筋トレに逆効果?効果的なストレッチの順番とやり方が論文で判明

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「運動前にはストレッチをして怪我を予防しよう!」

という考えが、世間では一般的である。

しかし、こんなにも常識になっているにも関わらず「運動前のストレッチに怪我予防効果がある」というエビデンスはほとんど無い。(R

そして、スポーツ界を少し離れてボディメイク界に目を向けると、むしろここ20年くらいで「筋トレ前にストレッチをするとパフォーマンスが下がる!」ということが常識になりつつある。

しかし、ストレッチも”良い/悪い”の二極化思考で考えるべきではない。

というのも、ストレッチにはメリットもデメリットもある。

そして、ストレッチのやり方にも”良い/悪い”があるのである。

ということで、今回の記事は”ストレッチ”に関する話。

そして、毎度のことだがこの記事はトレーニーを対象にしたもの。

つまり、ストレッチが筋トレに与える影響に関する記事。それでは早速みていこう。

目次

筋トレ前に静的ストレッチをするとパフォーマンスが下がる!

一口にストレッチと言うが、その種類は大きく分けて2つある。

  • 静的ストレッチ(Static Strech) :筋肉をゆっくり伸ばすストレッチ
  • 動的ストレッチ(Dynamic Strech) :体を動かすストレッチ

静的ストレッチとは、いわば多くの人が想像するであろうストレッチである。筋肉を数十秒間伸ばしっぱなしにするもの。

一方で、動的ストレッチとは体を動かすストレッチ。

エビデンスベースの筋トレ界隈では、超軽い重量or自重で10レップ1セットを5~7種目くらいサーキットで行い全身を温めるパターンが多い。

そして、筋トレのパフォーマンスを下げるとして悪名高いのは静的ストレッチのほうである。

実際に「筋トレ前に静的ストレッチをするとパフォーマンスが下がる」を示した研究として有名なのが2000年の論文。(R

被験者となったのは男女10人で、100秒間のストレッチ後1時間におよぶ筋力を測定したもの。その測定結果は以下の通り。

ストレッチによる筋力の変化(ストレッチ直後〜1時間後)
ストレッチによる筋力の変化(ストレッチ直後〜1時間後)

当たり前だが、ストレッチをしていない条件である白バーは1時間にわたり筋力が変化していない。

注目すべきはストレッチをした条件である黒バーである。

ストレッチ直後(POST)に筋力が下がり、その後少しずつ回復してはいるが、60分後も筋力は低下したままである。

つまるところ、筋トレ直前にストレッチをすると筋力が減る=パフォーマンスが低下することが示されたのである。

そして、ストレッチの弊害は筋力にとどまらない。

なんと、レップ数とボリュームに関してもマイナス効果があることが他の研究で確かめられている。

  • 2012年の研究では、ストレッチによってレップ数とボリュームがおよそ20%ほど低下した!(R
  • 2005年の研究では、ストレッチによってレップ数が28%低下した!(R

ストレッチにより筋トレで行えるレップ数が減るので、当然ボリュームが減る。

そして、言わずもがなボリュームは筋肥大に一番重要な指標なので、筋肥大にも不利であることは容易に想像できる。

筋トレ前にストレッチをすると、発揮できる筋力や筋トレのボリュームが下がる。

さらには、スプリントや垂直跳びでもパフォーマンスを下げることが判明している。(R

こういった理由から、ここ数十年で「筋トレ前のストレッチ=悪」というイメージがボディメイク界隈では定着した。

では、なぜ筋トレ前にストレッチをするとパフォーマンスが下がるのだろうか?

ストレッチが筋トレのパフォーマンスを下げる理由あれこれ

筋トレ前にストレッチをするとパフォーマンスが下がるメカニズムは、ぶっちゃけハッキリとは解明されていない。

しかし、それなりに納得のいく説明はいくつかある。

まず一つ目が、単純に”筋肉が柔らかくなること”が原因とする説。

というのも、ストレッチは筋肉を柔らかくしてしまうからである。

やや専門的にいうならば、筋肉硬さ(Muscle Stifiiness)が低下するのである。

なぜ筋肉硬さが低下すると筋トレのパフォーマンスが下がるのか?

