高強度ウォームアップで筋力向上!活性後増強効果(PAP)の科学

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「筋トレをする理由は理想の体型になりたいから!」

という風に筋トレをしているという前提なので、このマガジンでは筋力向上についてはいつも疎かになりがち。

とは言え、筋力をつけることに損があるわけではないし、筋力が向上するならそれに越したことはない。

実際に、筋力が向上すれば使用重量が増えるので当然ボリュームも上がる。そしてボリュームの増加が筋肥大に有利なのは言うまでもない。

そこで今回は、最も無駄なく筋力を向上させる方法を紹介しようと思う。

要は高強度トレーニングを取り入れるのだが、筋肥大が第一のフィジーク思考の人がいかにして取り入れるべきか?に焦点をあてる。

というのも、現在よく知られている高強度トレーニングの取り入れ方は筋力第一のパワーリフター向けのもの。

ということで、まずはその方法論であるピリオダイゼーションをおさらいしてみよう。

目次

筋力大好きパワーリフター御用達のピリオダイゼーション

筋力第一のパワーリフターがよく使うトレーニングメニュー作りとして、以前にピリオダイゼーションを紹介した。

ピリオダイゼーションとは、筋トレを高強度フェイズと高ボリュームフェイズに分け、最大限に筋力を高めようとする企みである。

というのも、筋力は筋肥大と神経適応の両方が絡んでくるから。

筋力 = 筋肉量 × 神経適応

そして、基本的に筋肉量はボリュームに反応し、神経適応は高強度トレーニングに反応する。

よって、高ボリュームで筋肉量を増やし、高強度で神経適応を推し進める必要があるのである。

実際に高強度トレーニングになればなるほど筋力が向上するのは実証されており、現在のガイドラインでは”<6レップス”が一つの目安になっている。(RRR

筋肉が普段の使用法に合わせて適応する”特異性”から考えても、重い重量を扱えば筋力が向上するのは理にかなっている。

そういう事情があるので、筋力を高めたかったら、筋トレのボリュームも必要だし、高強度トレーニングもしなければならない。

しかし、強度とボリュームを同時に達成するのは難しいので、パワーリフターは高ボリュームフェイズから高強度フェイズに段階的に移行するピリオダイゼーションを使用する。(画像引用:Stronger by Science)

ピリオダイゼーションの例(青:ボリューム 赤:強度)
ピリオダイゼーションの例(青:ボリューム 赤:強度)

前半のボリューム期間で筋肉をつけ、後半の高強度フェイズで筋肉に神経適応を推し進め筋力を付けるのである。

実際に、2017年のメタ分析では、18件の研究から「ピリオダイゼーションは非ピリオダイゼーションより筋力が向上する」と結論づけられている。(R

”特異性の原理”だけから考えれば、高強度トレーニングだけをずっとやるほうが理にかなっているように思えるが、実際は強度を一時的に捨ててでも高ボリュームフェイズを取り入れたほうがいい。

しかし、筋力には有力なトレーニング法だと知られているピリオダイゼーションだが、筋肥大となると話が変わる。

というのも、筋肥大に関しては「ピリオダイゼーションは非ピリオダイゼーションより優れている」という結果は出ていないから。

  • 2017年のメタ分析では、13件の研究を抜き出したところ、ボリュームが同じなら”線形 vs 非線形ピリオダイゼーション”で筋肥大効果は変わらなかった!(R
  • 2018年の系統的レビューでは、12件の研究を抜き出したところ、ボリュームが同じなら”非ピリオダイゼーション vs ピリオダイゼーション”で筋肥大は変わらなかった!(R

要するに、ピリオダイゼーションの種類や、そもそもピリオダイゼーションをするかどうかで筋肥大効果は変わらないのである。

ちなみに、筋肥大目的でもピリオダイゼーションをやる価値がないわけではない。

というのも、ボリュームを意図的に揃えない場合、ピリオダイゼーションのようにボリュームと強度を柔軟に設定するほうがボリュームが増える可能性が高い。

実際に、2012年の研究では、ボリュームフェイズの間に高強度フェイズを挟むことでボリュームが上がることが実証されているが、ここらへんは以前の記事で書いたので詳しくはそちらへ。

しかし、今回は「筋肥大目的の人がピリオダイゼーションをするべきかどうか?」を議論したいわけではない。

現在のピリオダイゼーションが筋肥大に優れていない理由として挙げられている批判の話をしたいのである。

筋肉大好きボディビルダーにピリオダイゼーションは必要か?

