「失敗を恐れずに挑戦しろ!」
とはよく言われる話。
しかし、頭では分かっていても先のことを考えてしまってなかなか一歩を踏み出せないという人も多いだろう。
今回は、論文から「失敗を恐れないために重要なマインド」の話。
「ヒトの才能は伸ばせる」と思っているマインドの人ほど、失敗を恐れずに挑戦できることが分かっている。
能力は才能?それとも努力で伸ばせる?
皆さんは、自分の”能力”についてどう考えているだろうか。
「数学なんて勉強すれば誰でもできる」と思って努力する人もいれば、「自分は勉強の才能がないから」と勉強を諦めてしまっている人もいるだろう。
研究によって、自分の能力について2つのマインドセットがあることが知られている。(R)
- 固定マインドセット(Fixed Mindset)
- 成長マインドセット(Growth Mindset)
固定マインドセットは、ヒトの能力を固有のもの、つまり才能だと考えている。
能力は生まれつき持っているものなので、仮に勉強が出来なかった場合には「才能がないから」と考えてしまう。
一方で成長マインドセットは、ヒトの能力は固有のモノではなく練習次第で伸ばせるものと信じている。
なので、仮に勉強が出来なかった場合には「自主学習が足りなかった」と思うかもしれないし、「もっと良い勉強法を試してみよう」と考える傾向にある。
どちらか一方のマインドセットしか持っていないという人はおらず、ほとんどの人が固定マインドセットと成長マインドセットの両方を持ち合わせているだろう。
例えば、英語の能力であれば、(海外で生まれたわけではない限り)何の勉強も無しに英語がぺらぺらに話せるようになると思っている人はいないだろう。
一方で、絵や音楽などの芸術分野の話となると、「自分には絵(音楽)の才能がないから」と諦めるヒトの割合がぐっとあがるだろう。
自分の能力に関する信念として、どんな人も固定マインドセットと成長マインドセットの2つを持っている。
しかし、実はどちらのマインドセットが有利かによって、挑戦への態度は大きく変わるのだ。
成長マインドセットはチャレンジャーの証
自分の能力に関する信念であるマインドセットだが、実は挑戦する姿勢に影響する。
今までの研究から、成長マインドセットのほうが果敢にチャレンジできることが分かっているのだ。
このことを示したのが1999年に行われた香港大学の学生を対象に行われた研究。(R)
香港大学では全ての授業が英語で行われるのだが、もちろん彼らは母国語が英語ではないので、誰もが英語を流暢に話せるわけではない。
そこで、研究者は学生たちに「もし可能であればハイクオリティの英語補修クラスを受けたいですか?」と聞き、学生の学習意欲を調べた。
まず固定マインドセットの学生だが、彼らは英語が苦手な場合でも講座を受けたがらない傾向にあった。
というのも、固定マインドセットの人にとって英語の補修を受けることは「自分の無能さ」の象徴になってしまうからだ。
「補修を受けるヒト=英語の才能がないヒト」という図式になってしまっているのだろう。
一方で、成長マインドセットを持っており、なおかつ英語が苦手な生徒は、この補修の受講にかなり積極的だった。
固定マインドセットの学生と違い、たとえ今の自分に「英語ができない」という欠点があったとしても、その資質を伸ばし改善するためなら欠点をさらけ出すこともいとわないのである。
これはチャレンジシーキング仮説と呼ばれ、成長マインドセットの人は積極的に挑戦することが知られている。
成長マインドセットの人にとって、挑戦は自己成長の機会でしかない。
挑戦しない理由がないのだ。
成長マインドセットの人はレジリエンスも高い
成長マインドセットの人は困難に挑戦するだけでなく、失敗したときの立ち直りも早い、つまりレジリエンスが高いことが知られている。
というのも、自分の能力が変えられないと信じている固定マインドセットの人は、否定的なフィードバックに対して建設的な努力ができないのだ。
このことを示したのが2008年の研究。(R)
この研究は大学生29名を対象に速読課題を実施したもので、課題後には彼らに成績が下位37%であることを伝えた。
つまり、彼らに「あなたの成績は平均以下だった」とネガティブなフィードバックを行ったのである。
このとき、被験者は「ヒトの知能は生まれつき」という文章を読ませたグループと「ヒトの知能は伸ばすことができる」という文章を読ませたグループに分けられた。
固定マインドセットを誘導されたグループと成長マインドセットを誘導されたグループである。