それは筋トレで使える”反動(recoil)”の力が減少するからである。

筋肉が力を発揮するとき、主な力の発生源は”筋肉の収縮”である。

筋肉が収縮する仕組み

ミクロな見方をするならば、筋肉内にあるアクチンとミオシンという繊維が引き合うことによって生み出されている力である。

しかし、この”筋肉の収縮”だけが力を生み出しているのではない。もう一つ重要な力の発生源があり、それこそが筋肉がバネのように働いて生み出す反動の力である。

要するに、筋肉がバネのように働くというのは、伸ばされると収縮するような力が働くということである。

筋肉の反動

例えば、ベンチプレスを考えよう。

ベンチプレスをラックから外し、そのまま胸まで下ろす。

そして、胸についた瞬間に挙上するのが一般的なベンチプレスだろう。

このとき、バーが胸についた時点で筋肉は最大限伸びている。

なので、筋肉がバネだとするならば、当然バネが縮む方向...すなわち収縮する方向に力が働くのである。

このことを体感したければ、ギリギリ1レップスできる重量のベンチプレスをセーフティーバーから始めてみればいい。

バーを胸まで下ろしたときと違って反動が使えないので、おそらく普通のベンチプレスと同じ重量は扱えないはずである。

同様に、スクワットでもしゃがみ込んですぐに挙上するのと、しゃがんだ状態からバーを持ち上げるのでは扱える重量が違うことに気づくはずである。

百聞は一見にしかず、このことは実際に試してみれば、普段いかに反動を利用して筋トレをしているかがわかる。

では、筋肉がバネの働きをするというなら、筋肉が堅いのと柔らかいのではどちらのほうが伸ばしたときの反動が大きくなるだろうか?

それは、言わずもがな”堅い”バネである。

堅いバネと柔らかいバネの2つがあると想像してみてほしい。

堅いバネを引っ張ったとき、柔らかいバネを引っ張ったときより強力な力で戻ろうとするだろう。

つまるところ、静的ストレッチによって筋肉が柔らかくなると、バネとして生み出せる反動が少なくなり、ひいては筋トレのパフォーマンス低下につながるというわけである。

もう一つ、神経的な観点からの説明もある。(RR

この説明には”伸展反射(Stretch Reflex)”と呼ばれる現象が絡んでくる。

筋肉というのは、伸ばされた状態になると脊髄反射で無意識に収縮しようとする。

実は、これも筋トレの反動を生み出しているのである。

先ほどのベンチプレスで言えば、バーを胸まで下げたとき、大胸筋は最大限伸ばされた状態になっている。

こうなると伸展反射が起こり、筋肉は無意識に収縮しようとして力を生み出す。

実は、この筋肉の長さを検知しているのが筋紡錘にある”γ(ガンマ)ニューロン”というものなのだが、静的ストレッチによってこのγニューロンが損なわれ、その感受性が低下するのである。

つまるところ、静的ストレッチによって”伸展反射”が起きづらくなるのである。

となると、筋トレで使える反動も少なくなるので、ひいてはパフォーマンス低下につながるということである。

ちなみに、この伸展反射の低下はおよそ10分ほどしか続かない。

なので、この説明では筋トレの本当に直前に静的ストレッチをしたときのみパフォーマンスが下がることになる。

メカニズムはいろいろあって決着こそ未だ付いていないが、一言で片付けるなら「静的ストレッチをすると反動が使えない筋肉の状態になる」というのがパフォーマンス低下のメカニズムである。

筋トレ直後にストレッチをし続ける...長期的な変化は?

とはいえ、今まで見てきた研究は全て急性期研究(Acute Study)といわれるものである。

静的ストレッチ直後に筋力が低下することはわかったが、(ひねくれた見方をすれば)筋力向上が低下するとは限らないし、筋肥大を含めた長期的な筋トレの効果を損なうとは限らないのである。

ということで、次に紹介するのが2011年に行われた「静的ストレッチは筋力の向上を損なうか?」を調べた研究。(R

被験者となったのは80人の女性で、それぞれ4つのグループに分けられた。

  • 筋トレのみ
  • 静的ストレッチのみ
  • 筋トレ&静的ストレッチ
  • コントロール群(何もしない)