ピリオダイゼーションが筋肥大に有利とは言えないのが現状だが、その理由は「ボリュームを捨ててまで高強度トレーニングをする必要があるのか?」という一点に尽きる。

というのも、筋肥大は直接的に筋力を向上させるが、神経適応は間接的にしか筋肥大に関係しない。

  • 筋肥大→筋力向上
  • 筋力向上(→使用重量が増える→ボリュームが増える)→筋肥大

筋力に関しては、筋繊維の数が多い・太いほど、当然だが発揮できる力は増える。なので、筋肥大は筋力にとってかなり直接的な要因。

しかし、筋力向上が筋肥大に与える要因としては、使用重量が増えることによるボリューム増加である。

それなら「直接的にボリュームを増やしたほうが早いのでは?」ということになる。

要するに「ボリュームを捨てて高強度フェイズを入れるより、ずっとボリュームフェイズにしておくほうが筋肥大に有利なのでは?」という話である。

実際にボディビルやフィジークの世界では驚くほど”高強度トレーニング”は流行っていないし、パワーリフターのように”100%1レップス”のシングルトップをしているボディビルダーなど聞いたことがない。

じゃあ、やっぱり高強度トレーニングは不要なのかと言われると、そういうわけではない。

というのも、実は「ボリュームを犠牲にすることなく高強度トレーニングを取り入れる方法」が最近見つかったのである。

それどころか、高強度トレーニングによってノーコストでボリュームが上がるのである。

高強度ウォームアップでボリュームが上がる

結論を先に言うと、今回紹介したいのは「高強度トレーニングによるウォームアップ」である。

これはスポーツ科学の分野では昔から知られている現象で、英語で”Post-Activation Potentiation”と呼ばれている。

省略して”PAP(読み方はパップ)”と呼ばれ、日本語だとややぎこちないが”活性後増強効果”などと呼ばれている。

PAPとは「高強度の筋肉収縮を行うことで、その後の筋肉収縮の能力(ポテンシャル)が上昇すること」を言う。

具体的には、例えば高強度スクワットをしてから垂直跳びをすると、垂直跳びのパフォーマンスが向上するのである。(R

これまでは垂直跳びなどの私たちには何の関係もないような運動のパフォーマンス向上ばかりだった。

しかし、ここ2,3年で「PAPって筋トレにも使えるのでは?」という話が出てくるようになり、実際に実証され始めている。

このことを最初に検証したのは、2021年の「PAPは筋トレにも使えるのか?」を調べた研究。(R

被験者となったのは1年以上のトレーニング歴を持つ男性10人で、2つの条件で筋トレをしてもらった。

  • PAP:90%1RMのスクワットを2レップス1セット→5分休憩→70%1RMのスクワットを4セット
  • コントロール:70%1RMのスクワットを4セット

まず、コントロール条件は単にスクワットを4セット行っただけ。

一方で、PAP条件のときはウォームアップとして高強度スクワットを2レップ1セットだけ行い、その後5分間休んでからスクワットを4セット行った。

ちなみに、このときは90%1RMのスクワットをRPE8~9で行っている。要するに、1レップスくらい余力を残した高強度トレーニングである。

そして、その後のスクワットは限界まで追い込んだのだが、ただスクワットをしたときと比べて以下のよう結果に。

  • 1セット目にこなしたレップ数はPAPグループのほうが6レップス多かった!
    (PAP:22レップス vs コントロール:15.5レップス)
  • 2ー4セット目にこなしたレップ数は、どちらも10~14レップスと差がなかった!
  • 総レップ数はPAPグループのほうが多かった!(PAP:56.2レップス vs コントロール:48.8レップス)

