血流を止めると筋トレに効果的?血流制限の最適な使い方を論文で紹介

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ジムで筋トレ中にバンドで血流制限をしている人を見たことがあるだろうか?

めちゃくちゃざっくり言うと「血流を制限することでパンプする!筋肥大する!」というものだが、本当に効果があるのだろうか?

今回は、そんな血流制限に関する話。

血流制限はどんなメカニズムなのか?本当に筋肥大に効果的なのか?試すとしたらどうしたらいいのか?早速見ていこう。

目次

血流制限のメカニズムは代謝ストレス

そもそもなぜ筋トレで血流制限をするのか?主な目的としては静脈を止めて筋肉に代謝物を蓄積するためである。

静脈と動脈の構造
静脈と動脈の構造[1]

心臓から運ばれてきた血液は、動脈(Artery)を通して細胞に運ばれる。

一方で、細胞内からの老廃物などは静脈(Vein)を通って心臓に戻される。

このようにして細胞では常に栄養の供給と老廃物の排出が行われている。

このとき、静脈を塞ぐことによって老廃物の排出を抑えて、代謝ストレスを高めようとするのが血流制限である。

筋トレをすると有名どころの乳酸をはじめとして、多くの代謝物が筋細胞に蓄積する。

この代謝物が蓄積することを”代謝ストレス(metabolic stress)”と呼び、これは”機械的張力(mechanical tension)”と”筋ダメージ(muscle damega)”と並んで筋肥大の3大要因とされている。[2

静脈を止めれば代謝物が貯まるので、代謝ストレスが上がり筋肥大効果も高まる、という論理が成り立つのである。

実際に2012年の研究では血流制限で筋肉の代謝ストレスが上昇することが示されている。[3]

この実験は、12人の被験者を対象にして以下の4つの条件で3セットの筋トレをしてもらったもの。(インターバル1分)

  • 低強度(20%1RM)
  • 高強度(65%1RM)
  • 低強度(20%1RM)+血流制限(エクササイズ中のみ)
  • 低強度(20%1RM)+血流制限(インターバル込み)

ひとつのグループは一般的な高強度トレーニングで、残りはすべて低強度トレーニングとなっている。

血流制限では、このように低強度トレーニング(20~30%1RM)と組み合わせることが一般的なのでこのような条件分けになっている。

各条件における代謝物(ホスホクレアチン)を計測したところ以下のような結果に。

代謝ストレス(L:低強度 IBFR:エクササイズ中の血流制限 CBFR:インターバルも血流制限 H:高強度)
代謝ストレス(L:低強度 IBFR:エクササイズ中の血流制限 CBFR:インターバルも血流制限 H:高強度)

上の図はただの低強度トレーニングに対してどれくらい代謝ストレスが高いのかを示しているのだが、高強度トレーニングとずっと行う血流制限はどちらも低強度トレーニングに比べて2倍ほどの代謝ストレスを達成していることがわかる。

一方で、インターバル中に血流制限をやめてしまうと代謝物がその間に排出されてしまうので、低強度よりは高い代謝ストレスを与えることはできるが、高強度トレーニングやずっと行う血流制限ほどの代謝ストレスを達成することはできない。

要するに、血流制限をするならインターバル中もバンドは外さない方がよく、そうすれば低強度でも高強度トレーニングと同様の代謝ストレスを達成することができると示されたのである。

そして、実はメインである代謝ストレスの向上に加えて、血流制限には筋トレにメリットがあるとされているメカニズムが他にもいくつかある。[4]

  • 代謝ストレスの上昇
  • 筋繊維のリクルート率の上昇
  • 細胞の膨張
  • タンパク質合成の増加
  • 衛生細胞の増加

低強度トレーニングを血流制限と組み合わせると、ただの低強度トレーニングに比べて、モーターユニットのリクルート率が上がり、細胞の膨張によるストレスが増え、タンパク質合成が増加して衛生細胞の増加すら起こるのである。

これらのメカニズムもあって、血流制限は筋トレに効果的とされてきたのである。

血流制限は実際に効果があるのか?

血流制限は理論的には効果的かも知れないが、ヒトで実験してみたら実際は理論通りにならなかったという事例は腐る程ある。

それでは実際に血流制限は効果があるのだろうか?

