世界一有名なサプリ成分といっても過言ではない”カフェイン”。
これはフィットネス界隈でも同じで、「筋トレのパフォーマンスが上がる」「脂肪燃焼に効果的」などの謳い文句で販売されており、実際に使っている人も多いだろう。
今回はサプリを紹介するシリーズから”カフェイン”に関する話。
カフェインは筋トレやダイエットに効果的なのか、いつも通り論文を元に紹介していこう。
カフェインとは?
コーヒーなどに含まれているカフェインだが、実は体内にある”アデノシン”という物質と似た構造をしている。

構造が似ていることから、経口摂取したカフェインは、本来アデノシンがくっつくはずだった”アデノシン受容体”にくっつく。
そして、アデノシン受容体にカフェインがくっついていると、肝心のアデノシンがくっつけなくなる。
このように、カフェインにはアデノシンの働きを邪魔する”アデノシン拮抗剤”としての作用があるのだが、これこそがカフェインが効果を発揮するメカニズム。
アデノシンは細胞のエネルギー代謝や睡眠に大きく関連している。
よって、例えばカフェインが脳に到達し、脳におけるアデノシンの働きが邪魔されると「眠気が覚める、疲れが取れる、代謝が上がる」などの作用がおこる。[1]
このようなメカニズムから、一般的には眠気覚ましとして有名なカフェイン。
しかし、実はアデノシンが活躍しているのは脳だけではない。筋肉も同様なのである。
カフェインで筋トレのパフォーマンスが上がる
カフェインは、筋肉の細胞でもアデノシン拮抗剤として働く。
骨格筋の細胞でアデノシンの作用が邪魔されると、筋繊維のリクルート率が向上する。[2]
つまり、筋力の向上につながるのである。
一例として2017年のカフェインによる筋トレのパフォーマンスを調べた研究を紹介しよう。[3]
被験者となったのは筋トレ歴のある女性8人で、以下の3条件で筋トレをしてもらった。
- 何も摂取しない
- 体重あたり6mgのカフェインを摂取
- プラセボを摂取
この3条件で、プルダウン、ハックスクワット、ベンチプレスとレッグエクステンションを行ってもらった。
プルダウン、ハックスクワット、ベンチプレスでは1RM強度を、レッグエクステンションでは限界までのレップ数を測定したところ、以下のような結果に。
- ハックスクワットの筋力は、カフェインありのほうが12kg高かった!
- ベンチプレスの筋力は、カフェインありのほうが3kg高かった!
- レッグエクステンションの回数は、カフェインありのほうが7レップス多かった!
カフェインの摂取によりハックスクワットなどの筋力が向上し、レッグエクステンションでのレップ数も増加したのである。
カフェインは理論通り筋トレにも効果があったのだが、このことは他のメタ分析でも同様。
- 2018年のメタ分析では、カフェインの摂取によって上半身の筋力が向上することが報告された。[4]
- 2019年のメタ分析では、カフェインの摂取でおそらく筋力は向上するという結果になった。
- 2016年のメタ分析では、カフェインの摂取で筋力の向上はしないが、レップ数が増加するという結果になった。
これらのメタ分析から、筋力向上とレップ数の増加、ともに(小さいが)効果があると言えるだろう。
カフェインは筋トレに効果があるとわかった。
それではどんなタイミングでどれだけの量のカフェインを飲めばいいのだろうか?
カフェイン、摂取すべき量とタイミングは?
カフェインは筋トレに効果があるとして、それではどれくらいの量をどんなタイミングで飲めばいいのか?
この問題を解決するために、カフェインによる筋トレのパフォーマンス向上を調べた研究をいくつかまとめてみよう。[3,5,6,7]

カフェインによる筋力向上が見られた研究はどちらも同じ条件で、筋トレの60分前に6mg/kgのカフェインを摂取している。
一方で、カフェインの量がやや少ない5mg/kg以下である場合や、量も少なくタイミングも早い場合なども筋力は向上していない。
ちなみにいうと、低容量(2mg/kg)でも筋力が向上したという研究はある。[8]
実験では3mg/kgのカフェインもよく使われることから、本当に6mg/kgのカフェインでないと効果が出ないとは、正直言えない。
しかし、筋トレのパフォーマンスアップがアップする確率が最も高い条件、となると「6mg/kgのカフェインを1時間前に摂取する」ことになるだろう。
カフェインの筋トレへの効果には耐性ができる?
筋トレ前にカフェインを摂取すると、筋トレのパフォーマンスがあがる。
しかし、ここで一つ注意点がある。
それは、これらの研究がすべて”急性期研究”であること。
つまり、カフェインを摂取した直後に筋トレのパフォーマンスが上がることがわかったが、カフェインを摂取し続けた場合の、長期的な効果はわからないのである。
というのも、カフェインというのは「耐性がつく」と聞いたことがある人も多いだろう。
使い続けて効果が薄れてしまう可能性は存分にある。
実際に、2019年の研究では、3mg/kgカフェインの使用で有酸素運動(サイクリング)や無酸素運動(ウィンゲートテストと呼ばれるもの)のパフォーマンスが向上したが、その後徐々に耐性がつきパフォーマンス向上が鈍ったことが報告されている。[9]
それでは、実際にカフェインの筋トレパフォーマンス向上効果にも耐性がついてしまうのだろうか?
この問題について調べた研究が2021年の論文。[10]
被験者となったのは男女16人で、2つのグループに分かれてべンチプレスをしてもらった。
- ベンチプレスの前に3mg/kgのカフェインを摂取する
- ベンチプレスの前にプラセボを摂取する
ベンチプレスの前にカフェインとプラセボを摂取するグループでわけ、トレーニングはそれぞれ週3回。
4週間にわたってカフェインを摂取する/しないで筋トレをしてもらったところ、1RMの増加率は以下のような結果に。

