「16時間断食を試してみたいが筋肉が落ちないか不安」
今まで筋トレを一生懸命にしてきたときが16時間断食を試すときに真っ先にぶち当たる問題だろう。
それもそのはず、長年筋トレの世界では「筋肉を大きくしたければ1日6回食べろ!」と言われたきた。
ということで今回の記事は「16時間断食で筋肉は落ちるのか?」を論文から徹底検証。
1日に何回もタンパク質を摂るとタンパク質合成シグナルが一日中高まりっぱなしになる。
しかしここには落とし穴があり、16時間断食でも筋肉は落ちないことが判明しているのだ。
「1日に何回もタンパク質を摂取することは筋肥大に有利」は本当なのか?
1日6回の食事をするとタンパク質合成スイッチが入りっぱなしになる!?
そもそもなぜボディビルダー達は「1日6回の食事をしろ!」と言うのだろうか。
実は彼らも適当に「1日何回も食事をしろ!」と言っているわけではない。
「1日3食よりも1日6食のほうが筋肥大に有利!」と言うだけのちゃんとした理論が存在する。
このことを実際に示したのが2013年の研究。(R)
被験者になったのは最低2年以上の筋トレ歴がある男性24人で、以下の3つのグループに分けられた。
- 1回40gのタンパク質を1日2回摂取する
- 1回20gのタンパク質を1日4回摂取する
- 1回10gのタンパク質を1日8回摂取する
どのグループも1日80gのプロテインを摂取したが、1回の量と摂取頻度を変えたのだ。

この研究の目的は「タンパク質を摂取する量と頻度を変えたときにタンパク質合成シグナル(=MPS)がどのように変わるのか?」を調べること。
実際に各グループのMPSを計測したところ以下のような結果になった。

下段:1日の合計MPS
筋トレ後もずっとタンパク質合成シグナルが高かったのは1日4食のグループで、1日の合計MPS量も他のグループよりも明らかに高かったのだ。
他の研究から少量のタンパク質ではMPSはあまり刺激されず、かと言って一度に大量にタンパク質を摂取してもMPSは大して刺激されないことがわかった。
結果としてMPSをMaxに刺激する1回20gのタンパク質を何回も摂って、MPSシグナルを1日中高まりっぱなしにする戦略が定着したのだ。
”タンパク質合成シグナル=筋肥大”ではない
「1日6食がタンパク質合成シグナルを最大化するなら、16時間断食は最悪の戦略では?」
2013年頃のエビデンストレーニーにはそう思われることだろう。
しかし、最近の研究で話はそう単純ではないことが分かってきている。
というのも筋トレ後のタンパク質合成シグナルはそもそも筋肥大と関係ないようなのだ。
タンパク質合成シグナルというのは、主に2つの条件で活性化する。
- 新しく筋肉を作るとき
- 筋肉を修復するとき
筋トレ後にタンパク質合成シグナルが活性化するのは単に傷ついた筋肉を修復しているから。
新しい筋肉が作られているわけではないのだ。
ここで「筋肉は修復されるときに筋肥大するのでは?」と思う人もいるかもしれないが、最近ではこの説も否定されている。
これ以上は16時間断食から話が逸れ過ぎてしまうので、詳しくは以下の記事を見てほしい。


要するに「筋肉を大きくしたければ1日6回食べろ!」の理論は、その大前提から大きく崩壊したのだ。
実際に1日3食と1日6食で同じくらい筋肥大した
理論的に崩壊した「筋肥大したければ1日6回食べろ!」だが、実際の研究でも効果がないことがわかっている。
2020年に早稲田大学が行った研究では、「1日3食と1日6食で筋トレの効果は変わるのか?」を調べられている。(R)
被験者となったのは大学のボートチームに所属する男性11人で、参加者の体脂肪率は12.4%とアスリート体型。
参加者は1日5200kcalほどの食事を摂っており、1日+1400kcalのオーバーカロリーだ。