この問題に関しては2013年にナイスな研究が行われている。[5]

被験者となったのは筋トレ歴が1年以上ある男性で、以下の2つの条件に分けた。

  • 4週間の血流制限トレーニング→4週間の高強度筋トレ
  • 4週間の高強度筋トレ→4週間の血流制限トレーニング

血流制限のときは30%1RMで30レップスの筋トレを3セット行い、高強度トレーニングのときは60%1RMで15レップスのトレーニングを3セット行ってもらった。

そして血流制限を4週間行ってから高強度トレーニングを4週間行うグループと、逆順で行うグループに分け、合計8週間の筋トレをしてもらった。

そして実験後に上腕二頭筋の厚さを計測したところ以下のような結果に。

上腕二頭筋の厚さ(BFR-HI:血流制限→高強度 HI-BFR:高強度→血流制限)
上腕二頭筋の厚さ(BFR-HI:血流制限→高強度 HI-BFR:高強度→血流制限)

どちらのグループも順調に筋肥大したのだが、筋肥大率は4週間時点でも8週間時点でも同じだった。

つまるところ、血流制限を組み合わせると低強度であっても高強度トレーニングと同じくらい筋肥大することができるのである。

血流制限は筋肥大に効果的?

血流制限を組み合わせることで、高強度トレーニングと同じくらい筋肥大する可能性があることがわかった。

こうなってくると気になるのが、血流制限の低強度トレーニングと高強度トレーニングを組み合わせた場合にどうなるのか?という話である。

ということで次に紹介するのが2014年に行われた研究。[6]

被験者となったのは大学フットボールチームの選手72人で、彼らを4つのグループに分けて全身の筋トレをしてもらった。

  • 従来の高強度トレーニング
  • 高強度トレーニング+20%1RMのベンチプレス&スクワット(1セット目30レップス、2セット目20レップス)
  • 高強度トレーニング+20%1RMのベンチプレス&スクワット(1セット目30レップス、2セット目20レップス+血流制限
  • 血流制限によるトレーニング(高強度のベンチプレスやスクワットなし)

あるグループは筋力向上を目的とした高強度トレーニングをしてもらい、他の1グループにはそこに低強度 のベンチプレスとスクワットを追加。

さらに、この低強度トレーニングの際に血流制限をしてもらったグループも追加する。

そして最後の1グループは高強度のスクワットとベンチプレスの代わりに血流制限つきの低強度レッグプレスとベンチプレスをおこなったグループ。

そして7週間後に筋肉の厚さと筋力を計測したところ以下のような結果に。

  • どのグループも腕が筋肥大したが、グループ間で差はなかった!
  • 大胸筋はどのグループも筋肥大しなかった!
  • どのグループも太ももが筋肥大したが、グループ間で差はなかった!
  • 血流制限を加えることでスクワットの1RMが向上した!(血流制限:+24.87kg、高強度:+13.64kg)
  • ベンチプレスの1RMの向上率は同じだった!(血流制限:+8.69kg 高強度:+7.12kg)

どのグループも腕と太ももが筋肥大した。その際、血流制限を組み合わせても追加の筋肥大効果は得られなかったのである。

しかも、この実験では血流制限グループは高強度グループの倍近いボリュームをこなしているにも関わらず、である。(血流制限:10,339kg 高強度:6,739kg)

一方で筋力を見てみると、スクワットの1RMは血流制限のセットを加えることで大幅に増加していることがわかる。しかし、ベンチプレスの1RMは増加していない。

他の研究として、2014年に行われた研究がある。[7]

被験者となったのはトレーニング経験者21人で、彼らを2つのグループに分けた。

  • 70%1RM以上の高強度トレーニングをするグループ
  • トレーニングの38%が70%1RM以上の高強度トレーニング、トレーニングの62%を血流制限ありの低強度トレーニングをするグループ(30%1RM)

一方のグループは従来の高強度トレーニングをする一方で、もう片方のグループは高強度トレーニングと血流制限を組み合わせている。

この条件で4週間の筋トレをしてもらったところ、どちらのグループもベンチプレスやレッグプレスの1RMが向上し、上腕二頭筋と太ももが筋肥大したが、どの値もグループ間では差がなかった。

これらの結果をふまえると、従来の高強度トレーニングに血流制限を加えると筋力は増えるかも知れないが、筋肥大にはプラスの影響はない、ということになる。

筋肥大に効果的な血流制限の方法を発見?

