「やらなければいけないことがあるのに、ついつい後回しにしてしまう」
こんな経験をしたことがある人は多いだろう。
しかもタチが悪いのは、先延ばしにしてもなんのメリットもないとは分かっているのに、つい先のばししてしまうことである。
今回は、そんな「先延ばしの原因と対策」を論文から紹介。
実は、先延ばしの要因には心理学的な要因が深く関わっているのである。
先延ばしとは?
そもそも先延ばしというのはどんなものなのか?
論文では以下のように定義されている。(R)
ネガティブな結果がポシティブな結果を上回ると予想しているにもかかわらず、意図的に必要または重要な物事に取り組むのを遅らせることKlingsieck et al, 2013
先延ばしするとき、誰もが先延ばしによってネガティブな結果になることは予想している。
それにも関わらず、物事を後にしようと考えてしまのが先延ばしである。
- 後で追い込まれると分かっているのに、ついつい部屋の掃除をしてしまう
- 重要な会議に向けた資料作りがあるのに、ついついどうでもいいメールばかり返してしまう
- 今日こそ転職先を調べようと思ったのに、ついついYoutubeをダラダラみてしまう
どの場合もすぐにやったほうがいい結果が得られることは自明であるし、本人もそれを自覚している。
実際に先のばしは、学業成績の低下、ストレスの増加、メンタルヘルスの悪化などとも関連している。(R、R、R)
まさに先延ばしは百害あって一利なしなのだ。
先延ばしの原因とは?
それでは、先延ばしの原因にはどんなものがあるだろうか?
その原因として挙げられているものをいくつか紹介しよう。
原因1:時間管理能力
まず第一に挙げられているのが”時間管理能力”である。
これは、先延ばしの原因として真っ先に思いつく能力だろう。
具体的には、時間管理能力とは「自分自身で目標を設定し、その目標を達成するためにタスクを優先順位づけして、時間を管理する能力」を指す。
実際に2013年の研究では、多くの学生は学習スケジュールを立てずに勉強をするために、試験などで準備の時間が足りないと報告されている。(R)
つまるところ、スケジュール管理をしたり優先順位をつけたりするのが下手だから先のばしをしてしまう、というのである。
この理論は一見もっともなように聞こえるが、実は時間管理能力だけでは先のばしは説明できない。
最近の研究で、もう一つ重要な要素として心理的要因があることがわかってきたのだ。
原因2:心理的柔軟性
先のばしの要因として挙げられるものの一つに”心理的柔軟性(Psychological flexibility)”がある。
心理的柔軟はあまり馴染みがない言葉なので説明を引用しよう。2021年の論文では以下のよう書かれている。(R)
自分が経験するかもしれないネガティブな経験、感情、考えを受け入れて立ち向かい、不快な感情や考えにも関わらず目標を達成する能力
要するに、心理的柔軟性とは「不快な感情を必要以上に避けることなく受け入れる能力」のことを指す。
なぜこの心理的柔軟性が先のばしに関係しているのだろうか?