タンパク質は体重あたり2.6gと十分な量で、糖質と脂質の量もグループ間で揃えられている。
またトレーニングに関しては週2回の筋トレもしている。
被験者には8週間にわたって”1日3食”または”1日6食”で過ごしてもらい、5週間の間を空けて次は逆の条件で8週間過ごしてもらった。
実験開始前後にDXAで体組成を測定したところ、以下のような結果になった。
- どちらのグループも体脂肪は同じくらい増えた!(3食/日:+1.2kg、6食/日:+1.3kg)
- どちらのグループも同じくらい筋肉が増えた!(3食/日:+1.2kg、6食/日:+1.3kg)
- 3人の被験者は1日3食で高い食欲を、4人の被験者は1日6食で高い食欲値を示した!残りの3人はどちらの条件でも同じ食欲値を示した!
結論は単純で、どちらの条件でも同じだけ筋肉(と脂肪)が増えることがわかった。
つまり1日3食以上に食事回数を増やしても、筋肥大効果は増加しなかったのである。
実は摂食回数を増やしても代謝が増えることもなければ、体型改善に効果もないというのが他の研究でも確かめられている。(R,R)
ちなみに食事回数を増やすと食欲が増える可能性がある。
実際に2015年の研究では、1日8食は1日3食に比べて食欲が高くなったと報告されている。(R)
ただし「摂食回数は食欲に影響しない!」という研究もあり、この研究の結果を見ても”個人の好み”が大きく影響すると思われる。(R)
それはさておき、1日6回の食事でずっとMPSを刺激し続けても筋肥大には影響がないことが判明したのである。
筋トレと16時間断食を組み合わせるとどうなるのか?
トレーニーが16時間断食をしたときの効果をまとめたメタ分析
「タンパク質を一日中摂り続けてタンパク質合成シグナルを一日中上げる」必要はないことがわかった。
それでは食事時間を制限する16時間断食と筋トレの相性はどうなのだろうか。
16時間断食の筋トレへの影響は2021年の「筋トレと16時間断食を組み合わせらどうなる?」というメタ分析にまとめられている。(R)
8件の「16時間断食vs普通の食事」を調べた研究から221人分のデータを抜き出したもので、結果は以下のようになった。

16時間断食グループのほうが脂肪が1.36kgと減っていると関わらず、筋肉は-0.27kgと統計的には変わらないという結果に。
ここで「それでも少しだけ筋肉が減っているじゃないか!」と思う人がいるかもしれない。
しかし個々の研究を見てみると、分析にかけられた研究のうち筋肉が落ちるという結果を示したものは1件だけ。
内容は男性8人を対象に16時間断食をさせたところ、筋肥大にも不利で筋トレのパフォーマンスが下がったというものだ。(R)
しかしながら、この研究では食事時間が4時間とかなり短く、コントロールグループが”1.4g/体重”のタンパク質を摂取しているのに対し、断食グループはタンパク質を”1.0g/体重”しか摂取していないなど不利なポイントが多くある。
この研究以外は筋肉が落ちるという結果にならなかったことからも、タンパク質を十分に摂って筋トレをしていれば16時間断食でも筋肉は減らないと言えるだろう。
そして16時間断食で脂肪が減っている原因だが、これは単純に摂取カロリーの減少によるもの。
というのも個々の研究を見ると、”16時間断食”を行ったグループのほうが総じてカロリー摂取量が少ない。
つまるところ、16時間断食をすると単純に”量が食べれなくなる”のである。
被験者に「食事量を減らせ!」と指示したわけではなく、無意識に被験者は食べる量が減ったのだ。
まとめると16時間断食と筋トレの組み合わせによって、自然と食べる量が減り筋肉はそのままに脂肪を減らせることがわかったのだ。
トレーニーに1年間にわたって"16時間断食”を行わせた研究
とはいえ、先ほどのメタ分析にも欠点がある。
それは16時間断食の長期的な影響がわからなかったことだ。
先ほどのメタ分析に組み込まれた研究もせいぜい4ヶ月程度。
年単位で16時間断食を試したときの影響は未知数だった。
しかし、2021年12月に(待望の?)「筋トレ者が16時間断食を1年間したらどうなるのか?」という研究が出てきた。(R)
被験者となったのは5年以上の筋トレ歴を持つ男性20人で、体脂肪率は12%前後と痩せている。
実験期間中、参加者を2つの食事パターンに分けた。
- 16時間断食:1PMに朝食、4PMにランチ、4-6PMのトレーニング30分後にプロテイン、8PMにディナー
- 従来の食事:8AMに朝食、1PMにランチ、4-6PMのトレーニング30分後にプロテイン、8PMにディナー
参加者には、食事量や構成は変えないように指示。
そしてどちらのグループも食事回数は3回で、筋トレ後には必ずプロテインは摂取してもらった。
被験者が実際に摂っていた1日の食事内容は以下。

