「仕事に集中したいけど、朝ごはんは食べたほうがいいのだろうか?」と悩んでいないだろうか。
空腹のほうが眠くならないと主張する人もいれば、脳の栄養は糖質だから朝からしっかり食べるべきだという人もいる。
一体どちらの主張が正しいのだろうか。
今回は論文から、朝ご飯と集中力の話をご紹介。
実は空腹時のほうが覚醒度は上がるのは事実だが、朝ごはんを食べたほうが集中力が上がるとする研究が多いのだ。
朝ご飯を食べる子供のほうが集中力が高い
理論的に考えれば、朝食は脳の集中力を高める可能性が高いといえる。
というのも、脳の主な栄養源はグルコースだから。
睡眠明けで低血糖な朝に糖質を摂取するのは、脳を働かせるうえで重要に思える。
それでは、実際の研究はどうなっているだろうか?
ということで、まず紹介するのは2013年の研究。(R)
「朝食は子供たちの行動や学業成績にどのような影響を与えるのか?」を調べた研究で、朝食と生徒たちの行動に関する研究36件を抜き出した。
朝食を摂ったかどうかで、生徒たちのオンタスク行動や学業成績について調べたところ、結果は以下のようになった。
- 教室での行動を調べた研究11件のうち、7件が朝食を摂ることでオンタスク行動が増えたことを報告した!
- 教室での行動を調べた研究11件のうち、1件が朝食にマイナスな結果を、3件は朝食はオン託す行動に影響しないという結果を報告した!
- 学業成績について調べた研究22件のうち、21件の研究で朝食が成績にプラスの影響を与えることが報告された!
ほとんどの研究において、朝食を食べたグループのほうがオンタスク行動が増加し、実際に学校での成績が向上したのだ。
例えば2008年の研究では、総エネルギー量の25%以上、かつ乳製品・シリアル・果物・脂肪の4品目を含む朝食を食べている生徒は、朝食なしやエネルギー量が少なかったり品目が少なかったりする朝食を食べている生徒よりも、成績が高かったことが報告されている。(R)
一方で朝食の悪影響を報告した研究はほとんどなく、せいぜい朝食はオンタスク行動や学業成績に影響を与えないといった程度。
しかも、観察研究によって朝食を摂っている子供のほうがオンタスク行動が多く成績が良かったことが判明しただけではない。
介入研究によって、朝食を摂ることで実際にオンタスク行動が増えて成績が向上したことも報告されている。
子供を対象にした介入研究7件のうち6件が、朝食が生徒の学力成績にプラスの効果を発揮したことが報告されたのだ。
ちなみに、これらの研究は”栄養不足”の子供を対象にしている場合も多い。
つまり、朝食を摂取したことよりも、栄養不足が解消されて成績が向上した可能性もなくはない。
厳密にいえば、健康な人が朝食を摂ったときに、同じようにパフォーマンスが向上するかどうかはわからないのだ。
しかし、健康な人であっても、朝食を摂ることはプラスの効果はあれど、マイナスの効果はないと言えるだろう。
空腹の方が覚醒度が上がる?
とはいえ、ここで「空腹のほうが集中力が上がる」という話を聞いたことがあるし、自身の経験からもそう感じる、という人もいるだろう。
実際に、空腹のときは覚醒度が上がることが分かっている。
もう少し詳しく言うと、空腹のときには覚醒度に影響を与えるオレキシンというホルモンが分泌される。(R)
オレキシンによって眠気が吹き飛ぶので、巷では空腹のときには集中力が上がると言われているのだろう。
なぜこのような曖昧な言い方をするかというと、実際に空腹時にパフォーマンスが向上することを示した研究が(私の知る限りでは)皆無だから。
ひねくれた見方をすれば、覚醒度が高いからと言って、集中力が上がるとは限らないのだ。
というのも、空腹時には確かに覚醒度が高いが、注意は散漫になりやすいから。。
人間の注意力というのは、生存の優先度が高い順に振り分けられることが知られている。(R)
私たちの中で、最も優先順位が高い行動とは何だろうか。
それはズバリ、食べることである。
生命維持に食事は必要不可欠。どんなことよりも優先される事項なのだ。
つまり、空腹だと眠くはならないものの、食事に注意が取られてしまう可能性が高いのだ。
「何を食べようか」「お腹が空いた」ということに気がとられ、優先順位の低いデスクワークには集中できなくなる。
さらに悪いことに、ヒトは空腹になると無気力になることもわかっている。(R)
