「トレーニングの目標は立てたほうがいいのだろうかな」
と誰もが一度は悩んだことがあるのではないだろうか?
そんなあなたに、今回は論文から「トレーニングの目標設定」に関する話をご紹介。
Google検索すると「トレーニングにもSMARTが大事!」と書かれていたりするが、実は研究を見ると話はそう単純ではない。
SMARTが間違いというわけではないが、目標がSMARTであるだけでは不十分なのだ。
目標設定にはSMARTが重要?
誰しも人生一度は目標を立てたことがあるだろう。
- 仕事で今季の営業成績を+10%する
- 次のテストで東大C判定を出す
- 県大会ベスト8入りを果たす
このように目標は人生のあらゆる場面で立てると思うが、主に「仕事・教育・スポーツ」の3分野に分けられる。
「恋愛や趣味の分野で目標を立てているけど?」という人もいるかもしれないが、目標を立てられることが多く、研究が行われているのも主にこの3分野。
中でも、目標設定といえば仕事という人も多いだろう。
Googleで仕事の目標設定について検索すると、よく「SMARTな目標設定が効果的!」といった記事が出てくる。
SMARTとは、以下の頭文字をとったもの。
- Specific:具体的な
- Measurable:測定可能な
- Attainable:実現可能な
- Relevant:関係のある(本当に意味のある)
- Time-Based:時間制限のある
この5つの要素こそが効果的な目標設定に大事だというのだ。
まず第一に、目標は具体的にしなければならない。
漠然と「全力を尽くして頑張る」という目標を立てるのではなく、「営業件数を月100件から月105件に増やす」のように具体的な目標を立てろということである。
そして、この例は営業件数という客観的な数字を用いているので、測定可能という第二の要素も満たしている。
さらには、営業件数を月100件から月105件くらいであれば十分に達成できる範囲なので、この目標は第3の要素である実現可能も満たしている。
逆に、月100件から月300件に増やすというのはあまりに現実とかけ離れているので、全くもってSMARTとはいえない。
そして、第4の要素がRelevant。
「関係のある」という直訳では少々わかりづらいかもしれないが、わかりやすく言えば「会社の成長に本当に意味のある目標を個人でも設定しろ」ということ。
というのも、ビジネスというのはほとんどが個人レベルではなく組織レベルで行われるもの。
個人の目標設定がちゃんと会社という組織の成長につながるか確認せよ、ということである。
しかしこの要素はあくまで組織レベルの話なので、個人レベルの目標設定ではあまり気にしなくていいだろう。
そして最後の要素が、時間制限を設けるということ。
先ほどの例で言えば、「3ヶ月後までに営業件数を月100件から月105件に増やす」というのは三ヶ月という時間的な制約があるので”Time-Based"になる。
これまでに挙げた5つの指標を満たしている目標こそがSMARTな目標なのだ。
SMARTな目標はビジネスでよく使われており、実際にSMARTな目標は効果的だと感じている人もいるだろう。
それではビジネスの分野で有効ならSMARTはトレーニングでも有効...かと思いきや、実はそういうわけでもない。
ビジネスで使える目標設定はトレーニングにも応用できる...わけではない
ビジネスでは有名なSMARTだが、トレーニングの分野でも効果があるかどうかはわからない。
というのも、屁理屈に聞こえるかもしれないがビジネスに効果があるからといってトレーニングにも効果があるとは限らないからだ。
ここで一言注意書きをしておくと、トレーニングと言っても厳密には私たちが想像するような”筋トレ”ではなくスポーツのトレーニング。
しかし、あまり厳密性を気にし過ぎていても始まらないのでそこは一旦無視。
何はともかく、ビジネスに有効な目標設定がトレーニングに有効とは限らないのである。
実際に「分野が変わると目標設定の方法も変わるのでは?」を調べたメタ分析が2014年に行われている。(R)
目標設定に関する論文98件を抜き出したもので、どの分野で目標を立てるかで目標の効果的な変わることがわかった。
- 仕事と教育の分野では、接近目標はパフォーマンスと正の相関、回避目標はパフォーマンスと負の相関を示した!
- スポーツの分野だけは、回避目標はパフォーマンスに負の相関を示さなかった!