筋トレ内容は最初の2ヶ月間は週3の筋トレをしてもらい、その後は各自に任せる形式。
(単に研究者が1年間も筋トレを監督するのが現実的ではないと思ったから)
ただ筋トレを行う時間帯だけ両グループともに指定されており、ディナー前の4PM-6PMになっている。
このように現実のトレーニーに近い条件で1年間過ごしてもらい、参加者の体組成やバイオマーカーを計測したところ以下のような結果に。
- 16時間断食グループは1年後の摂取カロリーが200kcal減っていたが、従来の食事法は変わらなかった!
- 16時間断食は1年後に脂肪が1.68kg減っており、筋肉も1.21kg減っていた!
- 16時間断食は2ヶ月後の値では脂肪が-0.8kg減っていたが、筋肉は+0.47kgと減っていなかった!
- 従来の食事法は1年後でも脂肪量は変わらなかった(+0.08kg)が、筋肉は2.03kg増えた!
- 16時間断食グループは1年後の上腕二頭筋と大腿四頭筋の断面積が減少したが、従来の食事法ではどちらも増加した!
- (16時間断食グループのバイオマーカーはレプチンとアディポネクチンなどが減少しており、テストステロンとIGF-1などが減っていた!)
なにやらごちゃごちゃと結果を書いたが、長期的結果を一言で言うなら以下の通り
- 16時間断食はダイエットに成功したが筋肉も減少した
- 従来の食事法はバルクアップに成功した(脂肪量は変わらなかった)
16時間断食を1年間試したところダイエット効果は見られたが、これは先ほどのメタ分析同様”摂取カロリーが減ったこと”が原因。
そして16時間断食のグループは、2ヶ月後こそ筋肉が減っていなかったが1年のスパンで見ると筋肉が減っていたことが報告されている。
ただしこれは16時間断食のせいというよりは、単にカロリー制限の状態が1年間続いていたことが原因だと考えられる。
ちなみに16時間断食でバイオマーカーも改善して健康になっているが、これも16時間断食の影響なのかカロリー制限の影響なのかは不明。
16時間断食でオートファジーがうんぬん...ではなく単に脂肪が減ったからバイオマーカーが改善した可能性がある。
結論として、現時点で16時間断食に言えることは3つ。
- 16時間断食を行うと、意図せずカロリー制限状態になる
- そしてカロリー制限の結果、脂肪が落ちる
- そしてカロリー制限の結果、筋肉も多少なりとも落ちる
バルクアップを最優先にしたいなら、年がら年中16時間断食をするのはデメリットがある。
16時間断食を取り入れるよりも、従来の食事法を取り入れればいいだろう。
もしダイエットをしているなら、16時間断食は強力な武器になる。
2,3ヶ月と短期的に16時間断食をしたからといって、たちまち筋肉が分解されるようなこともない。
16時間断食を取り入れることで無意識にカロリー制限状態にして、筋トレで筋量をキープすれば体型が改善する可能性は高いだろう。
16時間断食で筋肉を落とさないコツ
最後に16時間断食で筋肉をなるべく落とさないコツを紹介して終わりにしよう。
それは1日3食食べる場合でもタンパク質はなるべく均等に配分すること。
というのも「1日3食でもタンパク質を不均等にしたら筋肥大に不利だった!」という研究があるのだ。
このことを示したのが2020年に立命館大学が行った研究で、「タンパク質を均等に配分したら筋肥大効果が上がるのでは?」を調べたもの。(R)
以前に「タンパク質を均等に配分したグループのほうが1日のMPSが高かった!」という研究があったので、それを実際に確かめようとしたのである。
被験者となったのは筋トレ未経験の男性26人で、実験中に参加者は2つのグループに分けられた。
- タンパク質を朝23g、昼32g、夜32gと1日で均等に摂取
- タンパク質を朝8g、昼30g、夜55gと偏らせたグループ

グループ間のタンパク質量がやや違うのは気になるところだが許容範囲だろう。
摂取カロリーや糖質と脂質のバランスもほとんど同じに揃えられており、タンパク質の影響だけを調べられるようになっている。
筋トレの頻度は週3回で、12週間の実験前後にDXAで体組成を計測したところ以下のような結果に。
- タンパク質を均等に配分したほうがわずかに筋肉が増えた!(均等:2.5kg vs 偏り:1.8kg)
- タンパク質を均等に配分したほうが筋力がわずかに向上した!
タンパク質を均等に配分したほうが筋肉も増え筋力も向上するしたのだ。
「タンパク質を絶対に均等にしなきゃ筋肉にめちゃくちゃ不利!」というわけではないが、保険の意味でもタンパク質は3食均等に分けるのをおすすめする。
また1日2食まで食事回数を減らすのも、不均等に配分した場合と同様の結果をもたらす可能性がある。
こちらは本当に「筋肉が落ちる可能性があるかもね」程度の話なので、もし可能なら1日3食にするくらいでいいだろう。
まとめ:16時間断食で筋肉を落とさないために
今回は筋トレと16時間断食の効果についてまとめた。
16時間断食は筋トレと組み合わせることで、少なくとも短期的には脂肪だけを落とすことができる。
- 筋トレを週2回以上行う
- タンパク質を十分に摂取すること(1.6g/体重〜)
- タンパク質はなるべく均等に配分する
- 可能なら1日3食食べる
- 筋トレ後にプロテインを摂るのもおすすめ
ちなみに16時間断食は1食目にガッツリ食べるのも効果的な方法。
詳しくは以下の記事で紹介しているので知りたい人はこちらもチェックしてみてほしい。
