『有酸素運動をすると筋トレが無駄になる!』
こんな話を聞いたことがあるかもしれませんが、これは”同時トレーニング(=Concurrent Training)”と呼ばれるもので研究の世界ではよく知られた話です
同時トレーニングは、1980年に有酸素運動が筋トレの筋適応を邪魔する”干渉効果(Interference Effect)”が報告されたことが始まり。
しかし、この分野も例にもれず時代によって考えが二転三転しています
- 1980年:同時トレーニングによる干渉効果が見つかる
- 2012年:メタ分析によって同時トレーニングの干渉効果が決定的(?)になる
- ~2020年:干渉効果を防ぐ方法が見つかる
- 2024年:干渉効果は気にするほどでもなさげ←イマココ
2024年最新版の”同時トレーニング”についてお伝えします
「有酸素運動と無酸素運動は干渉し合うのか?」時代
同時トレーニングを発見した1980年の研究
事の始まりは1980年に行われた『筋トレ適応と有酸素適応は同時にできるの?』という研究。(R)
この当時に分かっていたことは2つあります
- 筋トレは筋肥大を引き起こすが、酸素運用能力はあげない
- 有酸素運動は酸素運用能力を上げる
そこで研究者は『筋トレと有酸素運動、両極端の適応って同時にできるのか?』と疑問を持ちました
要するに『マッチョなマラソンランナーは実現できるのか?』という話。
この疑問に答えるべく行われたのが1980年の研究で、筋トレと有酸素運動を同時に行わせてみたもの。
トレーニング未経験者23人を集め、3つのグループに分けた。
- 週5で筋トレをするグループ
- 週6で40分のサイクリングをするグループ
- 週5の筋トレと週6の有酸素運動を両方するグループ
研究者は被験者を『筋トレだけvs有酸素だけvs同時にトレーニング』に振り分けました
10週間後に筋力や筋肥大、有酸素運動能力について計測した。
まず筋肥大についての結果が下記。
- 筋トレだけのグループはベースラインより筋肥大した!(+2.3cm)
- 筋トレ&有酸素でも筋肥大した!(+1.7cm)
- 有酸素グループは筋肥大しなかった!(-0.1cm)
筋トレをしたグループは、有酸素運動をしていようと筋肥大しました
そして有酸素運動だけをしたグループは筋肥大しないという結果に。
次に筋力をあらわすスクワットの重量を測定した結果は以下のとおり。
筋トレだけのグループ(S)が線形に増加しているのに対して、筋トレ&有酸素(S+E)のグループは途中から筋力が低下していることがわかります。
ついでに有酸素運動の結果についても掲載しておく。
統計的には差はありませんが、有酸素運動でも同様に筋トレと組み合わせるとなんとなく有酸素運動だけよりも干渉しそうな感じになっています
結果を要約すると、有酸素運動と筋トレの適応はどうやら干渉しそうだということがわかったのである。
2012年「同時トレーニングの存在」を確定的にしたメタ分析
筋力はわかりやすい結果だけど、筋肥大とか有酸素運動能力の差は微妙だし...本当に干渉効果はあるの?
その疑問に答えたのが2012年のメタ分析です。
2012年のメタ分析で干渉効果が明確になる
一度"同時トレーニング"という概念が発見されると続々と後続の研究が出てくる。
そして知見がたまっていき、次に行われるのはメタ分析。
『同時トレーニング:有酸素運動と筋トレの干渉を調べるメタ分析』というそのまんますぎるメタ分析が2012年に満を辞して登場します
筋トレだけvs筋トレ+有酸素運動を比較した研究21件を抜き出したもの。
アウトカムは筋力/パワー/筋肥大のいずれかで、同時トレーニングの干渉効果を調べた
ちなみに、筋力(Strength)は単純に持ち上げられる重量で、パワー(Power)はそこにスピードの要素が加わったものです
例えば同じ100kgをベンチプレスできた場合は筋力は同じだが、爆発的に挙上したほうがパワーが大きいことになる。
まず全体の結果は下記の通り。
- *Significant difference at p < 0.05 from strength training.
- &Significant difference at p < 0.05 from endurance training.
顕著に阻害されたのがパワー。筋肥大と筋力は有意差なしになっています
他にもいくつかわかったことがある。
有酸素運動の時間を増やすほど筋トレへの適応が阻害される
有酸素の時間(ボリューム)が増えれば増えるほど筋トレ効果が阻害されるという発見である。
有酸素運動に費やす時間が増えるほど、筋トレの効果も阻害されるという用量依存性の関係が見つかったことになります
有酸素運動の"頻度"に関しても同様で、頻度が増えるほど筋トレ効果が阻害されるという結果に。
この指標は"時間"とほぼ同じなので、有酸素運動をやるほど筋トレ効果が阻害されると覚えておけばOKです
サイクリングよりもランニングのほうが筋トレ効果を阻害する
そしてもう一つ、サイクリングよりもランニングのほうが筋トレ効果を阻害する可能性が出てきました
*Significant difference at p < 0.05 from the running concurrent group.
有酸素運動の種類を分けて分析すると、ランニングに関しては有意に筋肥大を阻害するという結果になりました
同時トレーニングのメカニズムは?
そもそもなんで同時トレーニングなんてものが起こるの?
同時トレーニングの理論的説明には、細胞レベルの説明と組織レベルの説明があるのでそれらを説明していきます