空腹だと目が覚めるのは事実だが、空腹になりすぎても無気力感にさいなまれる。
さらには食事に注意が取られる可能性も高く、作業に集中できるとは限らないだろう。
朝ご飯の質も大事
それではとりあえず朝ごはんを食べればいいのか、というとそういうわけでもない。
実は朝ごはんを食べるかどうかよりも、どんな朝ご飯を食べるかどうかのほうがよほど重要なことが最近の研究でわかっている。
ということで2018年の「朝食を食べるかどうかよりも朝食の質が重要なのでは?」を調べた研究を紹介しよう。(R)
被験者となったのは青年527人で、彼らにアンケートでどんな朝食を摂取しているかをアンケートした。
- 非常に質が悪い朝食:パン/シリアル、乳製品=×、お菓子=○
- 質が悪い朝食:パン/シリアル、乳製品=○、お菓子=○
- 質がいい朝食:パン/シリアル、乳製品=○、お菓子=×
お菓子だけの食事は非常に質が悪い食事、そこに乳製品が加われば質が悪い食事とした。
一方で、パンまたはシリアルと乳製品を朝食に食べる一方で。お菓子を食べていなければ質のいい食事と判断した。
このような条件で朝食の質と被験者のストレス・QOL・うつ傾向・ウェルビーイングについて調べたところ、結果は以下のようになった。
- QOLは朝食抜きよりも朝食を食べたほうが高かった!
- 質がいい朝食のほうが、質が悪い朝食や非常に質が悪い朝食よりもストレスやうつ傾向が低かった!
- 質が非常に悪い朝食を食べるより、朝食を食べないほうがQOLが高く、ストレスとうつ傾向が低かった!
- 質が悪い食事を食べるより、朝食を食べないほうがウェルビーイングが高くストレスが低かった!
質のいい朝食を摂取した人は、QOLが高く、ストレスが低く、うつ傾向もあまり見られなかった。
このような結果となったのは、糖質とタンパク質の摂取がプラスに働いたからだろう。
まず、睡眠中の断食明けに炭水化物を摂取するとストレスホルモンであるコルチゾールが抑えられる。
さらには、牛乳を含む動物性たんぱく質には、幸せホルモンであるセロトニンの前駆体であるトリプトファンが多く含まれている。
そして、トリプトファンが脳内に入るためには、糖質の摂取によるインスリンの放出が必要なことも知られている。
つまり、朝食で糖質とタンパク質が含まれた食事を食べると、コルチゾールが抑えられセロトニンが増える。
そのため、質のいい朝食を食べた被験者はQOLが上がり、ストレス値も低かったというのだ。
一方で、お菓子を朝食に食べるくらいなら、朝食を食べないほうがストレスを感じず、QOLも高いという結果になっている。
この結果は砂糖の摂りすぎが原因だろう、と研究者は指摘している。
というのも、例えば2002年の研究では、砂糖を摂取している人ほどうつ病になりやすい傾向があることが報告されている。(R)
朝食を摂ることがプラスなことを報告した研究が多いからと言って、ただ朝食を食べればいいわけではない。
脳にいい朝食を摂りたければ、砂糖があまり含まれておらず、糖質と動物性たんぱく質が含まれた質のいい食事を摂取するのがいいだろう。
朝食についてのまとめ
全体として、朝食は食べるほうがパフォーマンスにはいい、という研究結果が多い。
とはいえ、朝食を食べさえすれば良いというわけではなく、以下の2点に気を付けなければならない。
- 脳の栄養となる炭水化物を含む食事
- 肉・魚・卵・乳製品など、トリプトファンを含む動物性タンパク質もとる
どうしても午前中に眠くなるのが嫌という人は、空腹にすることで眠気を飛ばす事もできる。
しかし、空腹すぎると無気力感に襲われるうえに、食べ物にばかり注意がいく可能性が高い。
覚醒度が高いからと言って、集中力が上がるとは限らないことには注意しよう。
ちなみに、朝食といえばダイエット効果はどうなのだろうか、と思っている人もいるかもしれない。
というのも、朝食は夕食よりも代謝を上げる作用があることが知られている。
一方で、最近流行りの(朝食を抜くことが多い)16時間断食も、体重を落とす効果があることが知られている。
朝食とダイエットの関係については以前の記事に詳しくまとめたので、そちらを見てほしい。
集中力という観点では、糖質と動物性たんぱく質を含んだ質のいい朝食は食べるほうが良さげ。参考までにどうぞ!