どちらのグループも4週間の筋トレでベンチプレスの1RMが向上し、その程度はどちらも差がないという結果に。
ただし、カフェインを摂取すると、プラセボに比べて挙上速度が上昇したことが報告されている。
つまり、パワーが向上したのである。

左側の図では、実験後(●)が実験前(○)をわずかに上回っていることがわかる。
一方で、右側は●も○も一緒。
つまるところ、筋トレにおけるカフェインのパフォーマンス向上効果も耐性がついてしまい、4週間という長期的な筋トレの結果では、ほとんど差がないのである。
公平を期すと、カフェインの長期的研究は数があまりに少なく、現段階で明確な答えを出すことはできない。
とはいえ、カフェインが筋力向上に長期的に効果があるとしても、その効果は急性期研究から期待できるほど大きくはないと言えるだろう。
カフェインは食欲を抑えるけどダイエットには繋がらないワケ
カフェインの筋トレへの効果はわかったので、それではダイエットはどうだろうか。
冒頭でも話した通り、カフェインというのは眠気覚ましにも使われるくらなので、脳にも作用する。
そこで、フィットネス業界でカフェインのメリットとしてよく言われるのが”食欲抑制効果”である。
カフェインが脳に作用し食欲が減退するというのは理論的にもありそうだし、実際に2017年のレビュー論文では「カフェインを摂取して0.5~4時間のあいだ食欲が減退する」と言われている。
「それじゃあダイエットに効果的じゃん!」となるのは少し早い。
実はここにはちょっとした落とし穴がある。
このことを示したのが2018年の論文。[11]
被験者となったのは成人男女50人で、以下の3条件で朝食を摂取してもらった。
- 0mgのカフェインを摂取
- 1mg/kgのカフェインを摂取
- 3mg/kgのカフェインを摂取
カフェインの摂取量を変えてビュッフェ形式の朝食をとってもらい「カフェインは食欲を抑えるか?」を調べたところ、以下のような結果に。
- カフェインを1mg/kg摂取したグループは、プラセボや3mg/kgのカフェインより食事量が約10%少なかった!
- 24時間の食事量ではどのグループも差がなかった!
カフェインを1mg/kg摂取したグループは、プラセボグループよりもたしかに直後に食べた朝食の量が少なかった。(ちなみに3mg/kgより食欲が抑えられた理由は不明。)
しかし、1日の摂取エネルギー量は他のグループと変わらなかったのである。
つまるところ、カフェインを摂取した直後の朝食こそ食事量が減ったが、そのぶん他の昼食や夕食で食べすぎたのである。
カフェインの食欲抑制効果は一過性のもので、1日を通してみた食事摂取量でいえば効果がない。
ちなみに、脳に作用するという点で言えば、2013年の研究で、カフェインを摂取することで筋トレ時の疲労感(RPE)が低下したり、筋肉痛が軽減したことが報告されている。[12]
カフェインの脳への作用として、食欲低減効果は期待できないので、疲労感や筋肉痛目当てで使うのがいいだろう。
まとめ:実践的アドバイス
今回はカフェインについて紹介したので、最後に実践方法をまとめておこう。
- カフェインは筋トレのパフォーマンスを上げる。その場合、最も効果が出やすい方法は6mg/kgを1時間前に摂取すること
- カフェインのパフォーマンス向上効果には耐性ができる。
- カフェインの食欲抑制効果は、実質的に意味がない。
- カフェインは筋トレの疲労感を抑えたり、筋肉痛を和らげたりしてくれる
ちなみに、カフェインの”脂肪燃焼効果”を調べたメタ分析が2021年に出ているが、カフェインを飲んでも体重は減らないというのが結論。[13]
ごくわずかな代謝上昇効果や一過性の食欲抑制効果はあれど、長期的な体重減少にはつながらないのだ。
減らした分は他の部分で補われてしまう。
カフェインはダイエット目的ではなく、筋トレのパフォーマンス向上や疲労感の低減を期待して使うのがいいだろう。
ちなみに、このとき耐性ができないようにヘビーな筋トレの日だけ(例えば脚トレとか)カフェインの力を借りるのも吉。是非お試しあれ!