新年が明け、とうとう2022年が始まった。
1月1日は全人口の99%がダイエットを決意する日だが、巷では「新年の抱負ではSMARTな目標を立てろ!」みたいに言われているらしい。
そうすれば健康な食生活が手に入り、ダイエットが成功するんだとか。
ちなみにSMARTとは、あいうえお作文の要領で頭文字をとった目標設定の方法。
- Specific :具体的である
- Measurable :測定可能である
- Achievable :達成可能である
- Reality/Relevant :関連性がある
- time framed(bound):期限付きである
しかし、SMARTな目標を立てろ!と言われると逆に疑いたくなる性格の自分。
というのも、SMARTは元々ビジネスの世界でマネジメント層向けに開発されたもの。
へそまがりな考え方だが、ビジネスの目標で通用してもダイエットに通用するとは限らないのである。
結末をバラすと、今回の1つ目の話題は「SMARTな目標はダイエットに役立たないぞ!」というもの。
そして、2つ目の話題は2022年こそダイエットを成功させるためのコツになる。
新年の抱負をSMARTにしても達成率は上がらず
まず紹介するのは2020年の「新年の抱負はどうすれば達成できるのか?」を調べた研究。(R)
参加者はノルウェー在住の成人1066人で、まずは2016年の12月最終週に、翌年2017年の新年の抱負を立ててもらった。
堂々の第一位は身体的健康で33%、2位は同じみダイエットで20%、食生活の改善が13%で、その後は自分磨き9%、メンタルと睡眠の改善5%…と続く。
このようにして参加者はおのおの新年の目標を立てたのだが、実はランダムに3つのグループに振り分けられている。
- サポートなしグループ:新年の抱負を書き、その後アンケートで進捗を回答
- サポートありグループ :① + ソーシャルサポート
- 拡張サポートグループ :② + 目標設定の戦略3選
①のグループは、新年の目標を書いてその都度アンケートで進捗を報告した。
このアンケートでは、目標達成率を0%(新年の抱負は完全に捨て去った)から100%(新年の抱負を守っており完璧に計画通り)の10段階で評価してもらった。
さらには”自己効力感・先延ばし・生活の質”などに関する質問も実施。
②のグループは、①のグループと同じように新年の目標を決めてもらったのだが、その際にソーシャルサポートは目標達成に役立つことも教えられた。
実際に1年間支援してくれる人を指名してもらい、目標達成のためにソーシャルサポートが受けられるようにした。
③は、②のグループに加えて目標設定に関する3つの戦略を取り入れたグループ。
- SMARTな目標を設定する
- 回避目標ではなく接近目標を立てる
- 中間目標を立てる
まず1つ目の戦略として、先ほども話したSMARTな目標設定をしてもらった。
- Specific :具体的である
- Measurable :測定可能である
- Achievable :達成可能である
- Relevant :関連性がある
- time framed(bound):期限付きである
具体的な例を挙げるなら『いつまでも元気でいるために(関連性)3月までに(期限)体重を2kg減らす(具体的&測定可能)。
そのために、夕食で野菜を1皿食べる(具体的&達成可能)』みたいな感じだろう。
2つ目の戦略は”〇〇しない”という回避目標ではなく、”〇〇する”という接近目標を立てるというもの。
例えば、「加工食品/お菓子を食べない」ではなく「野菜やフルーツ/タンパク質をたくさん食べる」といった感じ。
最後の戦略として、1年の目標を達成するために2ヶ月ごとに中間目標を設定してもらった。
回答してもらったアンケートの目標達成率70%以上を成功に分類し、目標達成率60%以下を失敗と分類し、参加者たちの2017年の新年の抱負を調べたところ以下のような結果に。
- 目標達成率が一番高かったのはソーシャルサポートのみを利用したグループ②で、拡張サポートグループはサポートなしグループと同じだった!
- 接近目標を立てた参加者の58.9%が目標を達成したのに対し、回避目標を立てた人は47.1%しか目標を達成しなかった!
- 目標達成に成功した参加者は、目標達成に失敗した参加者に比べて自己効力感(効果量0.30)と生活の質(効果量0.38)が高かった!
