ボリュームは研究者の机上の空論、筋肥大には関係ない!!
ボリュームが筋肥大には一番大事なんだ!!
このように筋トレのボリュームに関しては議論が尽きないが、そもそも”ボリューム”って何なのだろうか?「ボリュームとは〇〇のことです」の〇〇に入る言葉をちょっと考えてみてほしい。
〇〇に入るのは仕事量です!
いやいや〇〇に入るのはセット数でしょ!
〇〇は重量×レップ数×セット数やろ
実はこれ、全部正解です
ボリュームという言葉の定義が曖昧なまま誰もが勝手なことを言っているので、情報が錯綜している。
ということで今回の記事では『そもそもボリュームとは何か?』を整理してみよう。
- 筋トレのボリュームが理解できる
- ボリュームの情報に惑わされずに済む
ボリュームという言葉を理解すれば、「筋トレは週に何セットするべきか?」も自分で判断できるようになる。
ボリュームってそもそも何?
ボリュームは筋トレを定量化しようとしたもの
ボリュームという概念を理解するために重要なこと。それはボリュームが「筋トレの”量”を定量化したい!」という思いから始まっていることだ。
研究の世界では運動を”強度・量・頻度”で数値化したいというモチベーションがあります
運動の結果は有酸素運動だろうが無酸素運動だろうが「強度・量・頻度」で決まる。というかこの3要素で運動をモデル化したいというのが正しいが。
運動 | 有酸素運動 | 筋トレ |
---|---|---|
強度 | 心拍数 | %1RM |
量 | 時間 | ボリューム |
頻度 | 週何回か? | 週何回か? |
例えば有酸素運動は心拍数が強度の役目を果たしており、スプリントやHIITなどの心拍数が180くらいまで上がる運動は高強度だし、逆に心拍数が60くらいの歩行などは低強度。
筋トレでは心拍数では強度が正確に測定できないので、「MAXの重さの何%の重量なのか?」を強度の指標にしている。
そして量を測定する方法として、有酸素運動は基本的に連続して行うものだから時間を計測するという単純な方法が用いられている。
一方で筋トレは、休憩時間が時間の大半を占めるので時間を測定するだけでは”量”を測定できません
例えば同じ30分間の筋トレでも、スクワットをセット間休憩5分で行った人と、スクワットをセット感休憩1分で30分間こなしていた人では筋トレの量が明らかに違うだろう。
それでは筋トレの量(=ボリューム)を表す指標として何が適切なのか?
実はこの問題はいまだに決着がついておらず、定量化しようと頑張った歴史の結果としてボリュームが乱立している状態なのだ。
ボリュームの定義は意外と曖昧
ボリュームの定義
定量しようと色々な尺度を使ってみた結果、現在ではボリュームには6つほど定義がある。なので今回の記事ではボリュームという曖昧な言葉は使わずに、すべて区別して呼ぶことにしよう。
ボリュームの定義だが、大きく大別すると昔からある”古典的なボリューム”と比較的最近でてきた”現代のボリューム”の2つに分けられる[R,R,R]。
この2分類は一般的なものではなく、勝手に作りました
古典的なボリューム4選
- 総仕事量(the total work):力 [N]] ×距離 [m]
- ロードボリューム(Volume Load):セット数×レップ数×重量
- 相対的ロードボリューム(Relative Volume Load):セット数×レップ数×%1RM
- テンション時間(Time under tension):エキセントリックの時間+コンセントリックの時間
”古典的なボリューム”は、昔から研究の場面でよく使われてきたもの。
一番有名なのはロードボリュームで、情報発信者が「ボリュームを揃えたら筋トレの効果は同じだった!」みたいなことを言っていたら十中八九このロードボリュームのことだろう。
他にも力×距離という物理学的な指標を使っている”総仕事量”であったり、筋肉に負荷がかかっている時間から算出する”テンション時間”などがある。
しかし、これらの指標は筋トレを定量化するのに失敗して論文であまり出てこないので無視していい。
(ちなみに某筋肉博士の動画ではボリュームの定義が”総仕事量”である。ちょっとレアですな)
現代のボリューム2選
- レップスボリューム(Total Repetitions):セット数×レップ数
- セットボリューム (Hard Set) :セット数
一方で”現代のボリューム”で紹介した2つは比較的最近出てきた概念。
どちらもロードボリュームを簡易化したもので、ロードボリュームから重量の要素を省略したものがレップスボリューム。そこからさらにレップ数という要素を省略したものがセットボリュームになる。
筋トレに最適なボリュームは週20セットだ!