このようにしてネガティブなフィードバックをされた両グループだが、フィードバック後の対応は真逆だった。
固定マインドセットに誘導されたグループは下位のグループと自分を比較したのに対して、成長マインドセットに誘導されたグループは上位のグループがどんな戦略を取ったのかに興味を向けたのだ。
実は、ヒトはネガティブなフィードバックを受けたとき、まずは現実的な解決策を考えるが、現実的に対処が不可能だということを悟ると自尊心を守る行動をとることが知られている。(R)
成長マインドセットの人は自分の能力を向上できると考えているので、ネガティブなフィードバックにも現実的な解決策を用いる。
つまり、彼らはフィードバックを成長の機会と捉え、学習プロセスの一部と考えているので、建設的な努力ができる。
一方で、固定マインドセットの人は自分の資質を変えられないと信じている。
なので、自分の能力が低いという否定的なフィードバックに直面しても、現実的に対処することができない。
だって、努力しても自分の能力は伸ばせないのだから。
結局、否定的なフィードバックは自分の自尊心を脅かす存在でしかない。
自分の能力を伸ばして自尊心を回復することができないので、自分よりも劣っている人と比較することによって自尊心を回復させる。
建設的な努力ができないのだ。
他にも脳科学の分やの研究で、成長マインドセットの人は、失敗したときに固定マインドセットの人よりも、エラー修正に関する脳内領域がより活性化するという報告もある。(R)
ミスをしたときに脳がエラーを修正することにリソースを多く使うため、固定マインドセットの人よりも再度ミスをすることが少なかった。
成長マインドセットの人は、失敗してもそれを成長の機会と捉えることができる。
そうなると脳は再度同じミスをしないように活性化し、まさに成長マインドセットの人は失敗から学ぶことができるのである。
成長マインドセットの育て方
成長マインドセットを育てるためにはどうすればいいだろうか。
実は、単に「脳が成長可能だ」という事実を知るだけでも十分。
例えば2003年の中学1年生を対象にした研究では、「脳は筋肉のよう」という比喩を利用した実験が行われている。(R)
キツイ勉強によって脳は新しい繋がりや、より強い繋がりによって強化されるという考えを勉強が出来ないと思い込んでいる子供たちに教えたところ、何も教えなかった場合よりも学力テストのスコアがあがったのだ。
この研究は勉強が苦手だと思い込んでいる子供が対象だったが、他の研究で元々成績がいい子に対しても成長マインドセットは効果的なことが示されている。
例えば2016年の研究では、成績が良い子供に成長マインドセットを教えたところ、チャレンジする意欲が向上したことが報告されている。(R)
もう一度、成長マインドセット研究で教えられていることを繰り返そう。
脳はニューロンのネットワークで構成されており、新しいことや難しいことを学ぶとこれらのネットワークが強くなり、より効率的になる。
新しいことや困難な問題に直面した時は、この「脳は成長させることができる」という事実を思い出してみるのがいいだろう。
成長マインドセットは大事だが、、、
成長マインドセットは、失敗を恐れずに挑戦する力や、失敗から立ち直る力を私たちに与えてくれる。
とはいえ、ここで注意点が一つある。
研究者が「偽りの成長マインドセット」と呼んでいる、間違った成長マインドセットを身に着けないようにする必要がある。(R)
偽りのマインドセットにはどんな特徴があるだろうか。
それは、効果的でない努力を手放しで褒めてしまう、ということ。
もちろん努力することは大事だが、それは努力以外の全要素をないがしろにしていいというわけではない。
優れた戦略を考える、適切な指導者を探す、人脈を活かす、など他の重要な要素も忘れてはならない。
努力で自分の資質を伸ばせると信じることは重要だが、かといって努力すれば他のリソースは全て無視していいわけではない。
常に効果的な努力を考えることも同じくらい重要なのである。
まとめ
今回は失敗を恐れずに挑戦し続けるために必要な成長マインドセットについてまとめた。
「自分の能力は伸ばすことができる」という事実に気づけば、失敗は絶好の成長の機会となる。
そうなれば自分から積極的にチャレンジできるし、仮に失敗してもそれはむしろ学びのチャンス。
失敗が怖くなったときは、脳は新しいことや難しい課題で”強化”されることを思い出してみてはいかがだろうか。
そして何より、自己成長する人のほうが幸せが大きいことも忘れてはならない。
ぜひお試しあれ!