「筋トレは最後の追い込みが大事!」
というのは、筋トレをしたことがある人なら一度は聞いたことがあるはず。
もう挙げられないという限界まで追い込むことで、筋肉が成長するというのだ。
ということで、今回は論文をもとに「筋トレの追い込み」に関する話をご紹介。
「筋トレを追い込む必要があるとしたら、その理論的な根拠はなんなのか?」
「筋トレを追い込むかどうかで、実際にヒトを対象にした研究で違いは出ているのだろうか?」
「筋トレを追い込む必要がないとしたら、実際にどこまで手前で止めていいのか?」
など、筋トレの追い込みに関する全貌をみていこう。
初回は追い込むべきとされる理論的背景とボリュームがテーマになる。
なぜ筋トレで追い込むべきだと言われるのか?
筋トレで追い込むのが大事、というのは直感的には理解しやすい話。
筋肉が大きくなる原因は環境への適応の結果。
筋トレで重いものを持ち上げられないと体が感知すると、筋肉が「その重さを持ち上げられるようにしなければ」と肥大するのは、適応という観点からは当然のように思える。
あとは良くも悪くも筋トレにハマる人というのはストイックな性格の人が多いので、追い込む方が筋肥大するという考えは受け入れられやすいのだろう。
それに加えて、筋トレを追い込むべき、ということを支持する理論もちゃんとある。
それが”効果的レップ(Effective Reps)”と呼ばれるものだ、
わかりやすくいうと効果的レップとは「筋トレの効果をもたらす本当に価値のあるレップ」を意味する。
そして、この効果的レップは、筋トレにおいて最後の数レップだという主張がある。
例えば1セット12レップの筋トレをするとしたら、筋肥大や筋力向上にとって本当に意味のある効果的レップは8~12レップ目であり、1~7レップ目は意味のないレップ、といった具合に。
実際に、この主張の裏付けとなっているのが2012年の論文。[1]
被験者に肩トレ(ラテラルレイズ)をしてもらい、各レップで筋肉の活動であるEMGを計測した研究なのだが、その結果は以下のようになった。

レップ数を重ねるごとにEMGが上昇しているが、次第にその上昇率は頭打ちになり、EMGは限界ギリギリの数レップで最大となっていることがわかる。
つまるところ、限界ギリギリの数レップにおいて、筋肉が最大限使われているということになる。
これは筋肉の運動単位であるモーターユニットが全て使われた、すなわち全ての筋肉に刺激が行き届いたということになる。
なので、最後の数レップを行うことこそが筋トレの成果を出すためには重要ということになるのだ。
最後の数レップが本当に重要ならば、筋トレで追い込まないというのは愚策でしかない。
追い込まないということは、筋肥大に無駄な最初の数レップばかりをおこなっているということになるからだ。
筋トレで追い込む理論「効果的レップ」の落とし穴
とはいえ、理論的には”追い込む”ほうが合理的なように見えても、実際にヒトを対象にした実験でその理論通りになるとは限らない。
ということで、実際にヒトを対象にした研究で”追い込む”トレーニングが筋肥大や筋力向上に有利なのかをみていこう。
とその前に、そもそもこの”効果的レップ”にも理論的に絶対正しいといえない部分があることを指摘しておこう。
それは「そもそも筋肉を構成するモーターユニットをすべて使うことが本当に重要なのか?」という問いである。
というのも、筋肉かかる物理的な力というのは、細胞外マトリックスという部分を通して、隣接する筋肉間で伝達されるからである。[2]
要するに、動員されておらず使われないモーターユニットにも物理的な力が伝わっているので、その刺激によってすべてのモーターユニットを使わなくても筋肥大のスイッチがONになる可能性は十分にある。
このように”効果的レップ”モデルには、理論的な穴がある。
しかし、理論的な話をいくらしたところで堂々巡りになるだけ。
それでは実際にヒトを対象にした研究をもとに、追い込むトレーニングは効果的なのかをみていこう。
追い込んだほうが筋トレのボリュームは上がる?