このような人は「ボリューム=セットボリューム」として話をしています
比較的最近出てきたセットボリュームだが、計測が簡単なことに加えて実は筋肥大もよく予測できることが判明していることから今ではすっかり人気者となっている。
ボリュームは概念としては定義が色々あるが、現実的に触れることが多いのは”ロードボリューム”と”セットボリューム”の2つだけ。
他の指標は論文を読んでいても滅多にお目にかかれないレア者なので大して覚える価値はない。
なので今回はロードボリュームとセットボリューム以外は一旦置いておき、まずは研究で最もよくお目にかかる”ロードボリューム”の話から始めよう。
ボリュームの定義その1:ロードボリューム
ロードボリュームが同じなら筋肥大は同じ
ボリュームを揃えたら筋トレの効果は同じだった!
こういった場合のとき、ほとんどがボリューム=ロードボリュームです
みなさんは「ボリュームを揃えたら筋肥大効果は同じだった!」みたいな話を一度は聞いたことがあるだろう。
こういう研究で使われるボリュームのほとんどがロードボリュームのことである。
例えば、2014年の研究に『ボディビル式 vs パワーリフター式のどちらが筋肥大するか?』というものがある[R]。
被験者となったのはベテラントレーニー17人で、この研究ではロードボリュームを揃えて「10レップス3セットvs3レップス7セット」を比較した。
もちろんどちらのグループも100%同じロードボリュームではないが、これは統計的に言えば誤差のレベル。
この研究では8週間後に上腕二頭筋の筋肥大が測定されており、結果としてどちらのグループも同じように筋肥大したことが報告されている(ボディビル式:+12.6% vs 高強度:+12.7%)。
このように多くの場合ロードボリュームを揃えてしまうとグループ間の筋肥大は同じになることが多い。
ロードボリュームを揃えると筋肥大は同じになることが多いです。もちろん100%ではありませんが。
ちなみにこういった研究から『ロードボリュームがすべて!筋トレはパワーリフター式でもボディビル式でもどっちでもいい!』という結論を出すのはやや的外れ。
というのも、低レップの高強度トレーニングで従来のボディビル式と同程度までボリュームを重ねようとすると筋トレの時間が倍増する。
高強度トレーニングというのは3レップくらい筋トレしては休憩...が続くので、筋トレに2~3時間もかけられる人間でなければロードボリュームを稼げないのだ。
ちなみにロードボリュームは性質上、研究の世界で”条件を揃える”ために使われることが多いことは知っておいて損はないだろう。
実験の結果、週3回よりも週6回のほうが筋肥大しました!
いやいや、週6回のほうがロードボリュームがめちゃくちゃ多いやん?週6回が原因ではないのでは?
こういった指摘が入らないように多くの研究ではロードボリュームを揃える。このようにグループ間の”条件”を揃えるためにはよく使われるが、実は現実のトレーニングで使う機会はあまりないのだ。
- ロードボリュームを揃えると筋肥大は同じになることが多い
- ロードボリュームはグループ間で筋トレの条件を一緒にするために研究でよく使われる指標
ボリュームの定義その2:セットボリューム
ロードボリュームで一番重要なのがセット数
ロードボリュームを計測して筋トレの進捗を測る方法としては、ロードボリュームはあまり向かない。単純な話だが計算が面倒なのだ。
ロードボリュームで自分のボリュームを調べるぞ...って計算がめんどくせぇ!
毎回ロードボリュームを計測して、今週は30kgロードボリュームが増えたぞ...と進捗を測ってもいいが実際問題として非常にめんどくさい。
そこでパワーリフターのネイサン・ジョーンズが2015年に書いた記事『トレーニングボリュームに関する新しいアプローチ法』で新しいボリュームの計測法が提唱された。
追い込んだセット数(=Hard set)を数えるだけでボリュームを測れるのでは?
