『〇〇に依存する』
というのはよく聞く言葉だが、実際は私たちの体ではどんなことが起こっているのだろうか?
今回は、”アディクションサイエンス”という本から、依存症の原因をご紹介。
依存症が起きるとき、私たちの脳ではどんなことが起きているのだろうか?
依存は、衝動から始まり習慣化した状態
依存というのは、「何らかの使用を開始し、その物質の使用が習慣化した状態」のことを指す。
この依存症だが、タイプとしては大まかに”薬物中毒”と”行動依存症”に分けられる。
薬物中毒とはある特定の物質の使用をやめられない状態で、コカインやモルヒネなど違法薬物などがここに含まれる。
- アルコール
- ヘロインなどのオピオイド類
- ニコチン
- アンフェタミン
- コカイン
アルコールやタバコなど、一般的な依存症のイメージはこの薬物中毒だろう。そしてもう一つの依存症が”行動依存症”である。これは正式な依存症なのかどうかは未だに議論されているところだが、具体例としては以下のようなものがある。
- ギャンブル依存症
- インターネットゲーム依存症
- 買い物依存症
- 運動依存症
- 食べ物依存症
- セックス依存症
- テレビ依存症
- SNS依存症
この中でもギャンブルとインターネットゲームに関してはDSM-5という正式な病気として扱われている
そして買い物や運動などが続いていく。
というのも、買い物や食べ物、テレビなどどんなものでも少なからず”依存性”というものがあるのである。
しかし、これらの依存症の特徴は「辞めたくてもやめられない」ことにある。多大な時間を費やしていて辞めたいのにやめられない、それが行動依存症である。
依存症になるときに脳で起こっていること
やめたくてもやめられないのが依存症だが、実際には3ステップで脳が徐々に変わっている。今回はその概要を紹介しよう。
1.物質や行動によって、脳内の報酬系が刺激される
食べ物から麻薬まで、実に様々なものが多かれ少なかれ依存性があると言われる昨今だが、依存性のある物質には共通点がある。
それは脳内における”報酬系”と呼ばれる部分を刺激するということ。
もう少し具体的にいうと、その物質を使用したときに報酬系でドーパミンと呼ばれる脳内物質が放出され、私たちは快感を感じるのである。
この報酬系への刺激と快感こそが、依存性物質に絶対必要な条件なのだ。
2.使用していないときに不快感が生じるようになる
そんな依存性物質は、初めのうちは摂取によって快感を感じるだけで、これだけ聞くとそこまで害があるようには思えない。
依存性物質を摂取してすぐは快感を感じるが、しばらくすると報酬効果が薄くなり快感も弱まってくる。
そうなると、当然もう一度快感を感じるたいという欲求が芽生えてきて、再度依存性物資いつを摂取するようになる。
これを何度も何度も繰り返していくと、次第に快感を感じている状態がデフォルトになってくる。
つまり、快感を感じている状態が普通になり、今まで普通だった”快感を感じていない状態”が不快になってしまうのである。
これは離脱と呼ばれる状態で、脳が刺激されていることが当たり前になっており、依存性物質の使用をやめると過度な不快感に襲われる状態を指す。
例えば、常に何かを食べ続けている人であれば、満腹状態が普通になり、空腹がどうしようもなく不快で耐えられなくなってしまったりするのである。
3.環境に反応して行動が引き起こされるようになる
摂取を繰り返していくと、脳は次第に依存性物質そのものではなく、それを連想させるような環境刺激に反応するようになってしまう。
例えば、冷蔵庫の扉を見るだけでお腹が空いたり、金属のジャラジャラ音を聞くだけでパチンコがしたくてたまらなくなってしまうのである。
ここまでくると”環境刺激→欲求→使用→快感→・・・”とどんどんと連鎖的に反応するようになり、その依存性物資にハマっていくのである。
報酬に対する脳科学の3つの仮説
このようにして形成される”依存”だが、なぜ依存してしまう人がいるのだろうか?
依存にハマりやすい人には、以下のような特徴があるとされている。
脳の報酬感受性が低い
まず1つ目の原因は、報酬欠乏仮説と呼ばれるもの。
先ほども説明したように、依存性物質を摂取すると、脳の報酬系でドーパミンという物質が放出されることによって快感を感じる。
このときドーパミン神経の感受性が低いと、普通の量のドーパミンでは十分な報酬を感じることができず、普通の人より強い報酬刺激を求めるようになる。
例えば『肥満になりやすい人は、遺伝的に食事を摂取したときの報酬系のドーパミン感受性が低い』という説もある。
肥満の人は普通の人よりたくさん食べないと十分な報酬が得られないのである。
このように、脳のドーパミン感受性が低いと、一般的な人より多くその物質を摂取しないと同様の満足感が得られない。
そのために、依存しやすいのである。
理性が本能を抑えきれない
2つ目の原因は、抑制系の欠如仮説と呼ばれるもの。
簡単にいうと、依存症になりやすい人は理性が本能を押さえつける力が弱いとする仮説である。
例えば、ダイエット中にも関わらず、目の前に美味しそうなケーキが現れたとしよう。
このとき、本能を司る線条体は”食べたい”という主張する一方で、理性を司る前頭前野が”ダイエット中だから我慢しなきゃ”と主張する。
このとき、前頭前野による線条体の抑制が十分であれば「ダイエット中だから我慢しよう」となる。
しかし、この理性による抑制が不十分だと本能を抑え込むことができずに衝動的になってしまうのである。
これは前頭前野の発達が未熟な子供で考えてみるとわかりやすい。
なぜ子供は大人に比べて我慢ができずに衝動的な行動をとってしまいがちなのか?
それはひとえに前頭前野が脳の中で一番遅く発達する部分であり、子供時代は未熟な前頭前野では本能を抑えられないからである。
これと同じように前頭前野が本能を抑える能力が低い人は、つい衝動的に行動してしまいがちになるのである。
大量のドーパミンに刺激される
3つ目の仮説が、insentive salience仮説と呼ばれるもの。
これは、大量のドーパミン放出に曝さることによって、脳内ではドーパミンに対する感受性が上昇するという説。
すると、同じ量のドーパミンでも脳が強く刺激されるようになり、より強い行動への動機付けが誘導されるというのである。
まとめ
実際には、上に挙げたような仮説が複雑に絡んで依存症が形作られると言われている。
例えば、脳の報酬感受性が低く理性が弱い人は、依存性物質のはじめの一歩を踏み出す可能性が高いだろう。
そして、その依存性物質による大量のドーパミン放出にさらされることによって、insentive salience仮説が働き、どんどんと依存が習慣化していってしまうのかもしれない。
なんだか煮え切らない言い方に感じるかも知れないが、意外なことに依存症の原因というのは未だによくわかっていない。
これらの要因が複雑に絡み合っているだろうことは推測されているが、全容は未だに不明なのである。
ちなみに、依存しているときは少しだけやめようと思うよりすっぱりやめるほうがいいだろう。
先ほど話したように初めのうちは不快感を感じたり何だか落ち着かないかもしれないが、それを続けていくと徐々に楽になってくる。
アルコール依存症なんかの人でも、アルコールを減らすのはかなり難易度が高いので断酒する。初めは辛いがそれが一番手っ取り早い解決策になる。
どうにもならないような深刻な依存症の場合は諦めて専門家に相談するのがいいだろう。参考までにどうぞ!