まず用語の説明をすると、接近目標というのは「何かを達成すること」に焦点を当てた目標。
例えば「営業件数105件を達成する」であったり「テストで90点をとる」などが該当する。
一方で回避目標というのは「失敗をしないこと」に焦点を当てた目標。
例えば「1日の中で一度も怒られないようにする」や「平均点よりも悪い点数を取らないようにする」といった目標が回避目標になる。
まず、先ほどのメタ分析では、仕事・教育・スポーツのどの分野でも接近目標はパフォーマンスUPに繋がった。
そして、仕事と教育の分野では回避目標はパフォーマンスと負の相関があったが、スポーツの分野ではパフォーマンスと関係なかった。
実はこれは目標設定ではよく知られている話で、ダイエットでも「お菓子を食べない」は効果がないが「野菜をたくさん食べる」は効果があることがわかっている。
なぜ回避目標がネガティブな影響を与えるかというと、回避目標というのは強い不安感に繋がりやすいから。
要するに、失敗を恐れる不安感で思考が占められパフォーマンスが下がるのである。
「失敗したらどうしよう」という不安感が強すぎて何も手につかなかった、という経験が誰しも一度はあるのではないだろうか。
しかし、スポーツだけはこの原則が当てはまらない例外的な分野だったのだ。
ビジネスや教育分野のように回避目標を立ててもパフォーマンスには影響しなかった。
なぜこのような結果になるのだろうか?
研究者によると、スポーツというのは「負けない」ということが往々にしてポジティブな意味を持つことが原因らしい。
例えばリーグ戦であれば負けないだけでも上位になるかもしれないし、1位を防衛しなきゃいけないという場合にも負けないという回避目標を立てるしかない。
スポーツでは回避目標はつきものだから、だと言うのが研究者の見解。
しかし、個人的には「あまり納得できるものじゃなくね?」というのが正直な感想。
とはいえ、この事実だけは確からしい。
スポーツで回避目標はネガティブな影響を及ぼさないというのは他の研究でも報告されているのだ。
例えば2015年のスポーツ分野における接近-回避目標に関するメタ分析でも、回避目標はパフォーマンスに対してポジティブよりはネガティブ寄りではあったが、統計的に差はなかったということが報告されている。(R)
スポーツでは回避目標を立ててもパフォーマンスにネガティブな影響を与えない理由はよくわからないが、はっきりと言えることが一つだけある。
それは、ビジネスや教育の目標がスポーツにも使えるとは限らないということである。
トレーニングは具体的な短期目標と抽象的な長期目標を組み合わせるのが重要
それでは実際に、トレーニングの目標設定ではどのようなことが重要なのだろうか?
このことについて深く掘り下げたのが、2022年のメタ分析。(R)
スポーツの目標設定に関する論文27件を抜き出したもので、実際に抜き出されたスポーツは以下の通り。
- ダーツ6件
- ゴルフ4件
- バスケ3件
- バレーボール3件
- 水泳3件
- ボウリング2件
- サッカー1件
- ランニング1件
- 卓球1件
- ボクシング1件
- 敏捷性ラダー1件
それぞれのスポーツにおける目標設定によるパフォーマンスへの効果を調べたところ、結果は以下のようになった。
- 目標設定そのものはパフォーマンスに中程度の正の相関があった!
- 目標は長期目標と短期目標の両方を組み合わせると1番効果的だった!
- 具体的な目標も具体的じゃない目標も同様にパフォーマンスを高めた!
まず、第一に目標を立てること自体はパフォーマンスを上げることがわかった。
つまり、目標を立てることは無意味ではなく意味がある行為だったのだ。
次に、目標は短期的な目標や長期的な目標だけを立てるよりも、短期的な目標と長期的な目標の両方を組み合わせたほうが効果的だった。
そして最後に、具体的な目標だろうと非具体的な目標だろうと、どちらも同じくらいパフォーマンスを高めたのである。
「非具体的な目標でも効果がある」というのは、SMARTなゴールと根本的に異なる部分。
しかし、そんなSMARTではない目標でもSMARTな目標と同じくらいパフォーマンスを向上させた。
そして、SMARTかどうかよりも重要なことは、短期的な目標と長期的な目標を組み合わせることだったのだ。
長期目標と下位目標を組み合わせる「ゴールヒエラルキー」
それでは、なぜ「非具体的な目標でも効果がある」「長期的なゴールと短期的なゴールの両方が大事」という結果になったのだろうか。
このことを理解するために、ゴールヒエラルキーという概念を紹介しよう。(R)
これはヒエラルキーという名の通り、目標(ゴール)を階層化するというもの。
具体的には人生で達成したい上位目標の下に、日々こなさなければいけない下位目標を設定する。
まず上位目標というのは一生かけて追求したい目標で、上記の例で言えば「健康になる」がこれにあたる。
そして次に上位目標を達成するために必要なことを中間目標として決める。
この場合は「いい体型を保つ」「十分な睡眠を取る」「ストレスを減らす」「食事に気を付ける」などの要素が挙がっている。
そして最後に、各中間目標を達成するために必要な”日々やるべきこと”を下位目標として設定する。
例えば「いい体型を保つ」という中間目標を達成するために、以下のようなものが下位目標として挙げられている。
- 週一で運動する
- 水曜日の午後に腕立て伏せ40回をする
- 木曜日の午後4時にヨガに行く
このように抽象的かつ長期的な上位目標と、具体的かつ短期的な(言い換えるならSMARTな)下位目標で目標を設定するのがゴールヒエラルキーである。
実はこのゴールヒエラルキー、上位目標だけや下位目標だけを設定する場合より目標達成に効果的なことがわかっているのだ。
上位目標と下位目標には、それぞれメリットとデメリットがある。
これらを組み合わせることで、お互いの欠点を補うことができるのだ。
下位目標のメリットとは?