簡単に言ってしまえば「どんな強度であろうと追い込んでいればすべての筋繊維が使われている(=すべての筋繊維が刺激されているはず)なので、強度やレップ数は無視してセット数を数えるだけで筋肥大を予測できるのでは?」というのがネイサンの主張なのだ。
筋肉のモーターユニットは小さいものから使われ、レップ数が増えるにつれて大きいモーターユニットが使われる。モーターユニットがすべて使われたとき、もうダンベルを挙げることができなくなる。
サイズの原理だけでなく、ロードボリュームに一番効いてくるファクターがセット数であることからもネイサンの主張は正しいように思える。(ロードボリュームを増やす手っ取り早い方法...それはセット数を増やすことである)
さらにセット数を測るだけでボリュームを測れるのであれば、測定は超簡単。現実でも有用な尺度として使えることだろう。
実際にシステマティックレビューでセット数だけでボリュームを測れた
筋肥大目的で一般的に行われている6-20レップはセット数を数えるだけでいい
ネイサンは過去の文献やサイズの原理から考えて2015年に「ボリュームはセット数を数えるだけでいいのでは?」と主張した。
そして2021年になって論文でも『セット数を数えるだけのボリューム測定法で筋肥大が予測できるぞ!』という結果が出たのだ。(R)
この論文は系統的レビューと呼ばれるもので、”年齢18-35歳かつ経験年数1年以上のトレーニー”を対象にした過去の研究14件を抽出した。
「セット数はボリュームの指標として使えるか?筋肥大を予測できるか?」を調べたのだが、結果は以下の通りになった。
つまるところ1セットあたり2レップのような極端な高強度トレーニングを除き、一般的に行われている6-20レップスならセット数を数えるだけで十分にボリュームとして機能する(=筋肥大を予測できる)のだ。
高強度トレーニングではセット数を測るだけではダメ
筋肥大目的で筋トレしている人にはあまり縁のない話だが、高強度トレーニングではセット数を数えるだけでは筋肥大を予測しないことに注意しよう。
例えば2016年の「2-4レップスの高強度vs8-12レップスのボディビル式」を比較した研究がある[R]。
この研究は19人のトレーニーを対象に7種目の筋トレをしてもらったもので、どちらのグループも3セットを週3回行ってもらった。
8週間後に筋肉量を測定したところ、結果はボディビル式の大勝利だった。
- 上腕二頭筋:ボディビル式0.42 vs 高強度0.28
- 上腕三頭筋:ボディビル式0.21 vs 高強度0.17
- 脚 :ボディビル式1.17 vs 高強度0.33
※()内は効果量
ちなみにこの研究ではボディビル式と高強度トレーニングで同じセット数をこなしているが、ロードボリュームはボディビル式のほうが倍量をこなしている。(ボディビル式56049kg vs 高強度:25867kg)。
冒頭でも紹介したように、高強度トレーニングで従来の8-12レップと同じくらい筋肥大したければセット数を増やしてロードボリュームを同じくらい稼ぐ必要があります
高強度トレーニングを3セット行ったからと言って、従来の8-12レップを3セット行った場合と同じだけ筋肥大することは期待できないのである。
高レップではむしろロードボリュームよりセットボリュームが優れている(かも)
ロードボリュームが同じなら筋肥大はだいたい同じと言ったが、必ずしも筋肥大が同じになるわけではない。高レップの筋トレはロードボリュームこそ稼げるが大して筋肥大に有利ではないことがわかっている。
実はロードボリュームを簡単に稼ぐ方法はセット数を増やす以外にもレップ数を増やすという方法がある。
高強度トレーニングがロードボリュームを稼げない一方で、低強度トレーニングはバカみたいにロードボリュームを稼ぐことができるのだ。
例えば2015年の『25-35レップスの低強度vs8-12レップスのボディビル式』を比較した研究がある[R]。
低強度 | ボディビル式 | |
---|---|---|
強度 | 30-50%1RM(25-35レップス) | 70-80%1RM(8-12レップス) |
セット数 | 3セット | 3セット |
頻度 | 週3 | 週3 |
ロードボリューム | 13,635kg | 7,272kg |
ロードボリュームは低強度のほうが倍近く稼いでいるが、8週間後に筋肉量を測定したところグループ間で筋肥大に差はなかった。
- 上腕二頭筋(5.3% vs 8.6%)
- 上腕三頭筋(6.0% vs 5.2%)
- 大腿四頭筋筋(9.3% vs 9.5%)
ロードボリュームを稼いだからと言って低強度のほうが筋肥大に有利なわけではなく、同じセット数ならばボディビル式も低強度も同様に筋肥大したのだ。
むしろ低強度は30レップとかこなさなければならず、実践してみればわかるがこれはこれで結構大変。
高レップのトレーニングはロードボリュームこそ稼げるが、かと言って筋肥大効果がめちゃくちゃ高いわけではないのだ。
- セットボリュームはセット数を数えるだけ
- 低強度トレーニングはロードボリュームを稼げるわりに大して筋肥大するわけではない。
まとめ:ボリュームはセット数を数えるだけでいい
結果として、超高強度トレーニングを除く筋トレではセットボリュームが一番筋肥大を予測する指標としては簡単かつ正確だろう。
「6-20+レップスではセット数を数えるだけで筋トレをよく予測できる」ということは、実質的にはボリューム=セット数と言ってもいい。
6レップ以下の高強度トレーニングを取り入れていない人は、セット数を数えるだけでボリュームを測定できます
そしてボリュームの定義よろしく、一番筋肥大を予測できるのもセット数である。
とはいえセット数が多ければ多いほど筋肥大するという単純な話でもない。「筋トレは週に何セットが最適か?」を知りたい人は、下記の記事をチェックしてみてほしい。