「筋トレを追い込むべきか追い込まないべきか」という最初の問題として、追い込むトレーニングは筋トレのボリュームを増やすのか、ということを紹介しよう。
というのも、筋トレで限界まで追い込まないということは、筋トレのレップ数が2、3レップ減ることを意味する。
すなわち、現段階で筋肥大にとって一番重要とされているボリュームが減ってしまうことになり、それは筋肥大に不利である可能性が十分考えられるから。
この問題に関しては、ナイスな研究が2つ行われている。
まず1つ目が2021年の研究。[3]
被験者となったのは筋トレ歴のある女性12人で、彼女らに2つの条件でスクワットをしてもらった。
- レップがこなせなくなるまでスクワットする
- 筋トレの速度が低下してきたらスクワットを中止する
片方のグループは、スクワットがもうこなせなくなるまでレップを行ってもらった。
いわゆる「限界まで追い込んだ」グループになる。
そして、もう一方のグループにはスクワットの挙上速度が20%低下し始めたところでスクワットを中止。
わかりやすくいうと「すんなりスクワットが上がらなくなった時点」でスクワットをやめさせたのである。
余談だが、このように研究では挙上スピードを計測し、スピードが下がり始めたところでセットを中止することで、追い込まないようにすることも多い。(今後の記事で紹介予定)
ちなみにスクワットに使用した重量は10RM。
追い込んだ場合と追い込まない場合でスクワットのレップ数を測定したところ、以下のような結果に。
- 1セット目は、追い込んだ場合のほうが追い込まない場合よりもこなしたレップ数が34.5%も多かった!(追い込む:11.58レップ vs 追い込まない:7.58レップ)
- 4セット目は、追い込まない場合のほうが、追い込んだ場合よりもこなしたレップ数が33.8%多かった!(追い込む:3.58レップ vs 追い込まない:5.41レップ)
- セッション全体で、追い込んだ場合と追い込まなかった場合でレップ数の差はなかった!(追い込む:26.25レップ vs 追い込まない:24.50レップ)
初めの1セット目こそ追い込んだ場合のほうがレップ数をこなしたが、追い込んだグループはセット数を重ねるごとにレップ数が激減し、その減少幅は1セット目から4セット目にかけて-69%にも及んでいる。
一方で、追い込まなかったグループはセッションを通してレップ数がおおむね安定しており、その減少幅は-27%にすぎない。
結果として、セッション全体でみるとレップ数は同じくらいで、両者でボリュームに差はなかったことのである。
そして、この研究ではRPE(主観的な疲労度)も測定されているのだが、すべてのセットにおいて筋トレを追い込んだほうが、筋トレを追い込まないよりRPEが高かったことが報告されている。
要するに、筋トレを追い込むことでセッションを通して筋トレの辛さがあがるだけで、ボリュームは大して上がらないという結果だったのだ。
同じ問題に取り組んで調べた似たような論文が2022年のもの。[4]
被験者となったのはトレーニング経験のある男性14人で、2つの条件でベンチプレスを行ってもらった。
- レップがこなせなくなるまでベンチプレスをする
- あと3レップ以上できなくなったと思うところでベンチプレスを中止する(最終セットだけ限界まで)
まず初めの条件では、レップがこなせなくなるまでベンチプレスをさせた。
もう一方の条件では、初めの4セットはあと3レップはできないだろうな、と思う段階でベンチプレスをやめてもらった。
先ほどと違うのは、最終セットである5セット目だけ限界まで追い込んでもらった点である。
使用した重量は80%1RMで、5セットのベンチプレスをしてもらったところ、追い込んだ場合と追い込んでない場合における被験者がこなしたレップ数は以下のようになった。

こちらも先ほどの研究と同じで、初めのセットこそ実線で表された追い込んだ条件のほうがレップ数が多いが、セットを重ねるにつれて、こなしたレップ数が急激に落ち込んでいる。
一方で、点線で表された追い込まない条件では、初めのセットのレップ数こそ少ないが、終始レップ数をキープしている。
この研究でも、セッションを通してのレップ数となると、どちらも変わらないという結果になったのだ。
この2つの研究から、筋トレは追い込もうと追い込まなかろうと、セッション全体で見るとボリュームには影響しないと言える。
まとめ:筋トレの追い込みとボリューム、RPE
直感的には、筋トレは追い込むほうがレップ数があがる。
すなわち、ボリュームが増えるように思えるが、実際はそうではない。
初めのセットこそレップ数を多くこなせるが、セットが進むにつれてレップ数は激減してしまう。
そして、セッションを通したレップ数で考えた場合、両者に差はないのである。
それどころか、筋トレを追い込むと主観的な辛さが増える。
このRPEの増加を考慮すると、”ボリューム”という観点では追い込まないトレーニングのほうが、追い込むトレーニングより優れていると言えるだろう。
次回は、いよいよ筋力や筋肥大を測定した研究から、追い込むトレーニングと追い込まないトレーニングを比較していこう。
次回の更新は7/30(土)の予定、しばしお待ちを!