何千ものスキンケア製品がある中で、臨床医や消費者はマーケティングの誇大広告と信頼できる情報を見分けるのが難しいと感じている。
これはある論文に書かれていることをそのまま引用したものである。
うーん、とても分かりみが深い…
もし年収1億円なら片っ端から化粧品を試してみてもいいかもしれないが、私を含めほとんどの人は無駄なお金を使う余裕はない。
できることなら効果の大きいものから金をかけたい。
ということで今回は『長年の研究に基づいてスキンケアを構造化したぞ!』という論文をご紹介。
あらためてスキンケアの基本理論を抑え、今回の記事では「どこから金をかけるべきか?」を考えてみよう。
スキンケアの超基本とは?
と言うことで今回紹介するのは『臨床的証拠に基づいてスキンケア外用剤をピラミッド構造にしたぞ!』という2014年と2021年の論文。(R,R)
この論文は主に皮膚科医に向けて書かれたものだが、その目的は3つ。
- 患者に光老化による肌への健康の悪影響を理解してもらう
- 患者が適切な化粧品を選べるように化粧品カテゴリーを階層化する
- 必要なスキンケアを損なうことなく、患者が必要に応じてスキンケアを補ったり減らしたりできるようにする
つまるところ『患者がスキンケア迷子にならないようにピラミッド構造にしたぞ!』というもの。
まずは早速そのピラミッドを見てみよう。
一番下のベースがスキンケアの基礎となる土台。
「毎日欠かせないスキンケア」で防御(プロテクション)である。これの代表例は日焼け止めである。
そして2番目のミドル層は「必要かもしれないスキンケア」で、皮膚のリニューアルである。
角質の除去やターンオーバーを含んでおり、重要性の高さが認知されている”保湿”もこの部分にぶち込まれている。
そして、トップはベースとミドルが満たしたとき、「試してみようかな」で加えてみるもの。
具体例としてはペプチドや成長因子などが含まれている。
ということでまずは毎日欠かさず行うべき”ベース”から見ていこう。
スキンケアのベース層「毎日欠かせないスキンケア」
以前の記事でも書いたが、スキンケアの基本となるのはなんといっても防御である。
というのも、紫外線を代表とするストレスが作り出すフリーラジカルが引き起こす”光老化”が一番の問題だから。
紫外線が私たちの環境における圧倒的な酸化ストレスの原因であることは明らかであり、強力なSPFなしにこのストレスに対抗できる防衛戦は存在しない。(中略)
そして「スキンケア外用剤の究極の目的はDNAの損傷を防ぎ、DNAの健康と生命力を維持すること」としながら、そのコンセプトをわかりやすい図にしてくれている。
まず、一番右側から紫外線を代表とする”ストレス”がやってくる。それらを日焼け止めによる防衛線で防ぐのが、まず何より重要な第一ステップ。
そして、2つ目の防衛線が”抗酸化剤”である。
日焼け止めを使ってもフリーラジカルの生成が完全にゼロになるわけではない。
なので、フリーラジカルが肌に到達する前に抗酸化剤で除去する。
そして3つ目のステップがDNAの修復である。
それでもめでたく肌に到達したフリーラジカルはDNAを傷つける。
その傷ついたDNAを修復するのが最後の防衛線になる。
このように”保護と修復”が何よりも重要な毎日欠かせないスキンケアとなる。研究者の言葉を引用しよう。
肌の健康と美しさの向上に関心のある人は、日光や環境ストレスに対して日常的に保護と修復を行うライフスタイルを生涯約束しなければならない。そうでなければ、肌の健康と外見を向上させるための全てのステップはダメージによって無駄になってしまう。
スキンケアのベースとなるコンセプトである保護と修復。では実際に何をするべきか?という話になる。
ベースのスキンケア①日焼け止め
まず、何より日焼け止めが重要。ストレスが多くあるといっても、一番肌に害を及ぼすのは圧倒的に”紫外線”である。
この論文で書かれている日焼け止めの効用と使い方は以前の記事と同じである。一言でおさらいしておく。
UVAやUVBだけでなく可視光やブルーライトが肌に悪影響があることが最近判明している。
なので二酸化チタンなどの日焼け止めが好ましい!