筋トレとしては、上半身・下半身あわせて8種目の全身トレーニングを3セット行うもの。

ストレッチとしては、やや不快感を感じるほどの静的ストレッチなのだが、1回15〜60秒のストレッチを4セット行っている。

筋トレとストレッチを両方したグループは、静的ストレッチの後に筋トレという順番。

4ヶ月にわたり筋トレやストレッチをさせて結果を集計したところ、筋トレのみのグループも筋トレ&ストレッチのグループも同様に筋力が向上したのである。

そして、その値はベンチプレス(筋トレのみ:+10kg、筋トレ&ストレッチ:+7.5kg)でレッグプレス(筋トレのみ:50kg、筋トレ&ストレッチ:+40kg)といった感じ。

(ちなみに、この研究ではストレッチと筋トレ&ストレッチでは同じくらい柔軟性が向上したことも報告されている。つまり、筋トレをしようがしまいがストレッチの効果も変わらなかったのである。)

つまるところ、この研究では筋トレと静的ストレッチを組み合わせても、筋トレの効果(とストレッチの効果)は損なわれなかったのである。

2015年にも、同じような実験デザインを用いて、今度は動的ストレッチについて調べられている。(R

被験者となったのはトレーニング経験のある女性で、結果としてはどのグループも筋力が向上。

しかし、やや不快感を感じるレベルの動的ストレッチ60秒3セットを筋トレの前か後に行うと、どちらの場合も筋力向上にやや不利だったという結果に。

筋トレをすると直後の筋力が下がるが、長期的な筋力向上という意味では「デメリットがある!」とは断言できない結果に終わったのである。

ストレッチをしたときの筋肥大への影響は?

このマガジンのコンセプトは見た目づくり。では肝心の筋肥大はどうなのだろうか?

ということで、2017年に「ストレッチの筋肥大への影響」を調べた研究が行われている。(R

被験者となったのはトレーニング未経験の男性9人で、被験者の足を2つの条件に分けて鍛えさせた。

  • 筋トレのみ
  • 静的ストレッチ→筋トレ

筋トレは片足レッグエクステンションを4セット行うというもの。

それに加えて、ストレッチをしたグループではレッグエクステンションの前に25秒のストレッチを2セット行っている。

ストレッチの強度としては、10段階のうち8から10の間。

つまり、結構な痛みを感じる強めのストレッチになる。

この状態で10週間にわたる筋トレをしてもらったところ、以下のような結果に。

  • 筋トレのみのほうが多くのボリュームをこなした!(筋トレ:1175.3kg vs ストレッチ:995.5kg)
  • 筋力はどちらも同じくらい向上した!(筋トレ:12.9% vs ストレッチ:12.7%)
  • 筋トレのみのほうが筋肥大した!(筋トレ:12.7% vs ストレッチ:7.4%)
  • ストレッチをしたグループだけが柔軟性が向上し、膝の可動域が広くなった!

結果としては、筋トレの前にストレッチをすると、セッションでこなせるボリュームが下がり、筋肥大にも不利という結果に。

つまるところ、筋肥大のほうでは、筋トレの前に静的ストレッチをすることによる長期的なデメリットが浮き彫りになったのである。

ところがどっこい、セット間のストレッチは筋肥大に有利

ここで話題を少し変えよう。

筋トレの前にストレッチをするのではなく、セット間にストレッチをしたらどうなのか?という話をしたい。

というのも、驚くことなかれ、筋トレのストレッチは筋肥大を促進するというエビデンスがあるのである。

そのことを示したのが2019年に行われた「セット間のストレッチは効果的か?」を調べた研究である。(R

被験者となったのはトレーニング男性29人で、2つのグループに分けられた。

  • 筋トレの:セット間で90秒休む
  • セット間ストレッチ:セット間で30秒ストレッチ→60秒休む

筋トレは週2回の頻度で、全身を鍛える6種目を8-12レップス×4セット行うというもの。

このとき、ストレッチグループはセット間の休憩90秒のうち、30秒をストレッチに費やしている。ちなみにストレッチの強度は痛みを感じない軽めのもの。

8週間の実験終了後、筋肉の厚さや筋力を測定したところ、以下のような結果に。

  • セット間にストレッチをしたほうが外側広筋が筋肥大した!
  • 他の指標であるベンチプレス1RM、レッグプレス1RM、二頭筋厚さ、三頭筋厚さ、大腿直筋の厚さにグループ間で差はなかった!
  • しかし、レッグプレス1RM、三頭筋厚さの効果量はストレッチをしたグループのほうが有利だった!

