長時間労働は体に悪い!
日本では常識になりつつあるこの考えですが、実は労働時間が短ければいい...というわけでもありません
今回は論文をもとに「長時間労働が健康に与える悪影響」を紹介。
- 多くの健康リスクは働きすぎも働かなすぎも良くない
- ただ睡眠時間だけは働きすぎが絶対的に良くない可能性がある
- 月60時間以上働いている人は働きすぎなので労働時間を見直すべきかも
長時間労働が健康に及ぼすさまざまな影響についてみていこう。
長時間労働は心臓や血管に悪影響を及ぼす?
まず最初に労働時間が悪影響を及ぼすのが”心臓や血管”の健康である。
労働時間が長すぎたり、逆に短すぎたりすると心血管系の病気にかかるリスクが増えます
長時間働き過ぎると心筋梗塞のリスクが増える
1998年に日本人を対象にして「労働時間と心血管系の病気リスク」を調べた研究が行われている。(R)
被験者となったのは30-69歳の男性526人で、研究者は心筋梗塞の発症リスクと労働時間の関係を調べたもの。
この研究では、労働時間が1日7時間未満の人と11時間以上の人は心筋梗塞になりやすいことが報告されています
労働時間が長すぎても短すぎても心筋梗塞のリスクを高める結果となり、長時間労働と心筋梗塞のリスクの間にはU字型の関係が見られた。
長時間労働で心筋梗塞のリスクが増える原因として、自立神経の興奮が過剰になることが挙げられている。
- 長時間労働で交感神経の活動が活発になる
- 血圧が高まって心臓に負担がかかる
- 心筋梗塞を発症するリスクが高まる
ちなみに労働時間が短過ぎても心筋梗塞が高まる理由は”失業者”が関係しているとされています
失業してしまった人というのは当然ながら労働時間がないので、アンケートでは労働時間が短いグループに入ってしまう。
そして失業によるストレスはかなり大きく、心臓病やガンによる致死率を上げることが分かっている。(R)
失業者がいたことによって、労働時間が短い人においても心筋梗塞のリスクが高いという結果になった可能性があります
長時間労働と高血圧のリスクもU字型の関係性がある
そして心筋梗塞の原因ともなる高血圧だが、長時間労働と高血圧の関係性にもU字型がある。
週61時間以上の長時間労働が高血圧のリスクを上げるという研究もあれば、1日8時間以上の労働は高血圧のリスクを下げるという研究もある。(R)
長時間労働による働きすぎは高血圧を引き起こす可能せがありますが、極端でなければ大丈夫だと言えそうです
長時間労働は糖尿病のリスクを高める・・・?
糖尿病も、長時間労働によって影響を受けるとされる健康リスクの一つ。
糖尿病は労働時間が長いほど発症リスクが少ないとした研究も、その逆の研究もあります
まず、労働時間が長いほど糖尿病のリスクが減ることを示した研究として、2001年の論文を紹介しよう。(R)
被験者となったのは35-59歳の日本人男性1266人。労働時間と糖尿病に関するアンケートを行った。
結果として、8時間未満の労働における血糖異常や糖尿病になるリスクを1.0としたとき各労働時間の発症リスクは下記のようになった。
- 8-9時間労働:0.82
- 9-10時間労働:0.69
- 10-11時間労働:0.63
- 11時間労働:0.50
直感に反して、労働時間が長いほど糖尿病の発症リスクは下がりました
なぜこのような結果になったのか?