ただ、日焼け止めだけでは万全ではない。
例えば、日焼け止めはSPF45で紫外線を98%防いでくれる。かなりの数字だが、決して100%ではない。
そして、タバコの煙や大気汚染によるフリーラジカルは日焼け止めでは防げない。
ということで、日焼け止めで防げなかったフリーラジカルに対する防御が次のステップになる。
ベースのスキンケア②抗酸化物質
活性酸素を除去するのは、文字通り『抗酸化物質』の役割である。
日焼け止めは全ての紫外線を遮断できない。そして大気汚染や赤外線を遮断できない。これらによって発生する有害なフリーラジカルを除去するための「後方支援」の役割を果たすのが外用/経口摂取の抗酸化剤である。
ここで具体的に名前が挙げられているのはビタミンCやハイドロキノン。
ビタミンCを12週間局所的に使用したところ、目に見える有意なシワの改善をもたらしたことが報告されている。抗酸化物質であるハイドロキノンは、色素沈着の治療において現在のゴールドスタンダードである。
抗酸化物質でフリーラジカルによるシワや色素沈着が改善することがわかっているのである。
このように日焼け止めと抗酸化物質で万全な”防御”を作ることが大事。とはいえ、活性酸素は完全にゼロにはできない。
”スキンケア”より重要なスキンケア
ということで、最後に出てくるのがDNA修復である。
活性酸素によるDNAの損傷は日焼け止めと抗酸化剤によって最小限に抑えられる。しかし、日焼け止めも抗酸化剤も、傷ついたDNAを修復することはできない。
この論文では”ニコチンアミド”などのDNA修復酵素についても書かれている。
しかし、DNA修復とは人間が自然に持っているプロセス。まずはそれをきちんと働かせることが何より重要。
具体的に何が必要かというと「十分な睡眠と栄養」ことである。
バカみたいな話だが、改めて「スキンケア外用剤」以外のスキンケアを入れたピラミッドが以下になる。
ベースの部分に重視すべき項目として”栄養と睡眠不足を避ける”が挙げられている。
DNAを修復するために大事なステップ、それは何より「栄養を十分に摂ってよく寝ること」である。
野菜やフルーツを食べることは、抗酸化物質の経口摂取にもつながる
それと日焼け止めがベースに位置するという、なんともシンプルな結論である。
スキンケアのミドル層「必要かもしれないスキンケア」
「必要かもしれないスキンケア」と位置付けれらているミドル層で、一番重要とされているのが”保湿剤”。
多くの化粧品における基本的な作用機序は、皮膚の水分量を高め脱水症状による小じわを減らすことである。よって、保湿はピラミッド中央部の基本となる。
同じ著者の他の論文と併せ、保湿に関する実践的なアドバイスは2つ。(R)
- 肌から水分が失われるのを99%防ぐ物質がある。それはペトロラタム、いわゆる”ワセリン”である。これが最強の保湿剤。
- 40%以上の低湿度では水分が空中に失われ続ける。よって、部屋の湿度にも注意を払う必要がある。
そしてピラミッド中央部で言及されているのが”AHA(アルファヒドロキシ酸)”と”レチノイド”である。
1980年代に発売されたこの2つの成分は、時の試練に耐え、数々の臨床試験を経て安全で効果的な成分であることが証明されており、医師による一般的な皮膚疾患の治療に使用されている。
まず1つ目がAHA。AHAは主に保湿と角質の除去という2つの側面を持っている。
AHAの保湿メカニズムはちょっとユニークで、他の保湿剤みたいに肌から出ていく水分を遮断するわけではない。
なんと、AHAを塗布すると表皮と真皮でヒアルロン酸が増えるのである。
そして、ヒアルロン酸は何千倍という分子量の水分と結合するので、結果として肌の水分量が増える。
さらには、AHAには角質除去効果がある。
角質除去と保湿をすることで肌の見た目を目に見えて変えることができる。
角質除去と保湿の組み合わせは、肌表面を滑らかにし肌の質感を向上させるのに非常に効果的である。患者はそれを輝きと明るさの向上として実感する。
ただし、ここで注意しなければいけないのは角質を除去しすぎるのも問題ということ。
積極的に角質を除去しすぎると、皮膚のバリアーが破壊され、水分量が減少する。この2つの活動は互いにバランスをとる必要がある。
2つ目が”レチノイド”である。
肌のターンオーバを活発にさせることで有名で、表皮が厚くなり、加齢による沈着も改善されることが知られている。
しかし、効果が強いぶん、病院で処方してもらわないと手に入らない。
AHAとレチノイドの組み合わせほど肌の健康と美しさに影響を与える技術は、この2つが皮膚科学の分野に登場してから30年経過した今でも存在していない。
”AHA"と”レチノイド”を両方使うと効果的だと言っており、その概念図がこちら。
一番左の光老化した肌が、真ん中のAHAで光老化は改善し、一番右側のAHAとレチノイどの組み合わせで見事に若々しくなっている。
ちなみに、(個人的な体験談でもあるが)このレチノイド&AHAは効果があるぶん、恐ろしく肌が剥ける。
試す場合は1ヶ月くらいは赤みや肌がボロボロになることは覚悟したほうがいい。
毎日行うのは保湿と、何か外用剤を使いたいという人は「AHA&レチノイド」を試してみるといいかもしれない。
スキンケアのトップ層「試してみようかな」
ピラミッドのベースが「毎日欠かせないスキンケア」でミドルが「必要かもしれないスキンケア」。
そして、トップは「試してみたいなら」のオマケになる。
ピラミッドのベースとミドルが満たされた後、患者はピラミッドのトップにある「あったらいいかも」と思う成分や機能を追加することができる。
ここに属するのはペプチドや成長因子、幹細胞など。
これらは「細胞に何かしらの変化を起こすかも!」として研究されているが、現状では効果がはっきりしない模様。
化粧品用ペプチドは新しい技術であり、皮膚機能を調節することが期待されている。しかし、その詳細はまだ解明されていない。
これらの中に興味があるものがあれば試してみてもいいかもしれない。しかし、現状では「使ったほうがいい!」というものはないと言えそう。
まとめ
駆け足でスキンケアを見てきたが、いかがだっただろうか?最後にざっとまとめてみる。
- ベース層:日焼け止め、抗酸化剤(ビタミンCなど)、十分な栄養と睡眠
- ミドル層:保湿剤、AHA、レチノイド
- (トップ層:ペプチド、成長因子)
最後に著者の言葉をちょっと長めに引用。
”スキンヘルス&ビューティーピラミッド”は、長年の臨床的証拠と実際のテストに基づいたスキンケアの哲学である。(中略)ピラミッドの「毎日必要なベース」と「必要かもしれないミドル」に対応する製品を患者が使用することで、スキンケアは効果的でシンプルかつ手頃なものになる。(中略)肌の健康と美しさを長期的に維持するためには、このピラミッドに従うことが最も効果的である。
皮膚科医&患者向けにスキンケアを体系化した今回のピラミッド、参考になれば嬉しい限りである。