ところが、最近になって血流制限が筋肥大に効果的なことを示すエビデンスも登場してきた。

ということで、次に紹介するのが2018年の研究。[8]

被験者となったのはパワーリフターの男女19人で、この人たちに2つのグループに分かれてスクワットをしてもらった。

  • 従来の高強度トレーニングを6.5週間に行う
  • 従来の高強度トレーニングに1,3週間目だけ血流制限を追加する

片方のグループは高強度トレーニングを行い、もう一方のグループは1,3週間目だけ高強度トレーニングに加えて血流制限トレーニングを行うというもの。(30%1RMを15レップス3セット)

なぜ今回の実験では血流制限を1週間×2回という方法でやっているのかというと、それは血流制限による衛生細胞の増加が約8日間で頭打ちになるという証拠があるから。[9]

以前の記事でも紹介した通り、衛生細胞の増加は筋肥大にとって重要な役割を果たす。

血流制限の衛生細胞を増やす作用が8日間で頭打ちになるなら、連続で血流制限をするより1週間を2回に分けたほうが効果が高いのでは?という仮説を研究者は立てたのである。

そして6週間後に大腿四頭筋の厚さを計測したところ以下のような結果に。

筋肉厚さの変化(RF:大腿直筋 VL:外側広筋 VI :内側広筋 VM:中間広筋)
筋肉厚さの変化(RF:大腿直筋 VL:外側広筋 VI :内側広筋 VM:中間広筋)

これまでの実験とは違い、血流制限をしたグループのほうが大腿四頭筋のあらゆる部位において筋肥大している。

ちなみに、この実験では血流制限を取り入れた方が筋肥大に有利だった正確な理由は不明。

しかし、推測されてる理由はいくつかある。

まず一つ目は、先ほども紹介した通りプロトコルの違いによるものである。

血流制限をぶっ続けでやるよりも、間に休憩を入れた方が効果的だという可能性がある。

理由は先ほども言った通りで、そのほうが筋トレによる衛生細胞の増加を効果的に行える可能性があるからである。

もう一つは、被験者の違いである。

というのも、今回の実験では普段から高強度トレーニングを重点的に行っているだろう熟練のパワーリフターが被験者。

そのため、普段の高強度トレーニングとは全く違う刺激である「低強度の血流制限トレーニング」によって肥大したという説があるのだ。

とはいえ、そもそも「新しい刺激を加えると筋肥大する」というのは直感的には分からなくもないが、このことを示したエビデンスはない。

なので真偽のほどは不明である。

今までの研究をまとめると、血流制限が本当に筋肥大に効果があると自信を持って断言するためには今後の研究を待つしかない。

とはいえ、たまに1週間くらい追加で血流制限トレーニングを試してみるのは悪い選択肢ではないと言えるだろう。

議論の余地が残る血流制限だが、実はひとつだけオススメできるケースがあるので最後に紹介しておこう。

それがどんなケースかというと、”怪我をしたときのリハビリ”である。

2017年の血流制限の効果を調べたメタ分析では「血流制限はただの低強度トレーニングより筋力を向上させる」という結果になっているのだが、そこで研究者がおすすめしているのが”リハビリ時の血流制限トレーニング”である。[10]

怪我をしてしまったとき、高強度をあつかったトレーニングをすることは物理的に不可能。

どうしても低強度トレーニングをせざるを得ない、そんなときに血流制限を使うのである。

ただ単に低強度トレーニングをしているだけでは筋トレの効果はかなり落ちる。

そんなときに血流制限を加えれば高強度に劣らないレベルのトレーニングを持続することが可能になるのである。

まとめ:実践的アドバイス

今回は血流制限について紹介したので、最後に簡単なまとめをしておこう。

  • 血流制限を従来の高強度トレーニングに追加してもさらなる筋肥大が狙えるかはかなり怪しい
  • 血流制限を筋トレに組み込むなら、ぶっ続けよりは1週間くらいで区切るのがベター
  • どうしても低強度トレーニングをしなければいけないようなときは、血流制限はかなり有効
  • 血流制限を試すなら、インターバル中もバンドは外さないほうがいい

血流制限が効果的かどうかは議論の余地が残るところだが、筋トレの気分転換もかねて1週間くらい試してみるのは悪くない。

そのときは動脈を閉塞しないようにバンドをつけ(手が紫になったら動脈が塞がっている)、20~30%1RMで15~30レップスを行うのがいいだろう。ぜひお試しあれ!

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