ハッキリとした原因はわからないが、研究者は考えられる要因としては”エネルギー消費量”を挙げている。
というのも各労働時間に属する人のエネルギー消費量は、労働時間が長いほど高かったのだ。
- 8時間未満:2317kcal/日
- 8.0-9.9時間:2412kcal/日
- 9.0-9.9時間:2488kcal/日
- 10.0-10.9時間:2510kcal/日
- 11.0時間では2611kcal/日
つまり、労働時間が長ければ長いほど消費カロリーが大きく、この高い消費カロリーが糖尿病リスクの減少につながったというのである。
とはいえ、この研究では、労働時間が11時間以上の人は、野菜の摂取が少なかったり運動の頻度が少ないなど、不健康な生活に陥りやすかったことも報告されている。
そして労働時間が長いほど糖尿病のリスクが上がるとした研究もあります
日本人男性2194人を対象にした研究。月50時間以上の残業をする人は、月25時間以上の残業をする人に比べて糖尿病のリスクが高かった
意外なことにいまだに労働時間が糖尿病に与える悪影響はハッキリしない。
とはいえ不健康な生活に陥りやすいことや他の健康リスクを考えると、やはり長すぎる時間を働くのは避けた方がいいだろう。
働きすぎはうつ病の原因になる
長時間労働といえば、うつ病をイメージする人も多いだろう。
このうつ病に関しても、働きすぎも働かなさすぎもよくないことがわかっています
まず長時間労働がうつ病の原因となることを報告した例として、2018年の研究を紹介しよう。
被験者となったのは日本人の男性研修医1241人。被験者に労働時間とうつ病に対する質問票に答えてもらった
研修医という長時間労働に陥りがちな人を対象に、うつ病を調べた研究です
結果として、週80時間から99.9時間の労働は週60時間未満の労働と比較して2.83倍、100時間以上の労働は6.96倍もうつ病の発症リスクが高くなることが報告された。
勤務時間が長くなるほどうつ病のリスクは高く、週100時間以上勤務している研修医のうち、実に45.5%もの人が重度のうつ病をわずらっていたのだ。
とはいえ、労働時間が短いほどいいかというと話はそう単純ではなさそうです
例えば2016年には韓国人2733人を対象にした研究が行われているが、この研究でも労働時間とうつ病リスクにはU字型の関係が見られたことが示されている。(R)
一番うつ病のリスクが高いのは週68時間以上の長時間労働をしている人たちで、一番うつ病になるリスクが低いのは41-52時間/週の人たちだった。
働きすぎのほど悪影響はありませんが、労働時間が少ないほどいいというわけでもなさそうです
もちろん長時間にわたって働き過ぎるとうつ病になるリスクが爆増する。
しかし働く時間が短いほどいいかというとそういうわけではなく、労働時間とうつ病の関係にもU字型の関係があるらしいのだ。
日常のストレスもU字型の関係がある
うつ病に関連したものとして、実はストレスも労働時間とU字型の関係があることが知られている。
1日10時間の労働や月40時間以上の残業、月60時間以上の労働はストレスを作り出す。(R、R、R)
一方で週45時間以上の労働で心理的ストレスが減るという結果を報告した研究もある。(R)
一般的には働きすぎも働かなさすぎもストレスになるので、”ほどほど”が良さそうです
労働時間が長いほど睡眠障害に悩む
労働時間の長さと関係する健康リスク、最後は睡眠です
睡眠に関しては、労働時間が長い人ほど睡眠障害になる可能性が高い。
例えば2011年のホワイトカラーの男性1510人を対象にした研究がある。
ホワイトカラーの労働者男性1510人を対象にした研究。
残業時間が月50時間以上の人は、残業時間が月26時間未満の人よりも睡眠の質が低い傾向にあることが報告された
他にも2017年の研究では、労働時間が週48時間以上の人は、週48時間未満の人に比べてうつや不安症状に悩まされることが多く、睡眠の質が悪かったことが報告されている。(R)
2019年の長時間労働のリスクを調べたメタ分析でも、短時間睡眠は長時間労働によって引き起こされる最も深刻な健康問題であるとされている。(R)
睡眠不足というのは、心疾患・肥満・高血圧・2型糖尿病などさまざまな病気のリスクにもなる。(R)
なんだか睡眠の質が悪い...という悩みを抱えている人は一度労働時間を見直したほうがいいかもしれません
働きすぎも働かなすぎも良くない
残業時間が60時間を超えている場合などは、労働時間が長すぎることによる健康リスクが生じる。
とはいえ「労働時間が短ければ短ければ良い」というわけでもなく、多くの場合は労働時間と健康リスクの間にはU字型の関係性が存在する。
労働時間はとにかく減らすほどいい!とは残念ながら言えなさそうです
とはいえ現代では労働時間が長いことのほうが多いのも事実。あまりに働きすぎだと感じたら一度労働時間を見直してみるのもいいかもしれない。