まず、一般的に目標設定と言われて立てるであろう目標になる下位目標を紹介しよう。
下位目標の特徴は”具体的”かつ”短期的”であることなのだが、この下位ゴールには以下のようなメリットがある。
- 行動開始の起爆剤になる
- 進捗が分かりやすくフィードバックが受けられる
下位目標のメリット①行動開始の起爆剤になる
まずはじめに「目標に向かって行動するぞ!」というときに重要なのは下位ゴール。
例えば「健康になろう」という上位目標だけだと、漠然とし過ぎて実際に何をしたらいいかわからなくなってしまう。
それに比べて、下位ゴールというのは「水曜日の午後に腕立て伏せ40回をする」など具体的でやるべきことが明確なので、行動がしやすい。
行動開始の起爆剤となるのは上位ゴールではなく、具体的な下位ゴールなのだ。
下位目標のメリット②進捗がわかりやすくモチベーションが維持しやすい
また、下位ゴールには進捗が分かりやすく試行錯誤しやすいというメリットもある。
例えば「三ヶ月で体重を10kg落とす」という下位ゴールを設定したとしよう。
このとき、1ヶ月時点で体重が1kgしか落ちていなければ目標がうまくいっていないことがわかる。
一方で、1ヶ月で体重が3kg落ちていれば順調に目標が達成されそうだと思うだろう。
実は先ほど紹介した「スポーツに関する目標設定」について調べた2022年のメタ分析で、目標の進捗に対するフィードバックがあるとフィードバックがない場合よりもパフォーマンスが向上することもわかっている。(R)
要するに、目標を立ててもどれくらいその目標の進捗がわからなければ、モチベーションを保ち続けることができないのだ。
この進捗は上位目標では計りづらい分野。
例えば「健康になる」などの上位ゴールは、自分が以前よりどれくらい健康になっているかの進捗が分かりづらいし、どういう状態になったら達成されたかもよくわからない。
一方で短期ゴールというのは具体的かつ短期的な目標なので、「どれくらい進んでいるか」「あとどれくらいで達成できそうか」が分かりやすくモチベーションを保ちやすいのだ。
ミニまとめ:下位目標はSMARTに決定すればOK
下位目標というのは、言ってしまえばSMARTな目標設定にしておけばよい。
上位目標を達成するための、具体的で短期的な目標を立てることで行動の起爆剤になるし、その後のモチベーションを保ちやすくなるのだ。
上位目標のメリットとは?