なんと、新年の目標達成率が一番高かったのグループ②であり、SMARTなどの戦略を使った拡張サポートグループはサポートなしグループと変わらなかったのである。
グループ②は目標達成率が高いことから、ソーシャルサポートは効果的だった模様。
そして、個人で見ると回避目標を立てた人より接近目標を立てた人のほうが目標達成率が高かった。
にも関わらず、これらの戦略とSMARTを組み合わせたグループ③はグループ①と達成率が変わらないという結果に。
つまり、効果的な戦略であるソーシャルサポートや接近目標のメリットをSMARTのデメリットが相殺したのでは?と思えるような結果になった。
しかし、これはあくまで参加者の主観的尺度で”成功/失敗”を分類しただけの目標達成率。
SMARTを庇う見方をするなら、SMARTで目標が具体的になりすぎた分参加者の失敗が明確になった可能性はある。
なんとなく「食生活を改善する」は気まぐれで成功と判断できるが、「1ヶ月以内に2kg痩せる」だと出来なかったら失敗とみなすしかない。
しかし、他の研究によると、どうやらそういうことでもないらしいのだ。
SMARTな目標は体重変化と関係しなかった
ということで、次に紹介するのは2020年の「ダイエットにおける目標設定はどんな効果があるのか?」を調べた研究。(R)
この研究は糖尿病予備軍157人を対象にしたもので、参加者はクリニックで看護師と減量目標を設定しダイエットに挑むというもの。
元々は”最新のエビデンスに基づく教育をされた看護師”と”従来の治療法を学んだ看護師”による効果を比較した研究で、エビデンス看護師と目標設定した参加者が今回の話題にピッタリとなる。
このグループに振り分けられた85人は、まず現実的な目標である体重の5~10%の減量目標を立ててもらった。
そして、減量目標を達成するために平均3つの食事目標を設定してもらった。
- 野菜/フルーツを増やす
- 炭水化物を減らす
- 高脂肪食品を減らす
- 食事量を記録する
- 健康的な食事を選ぶ
- 甘いものを減らす ….他
このとき、目標をSMARTかどうかで分類した。例えば「食べる量を減らす」はSMARTでない目標と判断され、「1日あたり2人前の野菜をリストから選び夕食に加える」ならSMARTと判断された。
参加者の内訳は
- 3/3がSMARTな人:33%
- 2/3がSMARTな人:24%
- 1/3がSMARTな人:24%
- 0/3がSMARTな人:9%
である。
6ヶ月間参加者にダイエットしてもらったところ、以下のようなことが判明した。
- 被験者の半数以上(55%)がいくらか体重を減らしたが、目標に達成したのは7人(8.5%)だけだった!
- SMARTな目標の設定と体重変化には一切関係がなかった。
SMARTで具体的な目標をいくつ立てようが、ダイエットの成功率は変わらなかったのである。
それどころか、先ほどの研究結果も考えるとSMARTは無駄に挫折感を味わい自己効力感と生活の質を下げる可能性が高い。
SMARTな目標作りなんか捨てて、先ほどの研究同様ソーシャルサポートを活用するほうが断然ダイエットの成功率は上がるのである。
そして「お菓子を食べない」などの回避目標より「野菜を食べる」などの接近目標にすることも新年の抱負としては賢いと言える。
目標設定より重要なダイエット成功率を爆上げする認知戦略
とはいえ、2022年こそお菓子を食べるのをやめたいと思っている人も多いだろうし、食欲に打ち勝ちダイエットを成功させたい人も多いだろう。
そんなあなたに、食欲に打ち勝ちダイエットを成功させる秘策を紹介しよう。それも超簡単な方法である。
私からのお年玉だと思って受け取ってほしい。
『もし今の生活を続けたら1年後の自分はどうなってひどいことになっているだろうか?』
このことを頭の中で考え妄想を膨らませるだけで、食欲に打ち勝ちダイエットの成功率が格段に上がる。
このことを示したのが、つい10日前くらいに出た「ダイエットに有効な認知的戦略は何か?」を調べた研究。(R)
被験者となったのは肥満男女95人で、参加者はiBWLというインターネットプログラムで12週間のダイエットを行った
iBWLとは、食欲への対処法や目標設定などのダイエット知識を学べるオンライン講座。