つまるところ、セット間にストレッチをしたほうがおおむね筋肥大と筋力向上に有利だったのである。

「なぜこんなことが起こるのか?」というと、はっきりとした理由は不明。

しかし、考えられる理由としては、ストレッチが筋肉に”余分な刺激”を与えている可能性がある。

というのも、実はストレッチも筋肥大を引き起こす”刺激”となりうるのである。

実際に、2017年の研究では、トレーニング未経験者にストレッチをさせたところ、ふくらはぎの筋肉が筋肥大したことが報告されている。(R

すなわち、ストレッチという余分な刺激があったグループのほうが、少し余分に筋肥大したと考えられるのである。

セット間のストレッチ効果を調べた研究は2022年にも行われている。(R

被験者となったのは、3年以上のトレーニング歴を持つ男性26人で、先ほどの研究と同様に2つのグループに分けられた。

  • 筋トレのみ:セット間で120秒休む
  • セット間ストレッチ:セット間で30秒ストレッチ→90秒休む

筋トレは1つの筋群に対して週2回、6~10セット行うもの。

ストレッチの強度は10段階でいう5で、これは痛みを感じる手前くらいの強度。

8週間の実験後に筋肥大と筋力などを計測したところ、結果はわかりやすいものだった。

どちらも同じくらい筋肥大したし筋力も向上したのだ。

ひらたく言えば、ストレッチはなんの影響も及ぼさなかったのである。

この研究の違いが何から生まれたかというと、おそらく被験者のトレーニング経験によるものだろう。

セット間にストレッチをするほうが有利となった先ほどの研究ではトレーニング未経験者が対象だが、今回の研究はトレーニング経験者が対象である。

トレーニング経験があり、筋肉が肥大している被験者であれば、ストレッチでは筋肥大を引き起こすのに十分な刺激となり得ないのである。

(実際に、ストレッチによる筋肥大が確認されたのもトレーニングをしていない被験者である。)

何はともあれ、セット間にストレッチをすることは、デメリットはなくメリットがあるかもしれないということになる。

一旦、ここまでの話を一言でまとめてみよう。

筋トレ前にストレッチをすると筋力や筋肥大に不利。
しかし、セット間にストレッチをすることは筋肥大に有利かもしれない。

…読者のみなさんもおそらくずっと不満だっただろう。

だって、この結論はなんとも不可解な結論だからである。

筋トレ前のストレッチが不利ならば、セット間にストレッチを行うことも当然不利なはずである。

ちょっと今まで説明した静的ストレッチの効果をまとめてみよう。

  • 筋肉を柔らかくする=反動の力が弱くなる
  • 筋肉の伸展反射が弱まる=反動の力が弱くなる
  • 筋肉に余分な刺激が与えられる=筋肥大を引き起こす可能性がある

…ここまでまとめてみても、やはり筋トレ直前とセット間でストレッチの効果が変わるのは明らかにおかしい。

さて、読者のみなさんはこの謎が解けるだろうか?

なぜ筋トレ前のストレッチは悪くて、セット間のストレッチは良いのか?

あまり勿体ぶっても仕方ないので、種明かしをしていこう。

ややひっかけのようだが、注目すべきは”筋トレ直前”か”セット間”かではない。

注目すべきはストレッチのボリュームと強度であり、これこそが謎を解く鍵である。

  • ストレッチのボリューム:ストレッチを行う時間
  • ストレッチの強度   :どれくらい痛みを感じるか?

結論を言ってしまうならば、強く痛みを感じるストレッチや長時間のストレッチを筋トレと組み合わせるとパフォーマンスを損なうのである。

実際に、2022年に「強度別のストレッチが筋トレに与える影響」が調べられている。(R

被験者となったのは6年ほどのトレーニング経験のある男性15人。その際、筋トレ前に2つの条件でストレッチを行わせた。

  • 軽めのストレッチを長時間行うグループ:10段階中5の強さで、40秒のストレッチを6セット
  • 強めのストレッチを短時間行うグループ:10段階中8.5の強さで、40秒のストレッチを3セット

軽めのストレッチは痛みを感じないレベルのものを合計240秒行うというもの。

一方で、強めのストレッチは痛みを感じるレベルで行うぶん、合計時間は120秒とやや短めに設定されている。

その後レッグエクステンションをさせたところ、高強度のストレッチをしたグループだけが筋力が低下したのである。(ちなみに可動域はどちらも向上した)

