明だが、現実問題として高強度トレーニングで従来のボディビル式と同じくらい筋肥大したければ、ロードボリュームも同じくらい重ねなければならない。
要するに「≦従来の8-12レップス」では、セットボリュームではなくロードボリュームでカウントすることでうまくいくのである。
そして、前回の記事でも書いたように、高強度でロードボリュームを積み重ねるということは筋トレの時間がバカみたいに増えることを意味する。
なので、高強度トレーニングは現実的に筋肥大には向いてない。
結局として、超高強度トレーニングも超低強度トレーニングも現実的には筋肥大には不利なのである。
そして『≦8-12レップス』ではボリュームをロードボリュームで数えるとうまくいき、『≧8-12レップス』ではボリュームをセットボリュームで数えるとうまくいくのである。
では、従来のボディビル式である『6~20レップス』くらいの範囲ではどうするべきなのか?
それは、ロードボリュームでもセットボリュームでもどちらでもいいのである。
なので、現実的に使いやすい指標である”セットボリューム”を使えばいい。
まとめ
今まで色々見てきたが、最後に一言でまとめると以下のようになる
筋トレをするとき、レップ数は”6-20レップス"で行うのがベター。
その場合、ボリュームはセット数を数えるだけでいい。
ということで、ボリュームを操作するということは、すなわちセット数を操作するということに他ならないのである。
そして、セットボリュームには2種類ある。
- セッションボリューム:1セッションで何セットやるか?
- ウィークリーボリューム:週に何セットやるか?
セッションボリュームは1日の筋トレ内で何セットやるか?という話で、ウィークリーボリュームは週に何セットやるか?という話。
やや混同されがちなこの2つだが、分けて考えたほうが理解しやすい。
なので、このマガジンではセッションボリュームとウィークリーボリュームという言葉を使い分ける。
そして、次回はこのセッションボリュームとウィークリーボリュームの話...にしたいのだが、おそらくその前に”個人差”に関する記事を書く。
もしかしたら、読者の中には「どんだけ本題のトレーニングメニューに入るまでに遠回りするんだ?」とブチギレ寸前の人もいるかもしれない。
しかし、そもそもボリュームに対する反応には個人差があること、そしてそれがなぜか?を共有しておいたほうが本題の”セットボリューム”が理解しやすい。
ということで、次回は”個人差”の話をしてから、やっと本題である”セットボリューム”の話に移る予定。しばしお待ちを!
