ビタミンDってなに?
ビタミンDってどうやって作られるの?
今回はビタミンDに関する知識をインストールする回です
- ビタミンDはカルシウムやリンの調節に関わるビタミン
- 植物が作り出すビタミンD2と動物が作り出すビタミンD3がある
- ビタミンDは皮膚が紫外線にあたることで生成される
ビタミンDってなに?
ビタミンDにはビタミンD2とビタミンD3がある
そもそもビタミンってなに?
ビタミンとは「人体では合成できないので食事から摂取する必要のある有機化合物」の総称です。
いわゆる栄養素の一つだが、ビタミンDは実は本来のビタミンの定義から外れる存在。[1]
ビタミンDは例外的に人体で合成することができるビタミンです
そんなビタミンDには、皮膚から作られるビタミンD3と食事から吸収されるビタミンD2がある。[2]
動物が生産・利用しているのがビタミンD3で、植物が生産・利用しているのがビタミンD2。[1]
実際はビタミンDはビタミンD2~D6の5クラスがあります。しかし菌や植物が作り出すもので、お目にかかることは皆無なので割愛。[1]
ビタミンといえば食事から摂取するものだが、実はビタミンDは食品からはほとんど摂れない。
最も天然のビタミンD2含有量が多いのは魚類。
他にも卵など微量のビタミンDが摂れるものはあるがガッツリ摂れるのは魚くらい。
食物連鎖における底辺にいる藻類や酵母がビタミンD3を多く含んでいるため、魚は生物濃縮によってビタミンD3が含まれているのだ。
以前は動物=ビタミンD3・植物=ビタミンD2でしたが、魚がビタミンD3を含むことから最近では「藻類などもビタミンD3を産生しているのでは?」と言われるようになりました[1]
植物が生産・利用しているビタミンDであるビタミンD2だが、食事での供給源は主にキノコ。
保管は牛乳などにも牧草由来のビタミンD2は含まれているが、その含有量はわずか。[1]
ビタミンD2とビタミンD3、摂取するならどっちがいいの?
実はこの問題に関しては決着がついておらず不明です
実際に論文では「ビタミンD2とビタミンD3が同様に作用する」と報告している場合もあれば、「ビタミンD2はビタミンD3よりも効果が低い」と報告している研究もある。[1]
- ビタミンD2
エルゴカルシフェロール。
ergot-+calciferol。 - ビタミンD3
コレカルシフェロール。
cholesterol+calciferol。 - カルシフェロール
ビタミンDを意味する言葉。
炭酸カルシウムを生産するという意味のcalciferous+ergosterol。
ビタミンDは体内で活性型になることで作用を発揮する
2種類あるビタミンDですが、どちらも生体内での運命は一緒です
実はビタミンD自体は不活性型。
体内で2度のヒドロキシル化(OH化)によって活性型ビタミンDとならなければ生理作用を発揮することはできない。
肝臓で一度OH化、そして腎臓に運ばれてもう一度OH化されることによって活性型ビタミンDになります。
活性型になったビタミンDは、主に血液中のカルシウムとリン濃度を増大させる作用を発揮する。[3,4]
- 破骨細胞による骨の分解亢進(Ca/Pの増大)
- 腸管におけるカルシウム・リンの吸収亢進((Ca/Pの増大)
- 腎臓によるカルシウムの吸収促進(Caの増大)
この中でも特に効いてくるのが腸管からのカルシウムやリンの吸収増大。
例えばビタミンDが存在することで腸管でのカルシウム・リンなどのミネラル吸収が大幅に亢進されます。[2]
ビタミンDが存在しない場合 | ビタミンDが存在する場合 | |
---|---|---|
カルシウムの吸収率 | 約10-15% | 約30-40% |
リンの吸収率 | 約60% | 約80% |
ビタミンDの歴史とくる病
カルシウムとリンの調節に関わるビタミンDだが、欠乏すると病気になることがある。
病気の中でもビタミンDと関わりが深いのが”くる病(rickets)”。
ビタミンD欠乏によって引き起こされる病気の一つで、カルシウムの吸収低下により骨のミネラル化がうまくいかず、骨がやわらかくなる等の症状が出る。[5]
ビタミンD不足→腸管からのCa吸収が減少→血液中のカルシウムが減少→副甲状腺ホルモンにより破骨促進(血液中のカルシウム量をあげようとする)
- くる病
rickets。ドイツ語で「ねじれた」を意味する”wricken”が由来だと言われている。骨のミネラル化に異常をきたす病気。小児の場合はくる病、成人では骨軟化症という[5] - 骨軟化症
ビタミンDの欠乏などによってもたらされる骨のミネラル化異常による病気。骨の軟化に加えて、中身がスカスカになる骨粗しょう症の症状がでる
ビタミンDというのは元々、くる病の予防に必要な栄養因子として発見されたという歴史があります
1919年、メランビー(Mellanby)は”第四のビタミン”を発見し、くる病に関連している栄養因子であると論文で発表した。
“Rickets is a deficiency disease which develops in consequence of the absence of some accessory food factor or factors. It therefore seems probable that the cause of rickets is a diminished intake of an anti-rachitic factor, which is either fat-soluble factor A, or has a similar distribution to it”
くる病は何らかの食物因子が欠乏することによって引き起こされる疾患である。くる病の原因は抗ラキチン因子(くる病を防止する因子)の摂取量低下と思われるが、この抗ラキチン因子は脂溶性因子Aかそれに類似した物質である。
Mellanby ,1919
それまで原因がハッキリしなかったくる病ですが、存在が提唱されていた”fat-soluble A”のような物質が関係しているとメランビーは発表しました。
- rachitic
「くる病に苦しむ・くる病に関連する」などの意味。ラテン語でくる病(rickets)を意味するrachitisが名前の由来。日本語ではラキチン作用みたいに使われる
そして論文発表から数年後の1922年、「脂溶性A(fat-soluble A)」の存在を提唱していたマッコラムはこの物質を”ビタミンD”と名付けた。
第4のビタミンとして発見されたビタミンD。ビタミンA、B、Cはすでに名づけられていたのでビタミンDと名づけました
そして「くる病を防止する栄養因子」は複数見つかったため、数字を末尾につけてビタミンD2やビタミンD3と呼ぶようになったのだ。
ビタミンDの数字の由来
ちょっと待て!ビタミンD2とビタミンD3があるけど、ビタミンD1はどこに行った?