ストレッチ前後の筋力(黒:ストレッチ前 白:ストレッチ後)
ストレッチ前後の筋力(黒:ストレッチ前 白:ストレッチ後)

右側の痛みを感じるくらい強度の高いストレッチでは筋力が有意に低下したが、左側の軽めのストレッチでは有意差に届いていない。

実は、ストレッチのボリュームとでも言うべき時間についても、2016年の系統的レビューで同じような結論が得られている。(R

  • 静的ストレッチでパフォーマンスが3.7%低下する
  • >60秒の静的ストレッチはパフォーマンスを4.6%低下させる
  • <60秒の静的ストレッチはパフォーマンスを1.1%低下させる
  • 動的ストレッチはパフォーマンスを1.3%上昇させる

静的ストレッチではパフォーマンスが3.7%ほど低下するが、その有害性のエビデンスの多くが長時間のストレッチがもたらしたものなのである。

実際に、序盤に見た筋トレ直後のストレッチが悪影響を及ぼすとして有名な2000年の研究では、1セット100秒間にも及ぶストレッチというバカみたいな長さのストレッチである。

一方で、セット間を調べた研究はどちらも30秒のストレッチであり、強度も不快感を軽く感じるレベル(10段階中5)なので強度も高くない。

つまるところ、現実的に考えられるストレッチ...すなわち”痛みを感じないレベルで10~20秒間くらいのストレッチ”をした場合、筋トレのパフォーマンスを損なうことはないのである。

実際に、2021年にかなり現実的なレベルの”静的ストレッチ”の影響が調べられている。(R

被験者となったのはトレーニング経験のない男性45人で、3つのグループに分けられた。

  • 筋トレのみ:8~12レップス4セットのレッグカールを週2回
  • 静的ストレッチ&筋トレ:20秒の静的ストレッチを4回
  • 動的ストレッチ&筋トレ:20秒の動的ストレッチを4回

筋トレ前に静的or動的ストレッチをしてもらったのだが、その強度は痛みを感じる手前のレベルで(10段階中5)、時間も1回20秒を4セットで計80秒しか行っていない。

今までの”ストレッチ研究”に比べるとかなり軽いストレッチだが、現実的に静的ストレッチをするとしたらこんな程度だろう。

8週間におよぶ実験の後、筋力・筋肉厚さ・ボリュームなどを計測したところ、以下のような結果に。

  • どのグループも同じくらい筋肥大した!(筋トレ:+11.3% vs 静的ストレッチ:+13.2% vs 動的ストレッチ:+13.2%)
  • どのグループも同じくらい筋力が向上した!(筋トレ:+49.4% vs 静的ストレッチ:+48.3% vs 動的ストレッチ:+43.6%)
  • どのグループも同じくらいボリュームが増えた!(筋トレ:+17.2% vs 静的ストレッチ:+16.7% vs 動的ストレッチ:+17.9%)

結論としては単純なもので、ストレッチはパフォーマンスを下げることも上げることもなかったのである。

つまるところ、始めこそ悪影響があると騒がれていた静的ストレッチだが、最近ではその悪影響は現実的にそこまで大きくないのでは?といった結論になりつつあるのである。

要は、ストレッチも”良い/悪い”の二律背反ではなく、やり方次第なのである。

ちなみに、これは「有酸素運動は筋トレのパフォーマンスを下げる」という同時トレーニングと同じような歴史を辿っていることにお気づきだろうか。

と言うのも、この歴史的流れは、研究の性質上わりとあるあるな現象。

これは具体的に研究サイドの気持ちを考えてみればわかる。

例えば”有酸素運動orストレッチ:が筋トレに有害か?という仮説を検証する場合、実は(非現実的であっても)高容量の有酸素運動やストレッチを処方されることが多い。

理由は単純で、高容量のほうが結果が出やすいからである。

調べたいのは「現実的に”有酸素運動orストレッチ”が筋トレに有害か?」ではない。

「有酸素運動やストレッチが筋トレに有害になる可能性があるか?」である。

その場合、高容量の有酸素運動やストレッチで実験するほうが結果が出やすく、そうするのが合理的である。

実際に、有酸素運動で言えば1時間の筋トレ直後に1時間の有酸素運動を週6で行わせ、ストレッチであれば100秒という超ロングストレッチになるのである。

そして効果が実証され、そのうち”有酸素運動/ストレッチ”が筋トレに有害ということが常識になると、次は「どれくらい有酸素運動orストレッチをすると有害なのか」や「こうしたら有酸素運動orストレッチの有害性を回避できるのではないか」といった方向にシフトする。