高強度トレーニングでウォームアップしたことで1セット目のレップ数が6レップス上がった。

その後2~4セットはほとんど同じレップ数だったので、総ボリュームとしてはPAPのほうがおよそ6レップス増えたという結果に。

PAPは垂直跳びだけでなく筋トレにも通用し、高強度トレーニングによって筋トレのボリュームが上がることが実証されたのである。

ちなみに6レップと言うのはかなりのパフォーマンス向上で、1セット目で考えると29.5%でバカみたいにボリュームが向上している。

こうして晴れて「PAPが筋トレにも有用!」と言うことが実証された。なので、2021年には別の研究者も「PAPは筋トレに有効化?」を調査している。(R

被験者となったのはトレーニング経験のある男性14人で、今回も2つの条件に分けられた。

  • PAP:90%1RMのスクワットを3レップス1セット→10分休憩→75%1RMのベンチプレスを3セット
  • コントロール:75%1RMのベンチプレスを3セット

この研究ではエクササイズがスクワットからベンチプレスになっている。

この研究でもコントロールでは普通に3セットのべンチプレスをしただけ。一方で、PAPでは今回も高強度ベンチプレスでウォームアップしている。

種目以外の違いとしては、まず今回はレップスを3レップスまで増やしている。

RPEも9.5~10で、高強度ウォームアップでほぼ限界ギリギリまで追い込んでいることがわかる。

他には、その後の休憩時間が10分とやや長い。

その後ベンチプレスを限界まで追い込んでもらい、何もしなかったときとレップ数を比較したところ以下のような結果に。

ベンチプレスのレップ数とP値・効果量
ベンチプレスのレップ数とP値・効果量

今回の実験では、先ほどの実験ほど1セット目のレップ数が増えていない。

その代わりと言っては何だが、1セット目から3セット目まで軒並みPAP使用時のほうがパフォーマンスが高くてなっている。

3セット目は”統計的に差がある”の基準値とされているp=0.05にはギリギリ届いてないが、ぶっちゃけこの値ならPAPのほうが有利だったと解釈しても問題ない。

何はともあれ、総レップ数は明らかにPAP条件のほうが成績が良く、その効果量は0.50と中程度でまずまずといった感じ。

これらの2つの研究をまとめると、スクワットやベンチプレスなどの筋トレ種目でもPAPがボリュームを向上させるという結果になった。

しかも、やることと言えば90%1RMの高強度トレーニングを2-3レップスやるだけと超簡単。

大した時間もかからないので、相当時間に追われている人でない限りやる価値は十分にある。

ところがどっこい、PAPがうまくいかないときもある

皆さんの中には「本当に1-2レップスを1セットやるだけで効果が出るの?」と思うかもしれないが、むしろウォームアップの高強度トレーニングをやりすぎると逆効果になる可能性が高い。

と言うのも、2020年のPAP研究では「ベンチプレスにおいてPAPをしようがしまいがパフォーマンスは変わらなかった」と言う結果になったのだが、その原因はおそらくウォームアップを頑張りすぎたからである。(R

ベンチプレスにおけるPAPとコントロールのレップ数
ベンチプレスにおけるPAPとコントロールのレップ数

と言うのも、この研究ではPAPのプロトコルが「85%1RMで3レップスを3セット」だからである。今までは1セットしかやっていなかったものを、大胆に3セットにしたのである。

この値は、相対的ロードボリューム(セット数×レップ数×%1RM)で考えると、スクワット研究の3倍以上、ベンチプレス研究の2倍以上である。

なので、今回の研究でPAPの効果が実証されなかったのは、高強度ウォームアップをやりすぎたことによる”疲労によるマイナス効果”がPAPの効果を打ち消したと推測されている。