下位目標にはメリットがあるとはいえ、下位目標だけではいけない。
実は下位目標には欠点があるのだが、上位目標がその欠点を補ってくれるのだ。
上位目標には、以下のようなメリットがある。
- 困難な目標に挑戦できるようになる
- 一生達成されることがない
- 代償効果がおきない
- 失敗に強くなる
これらのメリットが下位目標のデメリットを打ち消してくれるのだ。
上位目標のメリット①困難な目標を好むようになる
まず上位目標で一番大きなメリットは、困難な目標でもめげずに立ち向かえるようになることである。
実は上位目標があるとヒトは困難な下位目標を好むが、上位ゴールがないときにヒトは簡単な下位目標を好むことがわかっている。(R)
「なぜこの目標を達成するべきなのか」を自問すると、下位目標が困難であればあるほど「人生において大切な目標のはずだ!」とモチベーションがあがるのだ。
一方で下位目標を達成する理由を考えないと、ヒトは簡単な下位目標を好むようになる。
ヒトは易きに流れるもの。何かに挑戦するよりもラクをしたくなってしまうのだ。
上位目標で「なぜこの目標を達成するべきなのか?」を自分に意識させ続けることは、困難な下位目標に立ち向かうために必須なのだ。
上位目標のメリット②一生目標が達成されない
そして、上位目標の2つ目のメリットが「一生目標が達成されない」ということである。
さきほど目標の進捗度が重要という話をしたし、そもそも目標を設定したのに”目標が達成されない”のは悪いことなのでは?と思うかもしれない。
しかし、何事も絶対に良い/悪いというものはぞんざいしない。
実は目標達成にもネガティブな側面はある。
それは目標を達成した瞬間に努力をやめてしまうことである。
これはダイエットしたことがあるヒトなら誰もが経験したことがあるだろう。
例えば「三ヶ月で体重を10kg落とす」という下位目標を立てたとしよう。
そして食事に気をつけて苦節三ヶ月、体重を見事10kg落として目標を達成。
このとき、ほとんどの人は元の食生活に戻り体重がリバウンドしてしまう。
行動のモチベーションというのは、目標と現状に差があるからこそ生まれるというのが目標達成の理論。(R)
目標が達成されてしまい目標と現状に差がなくなると、努力をするモチベーションがなくなってしまうのだ。
その点、上位目標というのは一生達成されることはない。
例えば「健康になる」という目標は、どの時点で目標を達成したかが非常に分かりづらい。
もちろん、上位目標だけのときはこれが弱みになるが、下位目標と組み合わせるとこの上位目標の特徴は強みになる。
上位目標が半永久的に目標と現状の差を生み出してくれるので、下位目標を一つ達成してもすぐに別の下位目標に移れるのだ。
上位目標のメリット③代償効果が防げる
また、上位目標には代償効果(Conpensation Effect)を防ぐというメリットもある。
代償効果というのは、例えば健康的なランチを食べた後にいい気分になり、その分禁煙してたタバコを吸ってしまったり、運動をサボったりするようなことをいう。
このように目標にとって良い行動をしたとき、その分ご褒美として他の目標を阻害するような行動をとってしまうのが代償効果。
この代償効果だが、実は上位目標で下位目標をまとめることで発生が防げることがわかっている。
というのも、「健康的な食事をする」という下位目標はあくまで「健康になる」という上位目標の手段でしかない。
もし「禁煙する」「運動する」という下位目標に反する行動をとってしまうと、上位目標を阻害してしまうという意識が強く働く。
下位目標だけではついつい起きてしまう代償効果も、上位目標を設定して「なんのためにこの下位目標があるのか」を意識することで発生が防げるのだ。
上位目標のメリット④失敗に強くなる
上位目標の最後のメリットは、目標の失敗に強くなるということである。
実は「失敗する可能性がある」というのが目標設定全般におけるそもそものデメリットでもある。
理由は目標を達成できなかったときに落ち込む可能性が高いという単純なもの。
例えば2021年の「目標設定にもマイナス面はあるのでは?」を調べた研究では、(嘘の)フィードバックによって目標が失敗させられたグループは、自尊心が傷つき実際にモチベーションも低下したことが報告されている。(R)
目標失敗を繰り返すと自尊心がズタボロになる可能性があるのだ。
しかし、下位目標を上位目標でまとめているとレジリエンスが向上することがわかっている。(R)
上位目標には、複数の下位目標が連なっており、それぞれの下位目標は上位目標を達成する一つの手段でしかない。
たとえどれかの下位目標が失敗したとしても「上位目標を達成する他の手段はいくらでもある。」「他の下位目標を追えばいい」と思えるようになるのだ。
結果としてレジリエンスが向上し、下位目標だけを設定したよりも目標の失敗によるダメージを軽減することができるのだ。
ミニまとめ:上位目標と下位目標を組み合わせよ!