それは心理的柔軟性が、ストレスの多い状況においてその人がどう行動するかの中心的な役割を担っているからである。
そして、先延ばしする人というのは、ストレスを感じる局面になると不快な感情を回避することが多いことが知られている。(R)
つまり、この不安などの不快な感情を避けようとすることこそが心理的柔軟性が欠如している人の特徴であり、先延ばしの原因なのだ。(R)
実際に心理的柔軟性が低い人は、困難でやりがいがあるけれどすぐに報酬が得られないタスクというのを先延ばしにすることが分かっている。(R、R、R)
わかりやすくいうと、目先の困難な課題に対したときの不安から逃げるために、簡単に報酬が得られる他の活動をしてしまうのである。
例えば学生であれば、困難な課題をやるという苦痛から逃れるために、掃除をしたり動画を見たりといった簡単なタスクに逃げ込む。
実際に2021年の研究では、先延ばしには不快な感情の回避という側面が強く、当人のネガティブな思考に対処する能力が先延ばしに大きく関与しているとされている。(R)
心理的柔軟性が低い人は不快な感情を受け入れることができないため、そこから逃れようと先延ばししてしまうのである。
原因3:自己効力感
この心理的柔軟性と関わりが深いのが、自己効力感である。
自己効力感とは「自分はこの課題をやり遂げることができる」という感覚のこと。
実はこの自己効力感が高いほど、先延ばしにすることが少ないことが報告されている。(R、 R、R)
これは先ほどの話を踏まえてみれば当然で、自己効力感が低いということは「自分はこのタスクをできるのだろうか」と不安を感じやすいということである。
心理的柔軟性が比較的高い人であっても、タスクに対する不安に襲われる回数が多ければ、その分回避行動として先延ばしにしてしまう可能性は高くなる。(R)
なので、自己効力感の低さというのは先延ばしのしやすさと関連するのである。
先延ばしは複合的な要因が絡まったもの
昔の研究では先延ばしといえば時間管理能力が関連しているとされていたが、最近の研究では先延ばしは心理的柔軟性、自己効力感などの心理的要因も深く関わっていることが分かっている。
タスクに対する不安などのストレスを受け入れる力が弱いと、その現実逃避として違うラクな行動に流れてしまうのである。
それでは、先延ばしを少なくするためにはどうしたらいいのだろうか?
先延ばしをなくすために、まずは心理的柔軟性を上げることが重要
その対処法としては、時間管理能力と心理的柔軟性向上の2つの能力の向上が重要になる。
自分の価値観は何かを特定する
まず心理的柔軟性を高めるためにできることとして、自分の価値観をはっきりさせよう。
そしてその後、自分にとって重要な価値観に沿った行動をとる時間をきちんとスケジュールするのである。
というのも、2004年と2006年の研究で、自分の価値観について考えて目標設定をすることは、時間管理能力においても、心理的柔軟性においても重要な要素であることが報告されている。 (R、R)
さらには、自分の価値観に沿う行動に時間を使っていると、幸福度も上昇するおまけ付き。 (R)
まずは自分の価値観をはっきりとさせ、その価値観に沿う行動に時間を使うようにスケジュールすることで、時間管理能力と心理的柔軟性の両方を高められるのだ。
不安な感情もACTで受け入れる
自分の価値観に沿う行動をする時間をスケジュールするようにしたら、次は”認知行動療法(ACT:Acceptance and Commitment therapy)”を取り入れるようにしよう。
具体的には、「タスクをやりたくない」「失敗したらどうしよう」などの不快な感情を拒絶するのではなく、それらの感情を受け入れ、ただ観察するのである。
そして不快な感情を受け入れながらも、その感情には従わず自分にとって大切な行動をするのが認知行動療法である。
実際に2019年の研究では、認知行動療法を実践することで、学生の心理的柔軟性と時間管理能力の両方が高まり、結果として学生の幸福度すら上がったことが報告されている。(R)
他にも2018年の研究では、認知行動療法によって学生の心理的柔軟性が向上し、結果として学生の自己効力感と学業成績が上がったことが報告されている。(R)
他にも、認知行動療法によって先延ばしが改善した例はいくつもある。(R、R)
認知行動療法で自分の感情を受け入れる能力を養うと、不安などの不快な感情が湧いてきても、自分にとって大事だと思える行動を取れるようになる。
これは心理的柔軟性が高いことを意味し、実際に行動できたという経験を積み重ねることもできる。
結果として、心理的柔軟性を上げることで自己効力感も上げることができるのである。
まとめ
どんな人でも、少なからず先延ばしには悩んでいるだろう。
今まで全く先延ばしをしたことがない人などいないはず。
タチが悪いのは、自分にとって価値ある行動ほど「失敗したらどうしよう」などの不安が湧いてくるもの。
しかし、そんなときでも不安になっていることに焦る必要はない。
自分が不安を感じていることや気晴らしに他のことをしたい気持ちを受け入れつつ、自分にとって重要な行動をすればいいのである。
ACTについてもっと詳しく学びたい人などは、以下の書籍などもおすすめ。参考までにどうぞ!