高強度ウォームアップは筋トレのボリュームを上げると言っても、高強度トレーニングをやればやるほどPAPの効果が高くなるわけではない。

たかが1セットで意味があるのか?と思うかもしれないが、むしろPAPを試すときは1セット以上やらないほうがいいのである。

PAPのメカニズム、高強度トレーニングは「やる/やらない」が重要

ここまでPAPを説明してきたが、こうなってくると当然気になるのがそのメカニズムである。

ぶっちゃけたところ、PAPに関してはメカニズムがわかっていない。

生理学的な説明では「高強度エクササイズによって筋肉の収縮に不可欠のカルシウムイオンの感受性が上がる」と言う人もいれば、心理学的要因として単に「重いものを挙げた後に軽い重量でセット数をすると楽に感じるから」と言う人もいる。

おそらく、これらの要因(と未知の要因が)複雑に絡み合っているのだろうが、ぶっちゃけ実際のところはよくわかっていない。

とはいえ、PAPはメリットこそあれデメリットは確認されておらず、高強度トレーニングを1セットやるだけと労力もかからない。

メカニズムは分からないからと言って切り捨てるにはあまりに勿体無い。

そして、高強度ウォームアップをオススメする理由はもう一つある。

と言うのも、実は取り入れるべき高強度トレーニングというのはおそらくこのPAPだけで十分なのである。

と言うのも、筋力に関しては”1セットやるかどうか”が大きな意味を持つのである。。

このことを示した2017年の「週あたりのボリュームと筋力の関係」を調べたメタ分析を紹介しよう。(R

セット数と筋力に関する9件の研究を抜き出したところ、週あたりのセット数と筋力の関係は以下のようになった。

比較対象として、左側に以前紹介した「週あたりのボリュームと筋肥大の関係」を調べたメタ分析も載せておく。(R

左:セット数と筋力 右:セット数と筋肥大
左:セット数と筋力 右:セット数と筋肥大

筋肥大に関しては、1-4セットが64%を占め、5-9セットで20%、10セット以上で16%...と「やればやるほど効果が出る」ことがわかっている。(効果は先細りになっていくが)

一方で、筋力となると1-4セットが81%もの効果を占めている。

要するに、別にセット数をたくさんこなしても効果が出るわけでもなく、1セットでもいいから「やるか/やらないか」が大きな差を生むのである。

つまるところ、週に1セットでもいいから高強度トレーニングをやれば筋力は十分上がる可能性が高い。

それならば、なおさら高強度の日を作りボリュームを犠牲にしてまで高強度トレーニングを取り入れる必要はない。

毎週のベンチプレスやスクワットのウォームアップとして”高強度トレーニング”を取り入れればいいのである。

そうすれば、高強度トレーニングを取り入れたことによる筋力向上効果はもちろんのこと、PAPによる筋力上昇効果も期待できる。

まさに一石二鳥で、筋肥大を目指している人にはこれ以上ない高強度トレーニングの取り入れ方なのである。

まとめ:実践的アドバイス

ということで、最後に高強度トレーニングとPAPについてまとめよう。

  • 高強度トレーニングは少ないセット数でも「やる/やらない」で筋力が大きく違う
  • PAPとして使う高強度ウォームアップは「90%1RMを2-3レップス1セット」行う
  • 2021年の研究では、PAPから筋トレに移るときの休憩時間としては「15秒~1分という短い時間ではなく、3~9分休んだほうが良い」という結果が出ている(R)。時間に追われていないなら5分が一つの目安。

筋トレに関するPAPの研究はまだ少なく、ぶっちゃけボリューム向上効果はおそらくある...としか言えないのが現状。

とはいえ、大した労力もなく筋力とボリュームを向上できるので筋肥大目的の人にもオススメしたい高強度トレーニングの実践法。ぜひお試しあれ!

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