物質の発見順に数字をつけましたが、1はその後他の物質の混合物であると判明したため欠番となりました[6]
1920年代後半、Windausらは抗ラキチン作用のある物質を植物から単離してビタミンD1と名づけた。
くる病を防止する栄養因子として単利されたビタミンD1ですが、発見した当時は構造が不明。
その後構造が判明すると、ビタミンD1はビタミンD2とタキステロールの混合物と判明したのだ。
ビタミンは後から他の物質と同じだと判明しても、数字は繰上げになりません。なのでビタミンD1は欠番となっています
そしてビタミンD1の次に発見されたのがビタミンD2。
イギリスのAskewによって、抗ラキチン作用のある植物由来の物質としてビタミンD2と命名された。
さらに後になってビタミンD1の発見者であるWindausらが抗ラキチン作用のある動物由来の物質を発見し、ビタミンD3と命名した。
抗ラキチン作用を持つ物質として発見順にビタミンD1~ビタミンD3と命名されましたが、結果的にビタミンD1が欠番となり現在ではビタミンD2とビタミンD3が生き残っています
ビタミンDが作られるまで
ここからはビタミンDが体内でどのように作られているかを見ていきます
ビタミンD3
①皮膚で紫外線のエネルギーを用いてビタミンD3が作られる
まずはヒトを含む動物が生体内で作っているビタミンD3から見ていこう。
まずは皮膚上で紫外線のエネルギーを用いて、7-デヒドロコレステロールからビタミンD3が生成される。[7]
省略されることも多いですが、実は7-デヒドロコレステロールとビタミンD3の間にはプレビタミンD3という物質が作られています
まず第一段階として、太陽光がコレステロール構造を破壊し”7-デヒドロコレステロール”が”プレビタミンD3”となる。
プレビタミンD3は熱力学的に不安定なので、熱による転移が起こりビタミンD3が完成するのだ。[1]
プレビタミンD3ですが、実はビタミンD3が過剰生成されないために重要な役割を果たしています
長時間の紫外線にさらされると、プレビタミンD3はルミステロールやタキステロールという不活性型に変換される。
この機能があるおかげで、紫外線に当たりすぎたとしても大量にできるのは不活性型の物質だけ。
脂溶性で尿からの排出も難しいビタミンD3。過剰に蓄積しないように生成しすぎない防御機構が備わっています
②肝臓と腎臓で、それぞれ一度ずつOH化される
皮膚で生成されたビタミンDだが、このままでは不活性型で生理作用を発揮することはできない。
皮膚で生成されたビタミンD3は肝臓に運ばれてOH化されることで25-OHビタミンD3となり、25-OHビタミンD3は腎臓に運ばれるともう一度OH化されて1,25(OH)2ビタミンD3となる。
ちなみに脂溶性のビタミンDは血液に解けないので、血液中ではビタミンD結合たんぱく質(vitamin D binding protein:DPB)によって運ばれます
ビタミンD3は25-ヒドロキシラーゼにより25位にOHが付くことで、OHビタミンD3になる。
そして25OHビタミンD3は1-ヒドロキシラーゼにより1位にさらにOH基が付けられ、1,25(OH)2ビタミンD3(別名カルシトリオール)となり無事に活性型ビタミンD3が完成する。
そして完成した活性型ビタミンD3は標的細胞である腎臓・小腸・骨などに運ばれ、受容体に結合することで作用を発揮します。
ビタミンD2
動物は皮膚でのUVB照射により7-デヒドロコレステロール(プロビタミンD3)からビタミンD3を生成する。
このプロセスの菌・酵母verがビタミンD2であり、エルゴステロール(プロビタミンD2)のUVB照射によってビタミンD2が生成する。
こうして菌類であるキノコに蓄えられたビタミンDを摂取することなどにより、腸管からビタミンD2が吸収されてビタミンD3と同じように二度のOH化を経て活性型に変換される。
参考文献
1. Jäpelt RB, Jakobsen J. Vitamin D in plants: a review of occurrence, analysis, and biosynthesis. Front Plant Sci. 2013;4: 136.
2. Chauhan K, Shahrokhi M, Huecker MR. Vitamin D. StatPearls Publishing; 2023.
3. Takahashi N, Udagawa N, Suda T. Vitamin D endocrine system and osteoclasts. Bonekey Rep. 2014;3: 495.
4. Zappulo F, Cappuccilli M, Cingolani A, Scrivo A, Chiocchini ALC, Nunzio MD, et al. Vitamin D and the Kidney: Two Players, One Console. Int J Mol Sci. 2022;23. doi:10.3390/ijms23169135
5. Wheeler BJ, Snoddy AME, Munns C, Simm P, Siafarikas A, Jefferies C. A Brief History of Nutritional Rickets. Front Endocrinol . 2019;10: 795.
6. Jones G. 100 YEARS OF VITAMIN D: Historical aspects of vitamin D. Endocr Connect. 2022;11. doi:10.1530/EC-21-0594
7. Bikle DD. Vitamin D: Production, Metabolism and Mechanisms of Action. MDText.com, Inc.; 2021.