こういった流れを辿ると「当初ヒステリックに騒いだが、よくよく調べたら現実的には気にするほどでもなかった」ということに事態になるのである。

そんな無駄話はさておき、ここで動的ストレッチの話も少ししておこう。

動的ストレッチに関しては、これまでの研究でもしれっといくつか出てきたが、結果はあまり一貫性があるものではない。

今まで見てきたように、有害or効果なしorパフォーマンス向上のいずれかを示した研究が混在しているのである。(RRR

理論としては、動的ストレッチでコア温度が上昇するでパフォーマンスが向上するなどと言われているが、いまいち実証されていない感が否めない。

実際に、動的ストレッチを行うことで筋トレに有利だったことを示した長期的な研究は(おそらく)存在しない。

さらには、2016年の系統的レビューでも動的ストレッチのパフォーマンス向上効果は1.1%である。

面倒さも考えると、絶対に取り入れよう!と言えるほどエビデンスがないのが現状である。

ということで、静的ストレッチに話を戻そう。

じゃあ、筋トレ後のストレッチはどうなの?

筋トレ直前に(激しい)静的ストレッチをすることはパフォーマンスを下げる。

そして、セット間の(軽めの)ストレッチは筋肉に余分な影響を与える可能性がある。

そうなってくると、最後はトレーニング後のストレッチはどうなのよ?という話になる。

ということで、紹介するのは2018年の「筋トレ後の静的ストレッチは効果があるか?」を調べた研究。(R

被験者となったのはトレーニング経験のある男性13人。

被験者たちは10回6セットのレッグプレスをしたあと、3通りの過ごし方をした。

  • 何もしない
  • 軽めのストレッチをする:10段階中3~4のレベル(程よく伸びているのを感じるくらい)
  • 強めのストレッチをする:10段階中7~8のレベル(やや痛いくらい)

筋トレ後に軽めのストレッチと強めのストレッチを30秒3回行ってもらった。その上で、24,48,72時間後の状態を調べたのである。

結果としては、軽いストレッチは筋力回復や筋肉の痛み軽減にささいな効果をもたらしたが、強いストレッチはむしろ有害、というもの。

なぜ強いストレッチをすると筋肉の回復に有害なのか?

それは、ストレッチは筋肉に余分な刺激を与えるし、筋肥大もさせる...という話に通ずるもの。

つまるところ、強いストレッチを行うと、言わずもがな筋肉痛や筋肉の損傷をもたらすのである。(R

いわば、静的ストレッチとはいわば”超低強度の筋トレ”とも言える。

有酸素運動でも同じような結論を出したが、筋トレ前後にやりすぎると有害になることも合わせて、まさに似たもの同士)

筋トレ後に強いストレッチを行うというのは、筋トレ後にさらに筋肉に追い討ちをかけるようなもの。回復には役立たないのである。

一方で、筋肉に損傷を与えない程度の軽いストレッチを30秒ほど行うだけなら、筋肉の回復に役立つ可能性がある。(メカニズムは不明)

もしストレッチをするなら、筋トレ後に軽く行う程度にするのがいいだろう。

まとめ

ストレッチが筋トレに及ぼす効果についていろいろ書いたので、最後にまとめ。

  • 筋トレの直前や直後に痛みを感じるレベルのストレッチはしないほうがいい
  • 静的ストレッチは軽め(痛みを感じる手前)で短時間(20秒ほど)なら、筋トレ後や朝晩などに行ってもパフォーマンスは下げない
  • 静的ストレッチは、柔軟性と可動域を向上させる
  • 動的ストレッチはエビデンス不足。もしかしたらパフォーマンスが向上する...かもしれない。

個人的な意見としては、特にストレッチが好きでなく、面倒に感じるならやらなくてもいいのでは?といった印象。

ただ、軽めのストレッチなら可動域向上などの恩恵が受けられるし、筋トレ直後に行えば回復が促進される可能性はあるので、そこまで苦ではないなら取り入れてみる価値はある。

もしストレッチが好きでも、筋トレ直前に強いストレッチをすることだけは避けておくのがベター。ぜひお試しあれ!

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