参加者はこのネット講座を受けながら、体重・摂取カロリー・身体活動量などをインターネット経由で提出することでダイエットをした。
このiBWLプログラムを実践してもらう際、参加者は認知的戦略の違いで3つのグループに分けられている。
- 予防グループ
- 促進グループ
- コントロールグループ
まず予防グループだが、参加者に対して、高カロリー食が食べたくなったとき「ダイエットを先延ばしにする日々を送ったら未来の自分はどんなにひどいことになるだろうか?」と恐ろしい未来を描いてもらった。
具体的な方法は以下の通り。
- 1〜5年後の未来の自分を具体的に想像する(特定の場所・セッティング・イベントなど、出来るだけ具体的に)
- 『もし今日からその日まで、健康的な変化を何も起こさず、常に食べ過ぎを続け、運動を避けていたら自分はどんなふうに考え何を感じるだろうか?』と想像する
高カロリー食品を見て食欲に負けそうなときは「欲望に負け続けた未来の自分が何を考え、何を感じるか。(そして、それがどれだけひどいものか)』を考える時間を取るように指示したのである。
実験前には、参加者は高カロリー食のプレゼンテーションを見せられ、この妄想を実践するという練習もしている。
そして、参加者が自分の将来像を明確にイメージできるようになるまで練習は続いたらしい。
一方で、促進グループは真逆の妄想。
具体的な方法は同じだが、最後に健康的な食事と運動を続けたときの自分の(ポジティブな)将来像をイメージしてもらった。
そして、ダイエットがもたらす効果についても、それぞれのグループは予防と促進に焦点を合わせた別々の教育をされている。
例えば、予防グループは減量に成功したら『糖尿病や心臓病を防げる』と想像してもらった。
一方で、促進グループには減量に成功したら『体を動かせるようになって孫と遊べる』と想像してもらった。
またiBWLの細かいレッスン内容も予防と促進で違うという徹底ぶり。
例えば、予防グループは運動のレッスンで”体重増加・心臓病のリスク増加・体力低下”など運動不足のデメリットを説明されている。
それ対して、促進グループでは”体重減少・心機能の改善・運動能力向上”など運動によるメリットが説明された。
このようにして12週間にわたり参加者はiBWLを用いてダイエットをし、実験開始時とダイエット終了後に研究室で体重測定をしたところ以下のような結果に。
- 体重を最も減らしたのは予防グループで、促進グループとコントロールは同次くらい体重が減った。(予防:-6.6% 、促進:-4.4% 、コントロール:-3.1%)
- 体重変化の5%以上を減らした参加者数は予防グループが一番多かった!(予防:59.4%、促進:21.9%、コントロール:35.5%)
- 体重の10%以上を減らした参加者の数も予防グループが一番多かった!(予防:21.8%、促進:3.2%、コントロール6.3%)
食欲に負け続けた末の悪い未来を想像したグループのほうが体重が減り、大幅な体重減少を達成した人もダントツだったのである。
人間には「損失を利益よりも大きく感じる」というプロスペクト理論があるが、どうやらこれはダイエットにも応用できるらしい。
2022年こそダイエットを成功させるために
実際に試してみればわかるが、未来の自分がひどい有様になっていることを想像すると驚くほどダイエットの成功率が上がる。
食欲に負けそうになったら、すぐさま妄想の世界に飛び込めばいいだけなので場所も選ばない。
「仮に今日食べ過ぎたとしよう。それが365日続いたら、来年の今頃はどんな体型だろうか。自分の体型を鏡で見て、自分は何を考え何を感じるだろうか」
実践するときのコツは、圧倒的に練習を重ねて超リアルに想像できるようにすること。
リアルに想像できるようになると、嫌な感情が胸いっぱいに広がりもう少し頑張ろうという気持ちになれる。
2022年こそダイエットを成功させたい人は、SMARTな目標設定は不要。目標体重を決めたら、あとは効率的に痩せるカロリー設定してダイエットを続けるだけ。
効率的なカロリー設定に関しては以下の記事で詳しく説明している。
あとは、今回説明したソーシャルサポートと悪い未来の想像という強力な武器を使えば鬼に金棒。
そうすれば、2022年はダイエットが成功し、来年は新年の抱負を”ダイエット”にしなくて済むだろう。