まとめると、上位目標と下位目標にはそれぞれメリットとデメリットがある。
どちらの目標が良い/悪いということではない。
重要なのは上位目標と下位目標を組み合わせることで、こうすることで互いの欠点を補い合う隙のない目標設定ができるのだ。
ゴールヒエラルキーをより効果的にする”Slack with Cost”戦略
ここまでゴールヒエラルキーの重要性について説明してきた。
最後に一つ、ゴールヒエラルキーの効果を高める戦略を紹介して終わりにしよう。
それが"Slack with a cost"という方法である。(R)
これは直訳すると「コストのかかるサボり」となるが、簡単に言えば"免除日"を作るというものである。
例えば「週7回ジムに行く」という目標を立てたときであれば、「週2回まではジムに行くのを免除しても良い」というシステムにするのだ。
この戦略は難しい目標に対して緩みを持たせるので、達成可能性を挙げてモチベーションを保つことがわかっている。
実際に2017年の"Slack with a cost"を調べた研究を紹介しよう。(R)
この研究では60人の男性を対象に、以下の4つのグループに分けた。
- 簡単な目標:週5回オンライン講座を受ける
- 幅のある簡単な目標:週5回オンライン講座を受けるのが目標。しかし、週7回講座を受けるべきとも言われる。
- リザーブグループ(Slack with a cost):週7回ジムに行くのが目標。しかし、週2回だけ緊急回避で休んでもよい。
- 難しい目標:週7回オンライン講座を受ける。
簡単な目標グループは、週5回朝のオンライン講座を受けることを目標に設定した。
次の幅のある簡単な目標グループは何かというと、目標は週5回と簡単とはいえ、週7回講座を受けるべきだという話をされたグループ。
つまり、目標以上に努力すべきと言われたのだ。
そして難しい目標に割り当てられたグループは休むことが許されず、週7回オンライン講座を受けるという目標を設定された。
そして肝心のリザーブグループは、目標は週7回と難しいが、週2回だけ講座受講を免除する”緊急回避”を与えられた。
この4つの条件で”週5回のオンライン講座受講達成率”を調べたところ、以下のような結果になった。
グラフで見ると分かりやすいが、他の3つのグループに比べてリザーブグループが最も週5回の受講を達成したのである。
ちなみにこの研究ではオンライン講座を1日受講するたびに1ドル、週の目標を達成するたびに5ドルの報酬が設定されているが、最も多くの報酬を稼いだのもリザーブグループだった。
難しい目標のほうが達成できれば賞金は一番稼げるはずだが、実際にはそうはならなかったのである。
というのも、難しい目標に挑戦したはいいが、達成可能性が低すぎて途中で挫折してしまったのだ。
実際は緩みを持たせたリザーブグループのほうがモチベーション維持が容易で、多少休んだとしても長期的に見ればただ闇雲に毎日頑張ろうとするよりも効果的だったのだ。
これはダイエットにも通ずるものがある。
ちなみにこのリザーブゴール、量を制限するのがポイント。
さらには”緊急時にのみ使う”とすると効果大である。
まず量の制限だが、例えば先ほどの例で言えば「オンライン講座を受けたくない日は受けなくてよい」と無制限にサボれるようにしてはいけない。
あくまで週2回しか休めないというのが重要なのだ。
この”緊急回避”が使える量は多すぎず少なすぎない絶妙な量を設定しなければならない。
そして、週2日の免除日はあくまで緊急用としたほうがいい。
どうしてもオンライン講座を受けられない日にだけつかう”緊急”免除日であるということを意識する必要がある。
なぜ緊急時に使うために用意されていると意識することが大事かというと、ヒトは貴重な資源を使うことに抵抗があるからである。(R)
簡単に言えば「緊急回避日を使うのがもったいない」と感じることで今日は頑張るかと思えるのだ。
例えば「今日はオンライン講座を受けたくないな」と思ったとしよう。
ここで単に「毎日講座を受講する」という難しい目標を設定した場合、目標のために頑張るか諦めて挫折を受け入れるかの二択になる。(そして往々にして挫折する場合もある)
しかし、緩みのある目標を立てた人間は「緊急回避日を使うかどうか」の2択を迫られる。
ここで多くの人は「ここで使ってしまっては後でもっと重要な場面で使いたいときに使えないかもしれない」「ここで使うのはなんだかもったいない」という心理が働くのだ。
結果として、「今日は緊急回避日を使うのをやめてやろう」という考えにいたるのだ。
この現象は、ゲームをよくプレイする人なんかは理解しやすいかもしれない。
ファイナルファンタジーでラストエリクサーを手に入れたけど、使うのがもったいなくて渋っていたら気づけば使わぬままラスボスまで倒していたということはよくある話。
実は目標設定も同じで、ただ「目標を達成しなきゃ」と自分に鞭打つよりも、「緊急回避日を使うかどうか」という選択にしたほうがもったいない効果で行動に取り掛かれる可能性が高いのだ。
まとめ:ゴールヒエラルキーとSlack with a costを組み合わせよ
巷では「トレーニングでもSMARTな目標が大事!」と言われているが、これは下位目標に限った話。
SMARTは無意味ではないが、具体的かつ短期的な(言い換えるならSMARTな)下位目標に加えて、抽象的かつ長期的な上位目標を設定することが重要。
さらに下位目標を立てるときは、難しめの目標(上位目標があると困難がウェルカムになる!)に緊急回避日を設定するのがいいだろう。
トレーニングの目標設定で悩んでいた人は、参考にしてみてはいかがだろうか。お試しあれ!